第4話 表の顔と裏の顔

 「木守こもりさん…ですか?」

キョトンとした表情でベルトリクスが木守の顔を見る。

ほぼ閉じているのかと思ってしまう位の細目でニコリとしながら、

「はい。貴女あなたを守るためにやって来ました。そして」

 側にいた玉城の腰に手をやり、

「玉城先輩の婚約者です」

「全然違いますからね! アンタも何度も断っているでしょうが!」

慌てながら玉城が否定して離れようとする。

「えー? 先輩ダメですか?」

残念そうに木守が呟く。

「婚約者…って将来結婚を約束した仲という事ですか?」

「はいそうです」

「だから違うって!」

このままではらちが明かないのでとりあえず座る事にした。

 「ベルトリクス様、本日は古都に一泊いたします。よろしいですか?」

「まあ、あの古都ですか?! 嬉しい!」

何かでその街の事を知ったのだろう。ベルトリクスは嬉しそうにはしゃいでいる。

 「古都ですか? 一気に目的地まで行ったら良かったんじゃ?」

木守が口を出す。

「一気に目的地まで行ったらベルトリクス様の体力が持たないかもしれないでしょ?」

「あー、なるほど。そうでしたか」

理解したのかしていないのか、そういう口調で木守が呟く。

 「ベルトリクス様、もうすぐ古都に到着します。木守、到着時揺れるからベルトリクス様を支えていて」

「了解です!」

 到着は終点駅ではないので速やかに降りなければならない。

なので2分前には扉の前に玉城、ベルトリクス、木守の順番で立っていた。

「先輩~、何で俺が荷物持ちなんですか?」

「私が身動き取れる方が守りやすいだろ?」

そう言いつつ前方に気を遣う。

 到着して扉が開いたのでまず玉城が降りて周りを確認した後ベルトリクスに手を添えながら降ろす。

「では、参りましょうか」

「はい。…ここが古都…」

「先輩~、荷物降ろすの手伝ってくださいよ~」

感動しているベルトリクスとは裏腹に、情けない声を出す木守。

「全く、しっかりしてよね」

そう言いつつ木守を手伝う。

 「ベルトリクス様、この後タクシーで宿泊するホテルに向かいますが、一応街が見られるようにぐるりと遠回りいたします」

「降りて見ないんですか?」

少し残念そうな表情をされてしまった。

「はい…何かあってはいけませんし、いっぱい見所があるのでベルトリクス様の体力も持たないかもしれませんので」

 そう言いながらタクシー乗り場で乗車する。

「荷物トランクに入れました~」

「では木守は前の助手席に座ってくれ」

言われた通り素直に座る。

ベルトリクスを建物が見えやすい運転席の後ろ側の席へ座らせ、出発させる。 

 「ベルトリクス様、あれが有名な五重の塔でございます」

「まあ、あれが!」

ガイドらしく説明していく。説明だけでもベルトリクスは嬉しそうだ。

「古都ッスねえ…」

興味なさそうに木守が呟く。しかし、警戒しながら周りを見ているのはさすがとも言えよう。


 「ベルトリクス様、こちらが本日泊まるホテルでございます」

玉城をタクシーから降ろす。

 「まあ、立派ですね!」

キラキラした表情でベルトリクスが周りを見渡す。

「お部屋はこちらでございます」

ホテルマンに案内されてスイートルームに入る。

ベルトリクスが、

「ふわあ…」

と、感嘆の声をあげる。

 「では荷物はここに。失礼いたします」

ホテルマンが退出すると玉城はあちこちを調べ始める。

「玉城さん何を?」

「何かあってはいけませんのでチェックしております」

幸いにも盗聴器などの物は無かった。

「一応周りもチェックしてきます。木守、ベルトリクス様を頼みます」

そう言って部屋を後にする。

 部屋にはベルトリクスと木守だけになった。

 「ベルトリクス様、ちょっと聞いていいですか?」

木守が質問してきた。

「はい。なんでしょう?」

 木守が真面目な顔をして、

「何で降りてきたんですか? 天使は特別な事が無い限り降りないはずでしょ?」

そう言いながら木守は自身の背中から黒いコウモリの翼を出した…。

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