第25話:暴露

神暦3103年王国暦255年6月6日16時:ジャクスティン視点


 女王のエマが政務を投げ捨てて王城から公城まで馬を飛ばしてやってきた。

 王家の責務を何よりも大切にするエマとは思えない行動だった。

 それほど王家の血を継ぐミアを大切にしているという事だが、少々異常だ。


「ジャクスティン、この通りを、どうかミアを許してあげて。

 アルファの決闘誓約に従って性奴隷にするのはしかたがない。

 でも面倒だからと言って密かに殺すのは止めて。

 ミアが自殺した方が楽だと死ぬのを見逃さないで、お願い!」


 女王であるエマが土下座同然に頭を下げて来る。

 同席していたセイント、オリビア、ジェネシス、そして誰よりもミアが驚き茫然としている。


 女王が土下座同然の詫びをした事もだが、俺様がミアを見殺しにしようとしていた事にもとても驚いているのだ。

 俺様が口ではミアを殺すなと言っていたから、本心を見抜けていなかったのだ。


「女王陛下、私のために謝る必要などありません。

 わたくしが死んだとしても、成人式前の子供が二千人はいます。

 その中から必ず陛下の血を受け継ぐ子供が生まれるはずです!」


 そうだな、平均的な確率から言えば二人くらいは生まれるだろう。

 ミアは千五百人目くらいだったか?

 運の悪いエマでもあと一人くらいはアルファの後継者を得られるだろう。


「お黙りなさい!

 相手の実力どころか自分の実力も弁えない未熟者が口出しするな!

 私はジャクスティンと王同士の対等な話しをしているのです。

 嘴の青いひよっこは黙っていなさい!」


 エマはよほど育児や教育に向かないのだろう。

 これまで一度も本気でミアを怒った事がないのかもしれない。

 エマの本気の殺気を受けたミアが幼子のように泣き出した。


「ジャクスティン、王と公王としてではなく、昔馴染みとして本音で話したい。

 長年ジャクスティンに秘密にしてきた事も告白する。

 だからミアを殺すのだけは止めてもらえないだろうか?」


「エマがミアを大切にしている事はよく分かっている。

 王家の血統を守ろうと頑張ってきた事も知っている。

 だからエマが王家の誇りにかけて、俺様が王家を滅ばすような戦争をしないで済むように、ミアを幽閉すると約束してくれるのなら、解放してもいい」


「いや、私ではミアを躾ける事ができない。

 ジャクスティンが躾けてくれると言うのならむしろ好都合だ。

 このまま性奴隷にして妊娠させてくれれば、むしろ労せず後継者を得られる」


「おい、おい、おい、何を馬鹿な事を言っている。

 ミアは元々女だぞ、確率千分の一でアルファを妊娠できるわけがないだろう。

 女性アルファが妊娠するのではなく、新たの得られた男性器で女達を妊娠させるのは、その方が多くの子供を得られるからだろう」


「そんな事は分かっているし、私自身も多くの女達を妊娠させてきた。

 だが、妊娠させて生まれてきた子供はほとんどベータとわずかなオメガだった。

 唯一アルファの成れたのは私自身が産んだミアだけだった」


 おい、おい、おい、とんでもなく嫌な予感がするぞ。

 これ以上エマが何か言う前に逃げ出したいが、逃げだすのは無責任すぎる!


「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、私が何を言いたいのか分かったようだな」


「死んだのではなかったのか?」


「あの時は、ジャクスティンの影響力がこれ以上強くなるのを避けたかったの。

 それでなくても外国との戦争で途轍もない武功を重ねていたわ。

 実力も私など足元にも及ばないほど強かった。

 あの頃の私は、ジャクスティンの子種が欲しと言いながら、恐れ嫉妬していたの。

 だからジャクスティンとの子供は生まれ直ぐに死んだ事にしたの」


 俺様の家族もミアも茫然自失になっている。

 俺様も表情や態度にはだしていないが結構驚いている。

 ミアが俺様と女王の子供だとしたら、ジェネシスとは叔母甥の関係か?


「お前なぁ、いいかげんにしろよ!

 じゃあ、ジェネシスとミアは甥と叔母になるじゃないか!

 よくそんな関係の婚約を俺に押し付けたな!」


「私達の子供は死んだ事になっていたから何も問題はないわ。

 それと、どちらかがアルファに成れば何の問題もなかったわ。

 現にミアがアルファに成ったから近親相姦も悪影響を受けないわ」


「それは昔からの言い伝えがそうなだけで、実際に悪影響がないのかは誰にもわからないし、そもそも二人がベータになっていたらどうする心算だったのだ!?」


「どうもしないわよ。

 私が黙っていれば誰にも分からなかったわ。

 もちろんそれは貴男もよ、ジャクスティン。

 問題があったのは私に子育ての才能がなくて、ミアをこんな風に育ててしまった事だけれど、父親のジャクスティンが躾け直してくれるから大丈夫よね」


 そうだった、エマにはこういうとんでもない所があったのだ。

 それにしても、ミアが俺の子供とは、参った。

 あの時はエマにどうしてもと頼まれて種付けしてやったが、こんな事になるとは!


「お母様、いえ、女王陛下、本当なのですか?!

 私の父親がジャクスティン……殿だと言うのは本当なのですか?!」


「本当よ、五百人近い子供を成人式に参加させてもベータばかりだった私は、自分で妊娠したらアルファが生まれるのではないかと思ったの。

 どうせ子種をもらうなら、この国一番のアルファから貰おうと思ったのよ」


 アルファの子作りは基本物凄くドライで、愛情など介在しない。

 自分の血を受け継ぐアルファを生ますために、数をこなす子作りに成る。

 多くの女を抱えるのも、好みの女を数多く抱きたいと言う性欲でしかない。


 アルファとオメガの関係も同じだ。

 アルファはオメガを番にするが、それは愛情というよりも支配欲だ。


「そんな、私とジェネシスが血の繋がった叔母と甥だったなんて……」


 ミアが ジェネシスに執着するのには愛情もあるのだろう。

 だからこそ俺様が父親だと言う事よりも、ジェネシスとの結婚が許されないほど近い血縁だと言う事に、ショックを受けているのだろう。


「その程度の事を気にしていては、女王にはなれませんよ!

 女王なら時に親兄弟と交わってでも子供を生まなければいけない事もあるのです。

 それに、アルファとオメガなら近親相姦の弊害もありません。

 さっさとジェネシスに種付けしてもらいなさい!」


「嫌です、絶対に嫌です。

 僕の愛情はお爺様だけに向かっているのです。

 お爺様の子供を生んで、これまでの御恩をお返しするのです!」


 あああああ、何を言っているんだジェネシス。

 セイントとオリビアもそんな顔をするな!

 俺様に近親相姦の意思など髪の毛の先ほどもないのだ!


「ジェネシス、貴殿ももう公王家の一員だろう。

 ならばその程度の事にこだわってどうするのだ?

 ジャクスティンの子供を生もうと言うのは殊勝な心掛けだが、男性器もあるのだからバンバン女を抱いて妊娠させなくてどうする。

 アルファの子供を残す事が王族の義務であり責任だぞ」


 そうか、そうだった、忘れていた。

 エマは父王や祖父王から子孫を残すように躾けられていた。

 子作りに関しては、呪いとも言える義務感を持っているのだった。


「……分かりました、お爺様の血を残す事が大切な事は理解しました。

 ですが、それがミアでなければいけない訳ではありません。

 ミア以外の女性を囲って妊娠させるようにします」


「どうやらとんでもない事に成功したようね、ジャクスティン。

 オメガのジェネシスがアルファの支配下を逃れて女を抱ける。

 オメガの子供を王位に就けることはできないけれど、オメガの子供が産んでくれたアルファの孫なら王位を継がせられるわ。

 オメガに生まれ私の子供達にもジェネシスにしたのと同じ処置をしてくれない?」

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