第41話:講和条約

神暦3103年王国暦255年7月21日15時:ジャクスティン視点


 エマ女王と同盟を決めたその日の内に、大陸連合魔道学院の総長に命じて、俺様とエマが同盟をした事実を大陸中に伝えさせた。


「最初からこうなる事を見越して分離独立した振りをしていたのですか?!」


 総長から思いっきり失礼な質問をされたが、無視だ無視。

 俺様やジェネシスがどんな思いをしてこんな状況になったのは、今更外国人に聞かせる気にもならない。


「そのような事をお前に教える必要などない。

 お前は俺様の命じるままにやればいい。

 そうすれば、学院が望む外国人世界での永世中立を守ってやる」


 学院が俺様の命令に従う事は当然だが、外国の影響を受ける事は許さない。

 莫大な魔力を必要とする、学院の禁呪を普通に使えるような国や組織が、学院以外にあるとは思えないが、禁呪にあわせて魔術師を育成する可能性は捨てられない。


「分かりました、即座に大陸各国と有力組織に伝えましょう。

 しかしながら、ジャクスティン様と戦っている国とは連絡できません。

 既に王家も国も有力組織も壊滅しています」


 俺様が放った腐れ外道アルファで組織した刺客達は意外と優秀だった。

 いや、あの程度の戦闘力しかないアルファを優秀とは言えない。

 外国があまりにも無能で無力だったのだろう。


「ほぼ滅んでいる王家や貴族など無視してかまわない。

 腐り切った教団やギルドも無視すればいい。

 村や町にいる民の代表に連絡をつけろ。

 使い魔魔術で伝書や伝言すれば、人伝いに有力な民に行き着くだろう」


「それはそうかもしれませんが、小さな村々まで把握できていません」


「学院の上層部が把握できていなくても、生徒が知っているだろう。

 生徒が生まれた村や街、行った事のある村や街に連絡させろ」


「そんな小さな村や町と連絡を取って、いちいち講和をされるのですか?」


「ふん、愚かな貴族や組織を残せば民が苦しむ。

 直接民の代表と話をすれば不幸になる民を減らせる」


「小さな村の代表が善人とは限りません。

 貴族や有力者の目が行き届かない小さな村ほど、酷い長が支配しています」


「もしそんな長が俺様の目の前に立ったら、頭からバリバリと喰らってやる」


「……確かに、貴男の目を欺ける人間などいませんね。

 しかし幾ら貴男が超常的な人狼でも、十カ国以上の村や町を全て独りで回るなど不可能ですよ」

 

「誰が何時俺様独りで回ると言った。

 俺様には心から信じる戦友や家族が数多くいるのだ。

 その程度の事、彼らに任せれば済む事だ」


「……その人達に貴男ほどの洞察力や迫力があるのですか?」


「全員が俺様と一緒に二度三度と大戦を生き抜いた猛者達だ。

 実際の戦闘力だけでなく、見た目の迫力も洞察力も外人の比ではない。

 それに外国の村人に、我々人間の見分けなどつかない」


「そういう事なら大丈夫なのでしょう。

 今貴男が言った言葉を信じ、同じ言葉を学院生に伝えましょう。

 学院生達がその言葉に納得したら、故郷の村や街と連絡するでしょう」


「生徒達の家族や友人が大切なら、できるだけ急いでやるのだな。

 そろそろ外国人の本性が現れる頃だ」


「我々人間の本性が現れる頃とはどういう意味ですか?!」


「先の大戦では、後半を俺様の捕虜として過ごしたお前は知らないだろう。

 凄惨な戦いを生き抜いた兵士や村人は、本能が剥き出しになるのだ。

 奪い犯し殺す事に何の抵抗もなくなる。

 仲が良かった隣の家の妻や娘を、犯し殺す事に何の罪の意識も感じなくなる」


「そんな!」


「村人同士なら大丈夫などと安易に考えるなよ。

 毎日何時軍を脱走した連中が村を襲うか分からない極限の状況なのだ。

 夜も眠れず狂気に囚われた者が泣き叫ぶのが日常になるのだ。

 道徳心の低い者が刹那的に罪を犯す事が日々多くなるのだ。

 前の大戦の後期には、村の中で殺し合いが始まり全滅する事が頻発したのだぞ」


「直ぐに、直ぐに学院生を集めて故郷に連絡させます。

 できるだけ早く人狼の支配下に置いて秩序を保ってください!」

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