第31話 少しずつ膨らむ心
週末が終わって、また学校生活が始まった。
「そういえば、昨日のデートどうだったん?」
休み時間中、廊下で駄弁ってる時に真里が話を振ってくる。
「お、真里ナイス。私もそれ聞こうと思ってた」
「話せ話せ〜」
駅前のケーキ屋の話で盛り上がってた二人も便乗してきて、あたしは笑顔で頷いた。
「すごく楽しかったよ。高峯、相変わらずエスコート上手だったから」
「へえ? もう3回目のデートなのに、やるねアイツ」
「江ノ島だっけ? どこ巡った感じ?」
「最初は水族館で、島の方にも行ったかな。イルカショーめちゃかわだった」
スマホの写真なんかも見せながら、三人と恋バナで盛り上がる。
その声は自分でもかなりイキイキとしてた。
「おお、どれも楽しそう」
「あはは、高っちの顔がタコせんべいに隠れてる〜」
「順調そうじゃん」
「うん。実はちょっと嫌なこともあったんだけどね、高峯が助けてくれたから最終的にはいいデートだったよ」
へえ、と三人が声をあげる。
本当に楽しいデートだった。
ナナミ達のことはアクシデントだったけど、そのあとは高峯がすごく楽しませてくれたから。
江ノ島のいろんな場所で美味しいものや綺麗な景色を堪能して、特に灯台から夕日をバックに高峯と撮った写真はお気に入りだ。
「見て見て、これ。恋むすびの絵馬書いたんだ」
「うわ、真っピンク。色えぐっ」
「ラブラブかこんにゃろー」
「あはは、くすぐったいって」
それに、すごくいいこともあったし。
(高峯に、二回も好きって言ってもらえた)
本人はあたしを励ますのに必死で無意識だったみたいだけど、可愛いとも言ってくれてた。
それが、頭の中を埋め尽くしてた嫌なものを忘れさせてくれるほどにキュンとして。
「ふふっ」
「うわ、ヤバ」
「え? 何が?」
「いやいや、自分で気づいてないの? 陽奈、いまめっちゃ甘い顔だったよ?」
「えっ、うそっ」
知らないうちに気持ちが漏れ出していたことに慌てると、三人が優しい表情になる。
「これはガチ恋だね」
「ですなー」
「高校入ってすぐにマジ彼氏とか、ラブコメかよ」
「ちょ、やめてよ、恥ずいって!」
思わずそう言うけど、確かに最近、自分の気持ちが大きくなるのを感じてた。
これまで高峯には、無理して〝明るくて積極的なあたし〟を強調していたところがある。
それは先輩にフられて、今までの頑張りを否定されたような気持ちから逃げるため。
でも、ナナミ達と会って虚勢が崩れて、思わずこぼしちゃった弱音を彼は受け止めてくれた。
嬉しかったな。ちょっと不器用だけど、だからこそ本気さが伝わってきたっていうか。
もうこんなガチな反応しちゃうくらい、心の〝熱〟が強くなっている。
「よかったじゃん? 陽奈、可愛いのに性格も良いから心配だったんだよね」
「え?」
「それな。高峯も陽奈の容姿目当てで寄ってきたのかと思ってたけど、普通にいいやつっぽいし」
「変な男に引っかかんないよう目ぇ光らせてたけど、お役御免かなー」
真里と光瑠、大弥から貰った言葉に、胸がじんとした。
高峯の言う通り、あたしのことをこうやって見てくれる人もちゃんといるんだ。
「もー、三人とも大好きなんだけど」
「いや、それは彼氏に言ってあげなって」
「ガチのは恥ずいから大弥にパス」
「なんでやねんっ。でも今度、ウチのカレピと四人でデートしようぜっ」
「うん、いこいこ!」
あはは、と笑っていると、廊下の向こうから彼が来るのが見えた。
「あっ、高…」
名前を呼びかけて、途中で止まる。
通りがかった教室から出てきた女の子が、高峯に話しかけている。
笑顔で話すその子に、立ち止まった高峯は柔和な表情で対応していた。
「あれ高っちじゃん」
「何話してんのかね?」
「どうせいつものお節介じゃない?」
三人がそんなことを言う。もうお人好しで定着しちゃってるみたいだ。
でもあたしは、なーんか胸のあたりがモヤモヤした。
「じゃあ、俺はこれで」
「うん、またねー」
そうしてるうちに高峯達の会話は終わって、こっちに歩いてきた彼があたし達に気がついた。
「よう、晴海。真里達も」
「おいーす。聞いたよ、いいデートしたらしいじゃん」
「昨日のことか。まあ、晴海が楽しんでくれてたならよかったよ」
こっちを見て笑う高峯に、ちょっとドキッとした。
いつもならすぐに頷くけど、胸のモヤモヤのせいでぷくっと膨れてしまう。
「ねえ、さっきのは?」
「さっきの? あー、校内掲示板のポスター貼るの手伝ったんだよ。一人でやってて大変そうだったから」
「ふーん」
確かに、さっきの子は小さくて可愛らしい感じだった。
真里達の言ってた通りだったけど……
「むう」
「あれ? 晴海さん?」
何でだろ。高峯がそういう人だって知ってるのに、前みたいに〝すごいな〟で終われない。
「あー、高峯が嫉妬させたー。彼氏なのにいけないんだー」
「えっ」
ぎょっとしてこっちを見る彼に、あたしはじっとりした目線を送った。狼狽える姿がちょっと可愛い。
「これはペナルティだね」
「なんか思いつく?」
「あ、じゃあ陽奈のこと名前で呼ぶってのは? 私らのこと呼んでるしいけるっしょ」
「ま、マジで?」
ニヤニヤしてる真里達に押されて、チラチラとこっちを見てくる。
本当に嫉妬してるのか、まだ信じきれてないって顔だ。あとは単純に恥ずかしいのかな。
「えっと、晴美?」
「……名前、呼んでくれないの?」
あたしはそれに乗っかることにした。
途端に高峰が言葉を詰まらせて、ねだるような上目遣いで見つめる。
「あー、えーっと……」
しばらく視線を彷徨わせて、逡巡してた。
けど、真里達とあたしの目線を受け続けて耐えられなくなったのか、一度ため息をつく。
「………ひ、陽奈」
「っ! えへへ、なーに高峰?」
そして恥ずかしげに頬を赤く染めて、名前を呼んでくれた。
途端に胸がキュンキュンし始めて、あたしは返事する。
ヤバい、嬉しい。顔ニヤけちゃう。
「あーはいはい、ご馳走様」
「焚き付けたの私らだけど、甘くてギブ」
「惚気はよそでやれー」
「お前ら興味の失い方アグレッシブすぎない?」
「ふふっ、どうせならもう一回呼んどく?」
「な、慣れてからにしてくれ」
しょうがないなぁ。それならしばらくは待ってあげよ。
あー、どうしよ。まだ約束の一ヶ月も経ってないのに。
あたしもう、けっこう高峰のこと好きかも。
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