第5話 ジャマをしないで下さいね?

 「あなたは──」

ビックリした表情で木守こもりを見るベルトリクス。

 そこへ玉城が戻ってきた。木守は落ち着いた様子で翼をしまう。

「二人とも何も無かったですか?」

「ええ。何も。ね? ベルトリクス様」

「えっ? ええ…」

ハッと気が付いたベルトリクスは木守に合わせてうなずく。

「木守…嘘はダメだそ。ほら背中! 翼を出しただろう! 背広が少し破けてるぞ!」

 そう言いながら玉城は木守の背中に回る。

 翼が生えた箇所に穴が開いていた。

「私と違って木守さんは服に穴が開くんですか?」

「ああ、説明していなかったですね。木守はコウモリの獣人なんです。まあ、翼以外は普通の人間とほぼ同じなんですけどね」

 獣人といっても、見たまんま獣の獣人もいたり、耳とか身体の一部が獣の獣人もいるが、普段は人形ひとがたで自分の意思で変身する者もいる。木守もそのタイプだった。

 「コウモリだけど夜行性ではないし明るい所も平気なので役に立ちますよ~」

「そんな事言ってないから!」

思わず木守にツッコミを入れる玉城。

 そんな二人の様子にベルトリクスもクスッと笑ってしまった。

 「あ、ごめんなさいつい可笑おかしくて」

「はい。ちまたでは漫才コンビと呼ばれてます」

木守のセリフに『フフフッ』と笑い声があふれる。

 「さて、お食事のお時間ですが、ここのホテル和食処もあり、古都の伝統料理も楽しめるそうですが、ベルトリクス様は和食洋食どちらがよろしいですか?」

 「和食…洋食…」

少し悩んだ後、

「和食でお願いします」

「了解いたしました。木守」

「はい、何ッスか?」

「ベルトリクス様と食事に行ってくるから留守番をよろしく。

ご飯は自分で買ってくるなりしてね?」

「……え~?!」

 「二人分しか予約取ってなくて。

ちなみに領収書をもらっておかないと経費で落ちないから」

「…了解しました」

「すみません木守さん。行ってきます」

ペコリとお辞儀をした後、カードキーを木守に預けて、下の階の和食処へ玉城とベルトリクスは向かった。

 手を振って二人を見送った後、やれやれという表情で木守もコンビニで食料調達に向かった。


 「美味しいっ!」

口を手でおおいながら感想を語るベルトリクス。

「そうですね。素材の味を生かして作るのが古都の伝統料理の真髄しんずいなのだそうですよ」

「伝統料理…奥が深いですねえ」

感心しながら次々口に頬張る。とても嬉しそうな表情に玉城も思わず笑顔がほころんだ。


 私服に着替え、すぐ近くのコンビニでお弁当と飲み物を買ってきた木守。

言われた通り、ちゃんと領収書も貰ってきた。

「いいなあ、先輩は旨いもん食べて」

思わず本音がこぼれてしまう。

 ホテルに入る直前、そのホテルには似つかわしくない人達がたむろしているのが目についた。

 「おい、ここに本当に天上人が泊まっているのか?!」

「ああ、間違いない」

 (天上人? どこから情報が?)

怪しむより先に揉め事は速やかに排除すべし。

そうSPの心得を教え込まれた木守。

早速その人達にコンタクトを取る。

 「兄ちゃん兄ちゃん。何のお話~?」

「うわっ! 何だよお前!」

「ま、内緒話ならこっちで聞きましょ? ね?」

そう言いながら路地裏へ連れていく木守。

 「ちょうどいい広さの空き地があって助かったわ」

「お前、まさか俺達の計画を邪魔するために?!」

「すいませんねえ~、あの子は心から旅行楽しんでいるんで、邪魔、しないでもらえます?」

そう言いながら脱いで上だけ裸になる。

「翼出すと先輩にバレるんで脱いだけど、寒いな」

少し寒そうにしながら秒殺(気絶させるだけ)していく。

「コイツ…強っ」

言い終わる前に後ろ回し蹴りを食らわせ気絶させた。

 「さて、こいつらは本部に連絡して引き取ってもらうか」

そう言いながら服のホコリを払って着直きなおし、冷めた弁当の袋を手にホテルに戻っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る