第42話:降伏臣従
神暦3103年王国暦255年7月21日16時:ジャクスティン視点
二十年前の事実を交えた脅迫は、大陸連合魔道学院の総長には効果覿面だった。
たった一時間の間に百近い国境の村が俺様の支配を受け入れた。
後は戦友や家臣に行かせて降伏臣従の書面にサインさせるだけだ。
「学院に俺様の支配を受け入れると言う連絡が入った。
だがその言葉を鵜呑みにするわけにはいかない。
どれほど小さな村であろうと俺様の支配に反対をする者はいる。
そういう者を無理に取り込もうとするな。
村から追放して好きにさせてやれ。
しばらく暮らせるだけの食糧と金を渡してやれ。
俺様とアルファの名誉を穢さないように、絶対に村人を傷つけるな」
俺様の戦友や配下に外国人への人道を説いても必ず守ってくれるとは限らない。
だが、俺様やアルファの名誉を穢すなと言えば、必ず守ってくれる
戦友や家臣に対する指示命令には言葉を選ばなければいけない。
「分かりました、村人を殺さないように支配下に置きます」
俺様の元で騎兵長を務めているベータが返事をした。
遠方から小まめに連絡を取ろうと思えば外国人の魔術が必要になる。
だが俺様以外のアルファは外国人の魔術を毛嫌いしている。
「百人程度の村だと聞いている。
十騎もいれば簡単に安全を確保できると思うが、脱走や逃亡をした兵士が先に村を支配下に置いている可能性もある。
その時には無理をせず、一時撤退して連絡しろ、いいな」
「おまかせください陛下。
陛下からお預かりしている大切な騎兵を無駄死にさせたりはしません」
長年かけて育てた騎兵達はとても優秀だ。
もっともランクの低い一般騎兵隊であっても、外国の騎士を軽く凌駕する。
しかも今は魔法陣や魔道具を貸与しているのだ。
「その村には密偵ベータはいないはずだが、戦争のゴタゴタで連絡をする事ができずに移動したベータ密偵が、絶対いないとは言い切れない。
向こうから接触してきたら、疑いつつ受け入れろ」
家臣達を使って臣従の誓いをさせる村々は、我が国との国境近くにある。
当然元は国境を接した外国の村だ。
常に警戒をしていた外国には、万を超える密偵を送り込んである。
「受け賜りました。
救助援助を必要とする密偵には手助けをいたします。
密偵を装って近づく敵に騙されないように細心の注意を払います」
俺様が教育したとはいえ、よくできた騎兵長だ。
外国なら騎士団の百騎長は務まっただろう。
この者になら安心して任せられる。
「では任したぞ」
外国の村を臣従させると決めてから数時間は目が回るほど忙しい。
臨機応変の対応ができる者達だが、それでも不測の事態が起こる。
だが彼らだけにかかわってはいられない。
「総長、俺様が併合すると決めた国々と国境を接している国に連絡を取れ。
俺様が併合すると決めた国に手を出したら、敵対した王家王国や有力組織を悉く滅ぼした、俺様子飼いの密偵団を送り込むぞとな」
「本気ですか、本気で今戦っている国との講和条約を結ぶ前に、新たな国々に喧嘩を吹っかけると言われるのですか」
「やりたいわけではないが、民を見殺しにはできない。
誇り高いアルファ貴族の俺様に、民を見殺しにする選択などない」
「確かに、このままでは瓦解した国々に周辺国が攻め込みますが……」
「奴らは俺様が十数カ国の半分も併合できれば満足すると思っているのだろう。
自国と国境を接している場所から侵攻すれば、半分は占領できると思っているのだろうが、そんな事は絶対にさせない。
奴らが侵攻時する時に、どれだけに民が殺され傷つけられると思っているのだ?!
俺様が併合すると決めた場所の民は絶対に守る!」
「公王陛下のお考えは立派ではありますが、いたずらに戦争を広げるだけで、戦乱に巻き込まれる民を増やすだけではありませんか?」
「そのような事はない。
総長、俺様はお前のように大規模魔術で数万人を殺したわけではないぞ。
悪逆非道な連中の、頭目や幹部を狙い撃ちに殺しただけだ。
後は末端の連中が殺し合って自壊していった。
欲深い王家に侵攻させるよりも遥かに少ない被害者で済ませた。
それが嫌だと言うのなら、総長から聞き出した大規模魔術を、全ての国の首都に放ってやってもいいのだぞ?」
「やらせていただきます、よろこんでやらせていただきます。
大陸中の王家王国、あらゆる組織に公王陛下に逆らう愚かさを伝えさせていただきますので、禁呪で大陸を滅ぼすのだけはお止めください!」
自分達は俺様に禁呪を教えた事を知られたくないのだろう。
これでまた一つ総長の弱みを握ったな。
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