第43話:閑話・交合

神暦3103年王国暦255年7月19日20時:ミア視点


 情けない話しですが、私には女を抱いた経験もなければ男に抱かれた経験もない。

 こんな私が、同じように何の経験もないジェネシスを導かなければいけない。

 アルファに成った直後はあれほど自信に満ちていたのに……


「ジェネシスには俺様直々にオメガをアルファに変化させる実験を繰り返している。

 その影響で、アルファであっても無条件には従えられない。

 媚薬で性欲を高めているから、アルファの性欲もオメガの性欲も高まっている。

 最初はミアがジェネシスを受け入れろ。

 ミアがジェネシスを抱くのはその後だ」


 懇切丁寧にと言って良いのかどうかわからないが、父上からは愛し合う順番や体位まで指定されてしまった。

 媚薬で本能と性欲を亢進させられたジェネシスは、オメガなのに男らしいと言う。


 私も成人式前にはジェネシスに抱かれる夢を見た事がある。

 優しくいとおしむように抱いてくれるジェネシス。

 男らしく荒らしく奪うように抱いてくれるジェネシス。


「わずかな期間にこれほど立場が二転三転してしまうとは……」


 無意識に言葉を発してしまうくらい激動の日々だった。

 こんな事なら二人ともベータに成った方がよかった。


 王家や他の貴族家ならば、ベータの生活はかなり苦しい。

 特に女に生まれたベータに夫を選ぶ事などできない。


 アルファの後継者を欲する貴族士族のハーレムに放り込まれる。

 だが父上の治められていたサザーランド公爵領だけは、望む男と結婚できる。


 もっとも、そんな事を望むベータ女など滅多にいない。

 大抵のベータ女は、安楽な生活が保証されているハーレム入りを望む。

 最下級の騎士のハーレムでさえ、ベータ男を夫にするよりは豊かに暮らせる。


 これからの事を考えず他の事を考えて不安を紛らわせていたが、着いてしまった。

 媚薬に狂ったジェネシスが待っているという新婚部屋に来てしまった。

 震える手で観音開きのドアを開けると、それだけで脳を直撃する香りに襲われる。


「ジェネシス、抱いて!」


 入るなり直ぐに脱げる構造のベビードールを脱ぎ捨てる。

 父上に教えられ何度も繰り返した言葉を発してジェネシスを誘う。


 徐々に媚薬に侵されていく自分が分かる。

 父上が下さった予防薬は、多少の理性は残せるが、性欲は抑えられないと言う。


「うがあああああ!」


 ケダモノのような言葉を発してジェネシスが抱き着いてきた。

 本能のままに動いているのだろうが、上手くできないようだ。


 女の私は自分の事をよく知っている。

 猛りきったジェネシスが暴発する前に大切な所に導いてやる。

 父上に煽られ、長い通路を歩かされた私はもう準備ができている。


「アア!」


 ジェネシスが荒々しく入ってきた。

 少し痛いが、こういう抱かれ方をする事も夢見たことがある。

 直ぐに果てられてしまったのは残念だが、こんな事もあると教わっている。


「今度は私がしてあげる」


 父上の申されていた通り、果ててもつながったままだ。

 父上の媚薬の影響で、妊娠するまで離れならないようだ。


 非常時に為の別の薬は頂いているが、最後まで使う気はない。

 二人同時に妊娠できないくらいなら、ここで一緒に死んだ方が良い。


「うっがアアアア」


 長期間媚薬に侵されている影響か、ジェネシスが獣の様だ。

 少し身体を動かしただけで、また果ててしまった。

 このままではジェネシスを抱く前に私だけが妊娠してしまう。


「絶対に逃がさない、私の子供も妊娠してもらうわ!」


 ジェネシスの男を受け入れたまま、私の男をジェネシスの女に受け入れさせるのは、少々難しい。


 何より経験がなく興奮しているジェネシスが何度も果ててしまう。

 本能だけで動いているジェネシスを技で抑え込むのは簡単だ。


「キュウウウウン、キュウウウウン、キュウウウウン」


 弱弱しく訴えるジェネシスが可愛くいとおしい!

 身体をねじって下半身だけ密着するようにして、何とか私の男をねじ込む。

 離れられないように肥大したジェネシスの男のお陰だ。


「一緒よ、今度は一緒に果てるのよ!」


「キュウウウウン、キュウウウウン、キュウウウウン」


 絶対にこの機会を逃さない!

 もう二度とないかもしれないこの機会を絶対に逃がさない。

 私とジェネシスが同時に妊娠するまでは、死んでもこの部屋から出ない!


 そういえば、父上がジェネシスの首に番の印をつけてもいいと言っていた。

 ただし、私もジェネシスに番の印をつけさせなければいけない。

 一方だけ番の印をつけたら殺すと言われている。


 父上には、絶対に逆らってはいけないと思い知っている。

 だから逆らう気など毛頭ないが、この実験狂いは何とかして欲しい。

 実の娘と孫を実験動物扱いしないで欲しい。

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