第7話 ミカンと初めてのラーメン

 「これが…本当にミカンの親戚なんですか!?」

駅ビルの八百屋店頭に並ぶたくさんの柑橘類かんきつるいを見ながらベルトリクスが驚く。

 「はい。ここの地域は昔お殿様に仕えるお侍が多く住んでいて、庭に夏みかんの樹を植えていたのと気候が栽培に適しているという理由で柑橘類が多いのだそうですよ」

「先輩、このミカン美味しいですよ。おひとつどうぞ」

いつの間にかミカンを買っていた木守が玉城達に手渡す。

 「ありがとう…」

そう言いながら受け取り、そのまま今日宿泊するホテルへと向かう。


 ホテルの部屋にベルトリクスを置いて部屋の外に出た玉城と木守。

 「なあ木守、島でのベルトリクス様のあの様子は何だったんだ? 何か知っているのか?」

真顔で木守に聞いてきた玉城。

「すいません、今は何も教えられな…」

言いかけて、『しまった!』という表情で口をつぐむ木守。

「極秘事項…というやつか?」

フウッ…とため息をついた後、

 「ちゃんと任務が終わったら全部教える事! 

そうじゃなきゃあなたを信用しないからね!」

そう言って部屋に戻った。

 「…うちの一族にも関わる事だから余計に言えないんスけどね」

ボソッと言ってから木守も部屋に戻った。

 部屋に戻り木守が真っ先に目に入ったのは、テーブルに置いてあった山盛りミカンが残り三個になり、ベルトリクスの前にある大量のミカンの皮だった。

 「ベルトリクス様…ひょっとして食いしん坊?」

「…私も一緒に食事をして知ったんだけど、実はそうなんだ」

「すいません美味しくてついっ!」

小さな声で話していたのだがベルトリクスには聞こえていたらしい。

 「…では、残りのミカンは私と木守が食べてもよろしいですか?」

「はい! どうぞ!」

おずおずとミカンを差し出すが、よほど気に入ったのかベルトリクスの目線はずっとミカンを追っている。

 「…じゃあ明日の移動の時にまた買いますか」

「本当ですか?! ありがとうございます!」

 もし犬だったら尻尾を振って喜びの表現をするのだろうなあ。

 ベルトリクスの様子を見ていた玉城と木守は言葉には出さなかったがそう思っていた。


 翌日、とうとう本島から隣の西ノにしのしゅうへ渡る。

 とはいえ橋がかかっていて新幹線も通っているのでさほど時間はかからない。

 「海に橋がかけられているなんて、人間の技術ってすごいんですねえ…」

窓にピッタリ顔をくっつけてベルトリクスが呟く。

 「この橋の技術は本島から四ツ国島に繋がる橋を建築する際にも採用されているそうですよ。あちらの橋はもっぱら車道と鉄道用に利用されていますが」

 話を聞いているのかいないのか分からないがずっと外を見ているベルトリクス。

 だが、鉄道よりも速い新幹線。あっという間に西ノ州へ入る。

「西ノ州…もう少しで目的地に着きますね」

「なんだか、あっという間ですねえ」

しみじみ語る玉城とベルトリクス。

 「じゃあ、西ノ州に来たら絶対食べなきゃならないアレを食べに行きましょう!」

「「アレ…?」」

西ノ州の玄関口とも言える駅に降り立ち、木守に案内された先は…、

「ここ、ラーメン屋じゃないか!」

 そう、木守が連れてきたのは地元の老舗ラーメン屋だった。

 独特の匂いが立ち込める中、グウ~ッとベルトリクスのお腹が鳴る。

「さあさあ入りましょう!」

木守にグイグイ押されて中へ入る三人。

 「へいらっしゃい!」

威勢の良い大将と定員の声が店内に響く。

「大将、ラーメン三つ! 麺は…俺はカタでこっちの二人はヤワで」

「あいよっ!」

「カタ? ヤワ?」

ベルトリクスが聞いてくる。

「ここのご当地ラーメンは麺の固さが選べるんですよ。茹で時間が短いバリカタから柔らかいバリヤワまで。

お二人には食べやすい茹で方を選びました」

 説明している間にラーメンが出てきた。

「「「いただきます」」」

三人揃って食べ始める。

「美味しいです!」

「これは、中々、熱っ!」

「美味しいでしょ? 先輩、猫舌ですか?」

「このくらい大丈夫だ! 熱っ!」

 フウフウ言いながら、汁まで完食した三人だった。


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