第10話 真の目的

 「なん…だって!?」

裏切られたショックを隠し、まっすぐ結崎を見ながら疑問を投げかける玉城。

「なんだって…ですか? それはそこにいる木守こもりの次期当主に聞けばよろしいのでは? 

詳しーく教えてくれますよ?」

 「おい木守! どういう事だ?!」

黙っていた木守が口を開く。

 「実は…木守─コウモリ族は代々天使を見張り守る一族なんです。

一家族に一人だけしかその任務を担う子は生まれないんですが、同じ年代に最初に翼がある子供が生まれたらその子が後を継いで守る役目を担っていて…」

そこで一旦区切ってから、こう続ける。

 「結崎も木守と同じコウモリ族の家系なんですが、俺の方が先に生まれたから今世代こんせだいは木守がその番になったんです」

 「そう…だったのか…」

「あら、まだ話は終わってないわよ?」

意地悪そうな表情で結崎が話を続ける。

「五代前から木守がその役目を独占していたんですもの、結崎は『オマケ』とか屈辱的な事を言われ続けてきたのよ! その悔しさがあなたに分かる?! 

ずっと…ずっと祖母に言われていたの。結崎がその役目を木守に取って代わるのは私にかかっているって!」

 そう叫んだ背後で、ベルトリクスはさらに眩しく輝きだす。風が起こり、神父も玉城も木守も飛ばされないように必死に教会の椅子にしがみつく。

 そんな中、木守がボソッと玉城に呟く。

「せん…玉城さんは何があっても俺が守ります。

それに彼女は見張りの役にはなれません」

「…何で?」

「詳しくは無事に生き残ったら教えます」

 ステンドグラスも割れそうな位の風圧の中、木守がそう告げた。

 「もうすぐよ。この国を滅ぼすか彼女が次の天使を生むか決める審判の時は!」

そう言いながらベルトリクスの方を向く結崎。

 その瞬間!

 「『うるさい』」

いつもとは違う声のベルトリクスが、喋ったと同時に結崎に人差し指を向けてビームらしき物を放った。

 「ギャアアアアッ!」

一瞬で黒焦げになる結崎。

 「なっ?!」

「これは…」

「『私の邪魔をしおって…』」

虫けらでも見るような目で結崎を見下ろした後、玉城と木守、神父の順番で見回す。

 「『さて、審判の時だったな。ふむ…』」

少し考え込みながら手に持った卵のカラと羽根を見つめる。その後玉城達の方に目線を向けて、

「『此度こたびの同行者はお前か?』」

そう言いながらベルトリクスは玉城を指差す。

「そうです! 先輩です!」

「『コウモリ、お前には聞いとらん』」

「すいません…」

「『それで、コウモリの言う通りなのか?』」

 「……はい」

覚悟を決めた表情でベルトリクスを見ながら返事をする玉城。

「『そうか…コウモリ』」

「はいっ!」

木守を見てベルトリクスはニヤリとしながら、

「『善き者を見つけたようじゃな。大事にせいよ』」

「はっ、はいっ!」

「『善き者もいればあしき者もおる。まあ、今回は旅が楽しくミカンも旨かったので、多めに見ようかのう』」

 そう言うとさらに眩しく光るベルトリクス。

木守は玉城を守るかのように翼を使い身を呈している。

 そのうち、光が収縮しベルトリクスが地面…というか室内なので床に降り立った。

 「ベルトリクス…様?」

木守をよけて玉城はベルトリクスを見ると、羽根と卵のカラは消えて、代わりにベルトリクスは腕の中にダチョウよりも大きな卵を抱えていた。

「…木守、説明して」

目まぐるしい展開が続き、脳ミソがそれに追い付いていなかったので、玉城は肩より長めの髪の毛を整えながら木守に助けを求めた。

「えーと、あの卵は次世代の天使なんです」

「…天使って、単独で子供を生めるの!?」

 「見た目は男女に分かれていますが、まあ大体は」

 驚きのあまり、目をまん丸にしてしまっている玉城。

 「父の教えは本当だったのか…ありがたやありがたや」

そう言いながら手を合わせベルトリクスを拝む神父。

「…木守、この方は?」

「ここの教会の神父さんです。代々ここをお守りしている方で」

 ぐうううう~

その時お腹が鳴る音がして、ベルトリクスが一言、

 「お腹…空きました…角煮まんじゅう食べたい…です」

と、いつもの調子で呟いた。

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