第15話:直談判

神暦3103年王国暦255年2月24日11時:ジャクスティン視点


 王家がよこした使者は、俺様と直接話し合いたいというものだった。

 会談してもらえるなら、領地にまで来ると言う。

 挑まれて逃げるのは、この世界の俺様の性格ではできない話だ!


「サザーランド公爵、アルファとなった婚約者の俺が、オメガ落ちしたジェネシスにわざわざ会いに来てやったのだ、さっさっとここに連れて来い」


 まだ卵の殻も取れていない尻の青いひよこの分際で、俺様に偉そうなな口利きやがって、女王待望のアルファ王女でなければぶち殺してやるのに。


「来てくれと頼んだお覚えはない!」


「ふん、親でもない爺さんのサザーランド公爵に許可を求める必要などない」


 本当に何も分かっていないクソガキだな。

 エマの奴、ろくな躾もしていなかったのか!


「俺様が一族の当主だ。

 一族の命運は全て俺様が決める。

 もう分離独立した、王家に何を言われても聞く必要などない」


「サザーランド公爵が分離独立しても、王侯貴族の約束は重い。

 勝手に婚約を破棄すれば慰謝料が発生する。

 慰謝料を払いたくないのなら、いや、サザーランド公爵家の家名に婚約不履行の汚点をつけたくないのなら、さっさとジェネシスを連れて来い」


「『性奴隷としてメス堕ちさせて俺の子供を孕ませてやる』と言ったのはお前だ。

 ジェネシスとの婚約を守って結婚するのではなく、性奴隷として扱うと、王国全ての貴族の前で宣言したのだ。

 自分の言った事を無かった事にできると思うな。

 今更何を言っても誰も信用しない、とっとと王都に帰れ!」


 こちらの言う事は一切聞かず、自分の言い分をとすだけ。

 いい加減エマに気を使うのが嫌になってきた。

 戦友とはいえ、子供の躾に失敗したのはエマの責任だ。


「約束を守らないと言うのなら、力尽くで奪う事になるぞ!」


 ここでブチ殺してやろうか?

 それとも手足の一本二本引きちぎってやろうか?


「既に何度も失敗している無能が何を言っている?

 それに、女王から手を出すなと言われているのだろう?

 俺様としては、躾のできていないガキはブチ殺してやりたい。

 だが、千人近くの子供に成人式させて、やっと血の繋がったアルファを手に入れた女王が哀れだから、見逃してやっているのだ。

 足元に明るいうちに王都に帰れ、尻の青いクソガキ!」


「大口を叩いていられるのも今の内だぞ!

 直ぐにお前など追い越してやる!」


「どれほど努力しようと、女王よりも弱いお前が俺様に勝てるものか!

 お前が努力していると言う間、俺様が遊んでいるとでも思っているのか?

 お前のような実戦経験もないクソガキが想像もつかないもう訓練を重ねている。

 時間が経てば経つほど差が広がると思え!」


「おのれ糞爺!

 どれほど努力しようと、糞爺など衰えるだけだ!

 糞爺が衰えている間に、俺が強くなってやる」


「強くなる努力すると言っている割に、今もこうして遊んでいるではないか?

 家の息子と娘は、今も激烈な鍛錬を重ね魔獣の核を喰らっているぞ?

 魔石どころか魔晶石や魔宝石を腹一杯喰らっているぞ?

 もうそろそろ女王よりも強くなるのではないか?

 俺様と女王級二人を相手にどうやって勝つ気だ?」


「おのれ、おのれ、おのれ、おのれ、今に見ていろ、必ず勝ってやる!

 お前も伯爵も准男爵もぶち殺してやる!」


「そう、そう、俺様はサザーランド大公を名乗る事にしたからよろしく。

 息子のセイントがサザーランド公爵を継ぎ、娘のオリビアがサザーランド伯爵を名乗るけど、別に陞爵祝いや叙爵祝いはいらないから。

 そもそもウェリントン王家は建国式に招待しないから」


「うぎゃああああ、死にやがれ、糞爺!」


「俺様は寛大で大人だから、王家王国に使者としてやってきたクソガキが、礼儀知らずを重ねても殺さずに帰したてやるけど、他ではやるなよ」


「……必ず殺す。

 何があっても殺す。

 どのような手段を使ってでも殺す!」


「くっくっくっくっ、それは楽しみだ。

 そう言って俺様を殺そうとした奴は何百何千といたが、まだ俺様は生きている。

 クソガキが俺様を殺すと言うならやって見せてもらおう。

 ……俺様の可愛い初孫をメス奴隷にすると言った落とし前をつけてもらう!」


 ほんの少しだけ本気の殺気を放ってやった。


「あ、あ、アルファが、オメガを奴隷にするのは当然の事だ!

 婚約者の誇りにかけて必ずジェネシスを手に入れる!」


 そう言って王女は逃げて行った。

 最後に放った俺様の殺気がよほど怖かったのだろう。

 取り繕っていたが、おもらししていたことぐらいお見通しだ。


 王女を追い払った俺様は亜空間の実験を繰り返した。

 同時に最上級魔法陣と魔道具の試作も繰り返した。

 試作に必要な素材も魔獣を乱獲して集めた。


 大陸で一番凶暴な魔獣の住むと言われているのが、俺様の領地にある魔境だ。

 奥に行けば行くほど濃密な魔素が人間を襲い、正気を失ってしまう。

 そんな魔境の大地と大気を亜空間に閉じ込めて時間を加速させる。


 魔境の大地だけでなく、普通の牧草地も亜空間に閉じ込める。

 草食の家畜も入れ、牧草の成長が促進されるくらいの魔素も加える。

 その上で亜空間の時間を加速させる。


 本当は時間を極端に遅らせた亜空間も創って実験したかった。

 時間を止めた亜空間に素材を放り込んでいるから、実験しているも同然だ。

 だが、それなりの知能がある生物を放り込んでの実験はしていない。


 本当は自分が入って確認したいのだが、この状態ではやれない。

 確実に生きて帰れるか分からない実験をするのは無責任すぎる。

 少なくともジェネシスの安全を確保するまではできない。


 そのジェネシスだが、今もまだこちらと同じ時間経過の亜空間にいる。

 生きた人間を時間の流れを変えた亜空間には入れられない。

 俺様が幾ら傍若無人であっても、動物実験が終わるまでは我慢する。


「父上、父上が教えてくださったやり方で魔術を発動出来ました!」


 サザーランド公爵を継いだセイントが満面の笑みを浮かべて話しかけてくる。

 まだレベル一の魔術しか発現できていないが、それでも凄い進歩だ。

 セイントの年代には魔法陣や魔道具の知識は教えていなかったのだから。


 同年代でベータ判定された子供達には、後から教えていたが、アルファに成れたセイントには必要ないと思って教えていなかった。

 何の基礎知識もないのにこれだけ短時間に魔術を覚えられたのだから優秀だ。


「父上、私も次の段階に進める事ができました!」


 准男爵から実力に相応しい伯爵になったオリビアも満面の笑みを浮かべている。

 オリビアの年代には幼い頃から魔法陣と魔道具の知識と技を教えている。

 その分セイントよりも覚えが早く次々と魔術を習得している。


 アルファとしての強さは伯爵級だが、魔術を組み合わせて戦ったら、女王が相手でも十に九は勝てるだろう。

 もう一段階進めて、どのような状況でも確実に勝てるようにしておこう。


「セイント、オリビア、俺様が実戦訓練をつけてやるからついてこい!」

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