第16話:愛孫
神暦3103年王国暦255年3月1日9時:ジャクスティン視点
「お爺様、もう一度亜空間に入れていただけないでしょうか?
そして時間の流れを早くして、僕に鍛錬の時間をいただけないでしょうか?」
三日前に亜空間から出したジェネシスがそう話しかけてきた。
この三日間で俺様がやった実験の結果を知り、安全な亜空間にいる間に力をつけたいと思ったのだろう。
「まだだ、まだ動物実験が少な過ぎる」
もう条件を変えた二十以上の亜空間で実験を重ねている。
どの亜空間でも異常な変化を見せた家畜や魔獣はいない。
それどころか超加速させた亜空間では顕著な進化もあった。
「お爺様の動物実験に手抜かりなどありません。
あるとすれば人体実験です。
その被験者に僕を選んで欲しいのです」
「何を言っているのだ!
大切な孫に人体実験などさせられるか!」
「お爺様も分かっておられるはずです。
危険な人体実験をするのなら、オメガでなければいけないと。
ベータ平民に人体実験をさせたら、お爺様が領民から非難されてしまいます。
何よりアルファと全く違うベータでは、アルファのための実験になりません。
オメガで人体実験してからアルファで人体実験するのが常識です」
「俺様に常識など通用しない!」
「お爺様、僕にお爺様や領地に貢献できる機会を与えてください!
オメガ落ちしたとはいえ、僕はエジャートン家の一員です」
「……ジェネシスがそこまで言うのなら、仕方がない。
亜空間に入っている間にやってもらう鍛錬方法を伝授しておく。
同時に中で造ってもらう魔道具と魔法陣の説明書を渡しておく。
途中で何度か確認のために出て来てもらうが、中の時間経過で一年は入ってもらう事になるが、本当にそれでいいのか?」
「構いません、いえ、むしろ望むところです。
中にいる間に必ず成長してみせます。
せっかくお爺様が木樹魔狼の素材と魔晶石を与えてくださったのです。
アルファ騎士と互角に戦える魔法陣や魔道具を造って見せます」
「いや、そこまで思いつめなくていい。
確かに人体実験はオメガ落ちした性奴隷で行う事が多い。
だが絶対と言う訳ではない。
その俺様の領地ではオメガ性奴隷ではなく志願者で実験を行う事になっている」
「ですから、僕が志願します。
僕はお爺様の役に立ちたいんです。
どうか僕に胸を張ってお爺様の孫だと言える役目を下さい!」
そんなキラキラした決意の籠った眼で見つめるんじゃない。
発情期でもないのに誘惑されそうになる。
「……危険な役目などやらなくてもジェネシスが俺様の孫なのに間違いはない」
「お爺様はそう言ってくださいますが、世間の目は違います。
オメガに落ちたら、元の家族とは別だと思われます。
だからエジャートン家の一員だと胸を張って言うためには、先頭に立って働かなければいけないのです。
オメガ落ちしましたが、お爺様の孫だと胸を張って言いたいのです。
どうか僕を人体実験に使ってください!」
いつの間にか僕という一人称を普通に使うようになっている。
だが、オメガ落ちした直後の弱弱しさがなくなっている。
魔力を経絡に流す鍛錬が効果を表しているのかもしれない。
「わかった、亜空間での人体実験を許可しよう。
亜空間の中にいる間は俺様が魔力を流してやれない。
前回の亜空間でやっていたように、魔石や魔晶石の魔力を使ってくれ。
必要な魔石や魔晶石は余裕をもって与えるし、途中で足らないか確認する」
「はい、頑張ります」
そんなに思いつめなくてもいいのに、可哀想な奴だ。
オメガ落ちしてしまったのは運が悪かっただけだ。
過去の研究でも三属性への変化に何の因果関係もない。
祖父として、一族の家長として、もっとしてやれることはないのか?
魔力を流してオメガから以前の状態に戻してやる事以外に何かないのか?
オメガが病気だとしたら、大陸最上位の治療系魔術でどうにかならないか?!
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