第9話 最果ての島へ

 「駄目だ…やっぱり繋がらない…」

 何度も電話をかけてみるが結崎に繋がらない。さすがの玉城にも焦りの色が見える。

木守は木守で別の所に電話をかけているようだ。

 「はい…本当ですか!? 分かりました! では港で」

電話を切った後、

「先輩! ベルトリクス様の行き先が分かりました!」

「本当か木守!」

「さっき港から船に乗り込む結崎さん達を見た人がいるそうです。車の特徴も似ているそうです。確かなスジからなので間違いないかと」

「でかした木守! よし、追いかけるぞ!」

木守の頭をわしわし撫でて誉める玉城。

 「せ、先輩…さすがに恥ずかしいです…」

珍しく照れる木守。

「あ、す、すまない」

思わずやってしまった行動に玉城も我に返り照れてしまった。

 「じゃあその港に向かおう!」

その辺でタクシーを捕まえて港に向かう。


 「ここから…か?」

そこは何処からどう見ても普通の漁港だった。

 木守は情報収集のため、そこにいた人に話を聞いている。

「先ぱ~い、やっぱりここで乗り込んだようです。車もあそこに」

木守が指差す方向に結崎が乗っていた車が乗り捨てられていた。

「そうか…多分フェリーは今日は出発しないから一般の船に頼んで出港してもらったんだろう」

「目的地が最西端の島だ。って、会話を聞いていた人からの情報です」

「木守…よくそこまで聞けたな」

「あと、漁船しか無いですけど、お金次第でその島までダッシュで送ってもらえるそうです」

「本当か! ぜひ!」


 小さな教会の長椅子に横たわり眠るベルトリクス。

 「う…ん…」

目を覚まし、ゆっくり起き上がりながらどうして眠ったのかをおぼろ気ながら思い出す。

(確か…あの人から飲み物を差し出されて…それを飲んだら眠く…なって…)

ベルトリクスが起きた事に気づき、側にいた結崎がひざまずく姿勢を取りながら、

「おはようございますベルトリクス様」

挨拶をしてキャリーバッグをベルトリクスに差し出した。

ベルトリクスはそれを素早く奪うと、周りを注意深く見渡す。

 「ここは…」

「ここは『約束の最果ての島』あなたの旅の目的地ですよ」

「…なぜ、それを」

「お忘れですか? ここまでお連れするのは木守の役目…ですが今回は結崎がその役目を担う事になりました」

「結さ…き…って…」 

 「おや、お母様からお聞きになっておりませぬか? あなた様一族をお守りする眷属の名前を」

そう言いながらキャリーバッグのフタを開け、中身をベルトリクスに見せる。

 「やめて…開けないで!」

「さあ、今度はあなた様が役目を果たす時です!」

 「そこにいるのは誰じゃ!?」

 教会の外から神父だろうか、ローブを着た老人が教会内に入ってきた。

 「おや、ここの神父様でございますか? それでは見届け人が揃いましたね」

そう言いながら結崎は上着を脱ぎ、上半身は背中が開いている服だけになる。

 そして背中に木守と同じコウモリの翼を出しながら、

 「さあ、時間です。コウモリ族結崎カレンがベルトリクス様の審判の見届け人になります。ベルトリクス様、荷の中の物を」

結崎がそう言った途端、バッグの中の物─大きい卵のカラと羽根が光り浮かび上がってベルトリクスが持つと、それに呼応してベルトリクスも天使の羽根と輪を出して空中に浮かぶ。

 その姿は神々しいが、目が虚ろで生気が感じられない。

 「おお、これが!」

うっとりした表情で結崎が見ていると、

 「そこまでだ!」

玉城と木守が教会内に侵入してきた。

 「…これは!?」

「あら、玉城先輩いらしたんですか? ちょうど始まりますよ」

「始まる?」

 ニヤリとした表情で結崎は言った。

「この国の行く末を決める審判の時ですよ」

「なん…だって!?」

「知らなかったんですか? ベルトリクス様がこの地に来た目的は、この国を滅ぼすか決めるためですよ」


 

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