第26話:丁々発止

神暦3103年王国暦255年6月6日16時:ジャクスティン視点


 エマ女王の野郎、とんでもない要求を突き付けてきやがった。

 だが、俺様のアドバンテージに成る前世の知識を使った技術は教えられない。

 それが例え一度は愛し合った女で、俺の子供の母親であろうともだ!


「そのような勝手な望みは認められない。

 そんな事をしなくても、ミアがいるだろう。

 もうミアを殺す気は無くなったから、後五十年は余裕があるだろう」


「王家を護る藩屏は数が多ければ多いほど良いのよ」


「数を揃えても憎しみ合っていたらむしろ逆効果だ。

 王位を巡って殺し合う事もあるのだぞ。

 王族は適度に年齢の離れた者が少数いるのが一番だ」


「そんな言葉は、立派な後継者が二人もいて、三人目以降も何時でも創り出せるジャクスティンだから言える事よ。

 しかも最初の一人は一年目に生まれたじゃないの。

 私のように長年後継者に恵まれなかった者は、とてもそんな風には考えられない」


「エマの気持ちもわからない訳ではないが、それとこれとは話しが別だ。

 俺様はもう王国の公爵ではない。

 王女の無礼に怒って分離独立した公王だ。

 敵の戦力を増強させるような事はできん!」


「その言い分はおかしい。

 ミアもジャクスティンの娘だ。

 ミアが女王に戴冠する王国もジャクスティンの子孫が治める国だ」


「くっ、だが、今急にミアが俺様も子供だと言われても実感がない」


「アルファのジャクスティンが、生まれてから一度も会った事のないミアを自分の子供だと思えないのはしかたがないだろう。

 だが、ミアの才能を正当に見てくれれば分かるはずだ。

 この子は私の子供だとは思えないくらいの才能がある。

 そして何よりジャクスティンそっくりの傲慢さがある」


「おい、こら、馬鹿な事を言うな!

 ミアの傲慢さはお前に似たのだ、俺様はこんな愚かで傲慢じゃない」


「確かに今のジャクスティンは立派な公王よ。

 王国から分離独立する前は、王国一の良識を持っていたわ。

 でも、成人式直後の貴男はとんでもなく傲慢だったのではなくて?

 父王陛下や古参の高位貴族から色々聞いているわよ」


「ふん、成人式直後のアルファが本能に振り回されるのは当然の事だ。

 その中でも強大な力を授けられたアルファが暴走するのは毎年の風物詩だ」


「そうね、才能のあるアルファが暴走するのは当然の事で毎年の風物詩よね。

 でも、その中でもとりわけ激しいのが貴男だったと聞いているわ。

 ミアも貴男に似て本能に振り回されただけよ。

 私の暴走は貴男やミアほどではなかったわよ、覚えているでしょ」


「俺様はお前よりも年下だから、お前の成人式など知るか!

 エマもミアと同じくらい暴れ回っていたと聞いているぞ」


「ジャクスティン、もう貴男の負けなのは自覚しているわよね?

 今直ぐミアに父親らしいことをして欲しいなんて言っていないわ。

 でもね、子供の可能性がある事は認めて接してよ。

 自殺するような追い込み方をせず、しっかりと躾けてちょうだい。

 少なくともミアは貴男の孫の性奴隷に成るのよ」


「ミアが俺様の娘かどうかは別にして、ジェネシスを外道にするわけにはいかない。

 性奴隷にしたからと言って、非人道的な行為はさせられない。

 アルファの数を増やさなければいけないのも確かだ。

 ミアに子作り用の愛妾を置くのは認めようだ。

 だが、我が領地の女は渡せない。

 王家直轄領の娘を連れてくるか、お前のハーレムから女を寄こせ」


「分かっているわよ。

 ミアには色事に成れた女を数十人送るわ。

 でも、私としては、ミアが妊娠して生む子に期待しているの。

 ジャクスティンがもう一度子種をくれると言うのなら別だけど」


「馬鹿な事を言わないでください!

 お爺様の子供を生むのは僕です!

 もう二度と他の女をお爺様に近づけさせない!」


「馬鹿な事を言うな!

 俺様は自分の孫を抱く気などないからな!

 二度とそのような事を口にするな!

 エマ、お前に子種をやる気もないからな!」


「あら、残念、じゃあ仕方ないわね。

 これ以上は本気で怒らせてしまいそうだから、この辺で止めておくわ。

 ミア、貴女が信じようと信じまいと、ジャクスティンの子供である事は変えられない事実なのよ。

 その心算でジャクスティンの言う事をしっかり聞きなさい。

 そうすれば最低でもセイント公爵やオリビア伯爵と同等の力が得れるわ。

 王女なら、力を得られる機会を逃すような愚かな真似はしないで」


「……分かりました、女王陛下」

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