第14話:子供達
神暦3103年王国暦255年2月22日10時:ジャクスティン視点
ジェネシスを亜空間に閉じ込めて三十日以上過ぎている。
もう出して大丈夫だとは思うのだが、念には念を入れておいた方が良い。
俺様すら惑わすジェネシスのフェロモンは、アルファの理性を破壊する。
「父上、大陸連合魔導学院から書籍が届いております」
前世の記憶と知識を思い出すまでの俺様は脳筋の気があった。
今思えば恥ずかしくなるようなプライドもあった。
プライドを護る為に最低限の魔術の知識と技しか修練していなかった。
「俺様の執務室に運ばせておいてくれ」
九十九・九パーセントの確率でベータかオメガになる子供達のために、魔法陣と魔道具の知識と技術は取り寄せ身に着けていた。
だが大魔術とも言われるレベル外の魔術までは覚えないようにしていた。
「分かりました、文官と従官に運ばせておきます」
だが、今となっては以前のプライドが恨めしい。
本気で家族の事を考えるなら、もっと多くの魔術を取り入れておくべきだった。
そう反省したから、過去の戦いで恩を売ってあった連中に禁書を送らせた。
「それにしても、プライドの高い学院の教授が貴重な書籍を送ってきましたね」
大陸連合魔導学院は、この大陸中から優秀な魔術師が集まる学び舎だ。
そこで教鞭を取る教授連中のプライドは鼻に突くくらい高い。
だが、プライドに反して根性のない者が多い。
「連中には貸しがあるし、逆らえないように調教してある」
過去何度もあった外国との戦争では、大陸連合魔導学院が参加した事もある。
俺に徹底的に叩かれ、屈辱に満ちた捕虜生活を送った事で、連中は永世中立を宣言して二度と国家間の戦争には嘴を入れないようになった。
「以前言われていた戦争の事ですか?」
本来なら死ぬまで扱き使うくらいの罪を犯した重罪犯を開放するのだ。
目先の身代金だけで許すほど俺様は甘くない。
一生俺様に逆らわない事と新たに得たモノも含めた全ての知識の提供を誓わせた。
「ああ、あいつらにはシャレにならない数の人間を殺された。
何物にも代えられない人間の命を奪われたのだ、どれだけの金や領地を差し出されても許されない。
生きている限り人殺しの償いをしてもらう。
金を払ったから、懲役を終えたから、好き勝手していいとは絶対に言わさない。
もしそんな事を言ったら、この世の生き地獄を味合わせさてやる」
「父上に目をつけられるような事をしたらお終いですね」
「連中に殺された人間は人生をお終いにされたのだ。
生きている限り罪を償い続けるのは当然の事だ。
何の罪も犯していない善良な人間と同じ権利がある思える方が異常だ!」
「そういう話を父上に振った自分が愚かでした。
それで父上、兄弟姉妹に全ての魔術を教えるのですか?」
俺様はベータ落ちした子供達を見下し過ぎていた。
彼らは俺様が与えた知識と技術を全て身に着けていた。
素材さえ与えれば魔道具も魔法陣も完璧に作れるようになっていた。
「ああ、俺様の子供達なら全て覚えてくれる。
使い方を誤る事もないだろう。
王家が着々と侵攻準備を整えていると聞く。
アルファ騎士やアルファ准男爵は彼らに任せたい」
「分かりました、騎兵隊の護衛をつけて魔境の狩りに行かせます。
父上が持っておられた素材は中級や上級の魔法陣や魔道具に使います。
普段使いの下級魔法陣や下級魔道具用の素材が不足しています」
「ほう、騎兵隊が狩ってくる素材を全部使い切ったのか?」
「はい、下準備が終わった、熟成が必要な素材以外は使い切ったようです。
父上が新しく手に入れてくださった魔導書に書いてあった、回復薬や治療薬に必要な素材も沢山あって、これまで考えていた以上の量が必要なのです」
「変なプライドで、外国では普通の魔術由来の回復薬や治療薬を取り入れなかったから、その点ではかなり遅れているからな……」
「それはしかたありませんよ。
ウェルズリー王国はアルファ貴族による支配が前提の国です。
大多数がベータ平民とはいえ、彼らのために貴重な魔獣の素材を使って回復薬や治療薬を作るなんて、考えもしなかったでしょう」
確かにセイントの言う通りだ。
そもそも魔術由来の物はベータには作れない。
魔力のあるアルファが魔術で作る必要があるのだが、アルファは魔力を身体の外に出す事を恥だと思っている。
「そうだな、俺様が魔力を使って作ると言ったら驚いていたからな」
それでも、最初の製作を手助けしてやったら後は何とかなる。
作った魔法陣や魔道具で魔獣を狩り、魔石や魔晶石が手に入れば、そこから、魔力を取り出して利用する事ができる。
「そうですよ、魔獣の肉はアルファの力を高めてくれます。
一定量の魔石や魔晶石を食べれば、生まれ持った才能を超える力が手に入る。
父上もそうして強くなられたのでしょう?」
セイントの言う通りだ。
俺様が大陸に冠絶する強さを手に入れられたのは、多くの魔獣を喰ったからだ。
持って生まれた才能も人並み外れていたが、努力を積み重ねたのが一番大きい。
「そうだな、努力の結果だ」
「私も父上を見習って努力を重ねてきました。
ですから、もっと努力の機会を与えてもらえませんか?」
「何を言っているのだ?」
「時に流れを遅くする亜空間を創り出せると言われましたよね?
私をその中に入れてもらえませんか?
そうしたらこの世界で一時間過ぎる間に、亜空間で一年でも二年でも修行できるのでしょう?」
「頭の中で考えているのはその通りだが、まだ実験を始めたばかりで、どのような危険や弊害があるか分かっていない。
大切な後継者を入れる訳にはいかない。
そんな危険な事をしなくても、もっと安全に強くなる方法はある」
「その通りなのですが、私は魔力を外に出して魔術にする事が下手なようです。
時間をかけて覚えるには亜空間が一番良いと思ったのです」
「安全性が確認できた亜空間に入れてやる。
それまでは普通に努力しろ」
「分かりました、普通に努力させていただきます。
できれば父上が狩られた魔石や魔晶石を譲っていただきたいのですが、駄目ですよね?」
「お前に喰わせるくらいなら俺が喰う。
魔石や魔晶石は魔道具を造るのに必要なんだ。
どうしても喰いたいのなら自分で狩れ」
「しかたありませんね、魔術の練習がてら魔獣を狩りますか」
「公爵閣下、王国から親書が届きました。
いかがいたしましょうか?」
王尺家に仕える侍従、従官の一人が会話に割って入ってきた。
敵対しているとはいえ、王国の正式な手紙は急いで読んだ方が良いと思ったのだろうが、俺にとっては大した事ではない。
「王国の使者が届けてきたのか?」
「はい、返事を待っておられます」
やれ、やれ、この期に及んで詫び状でも届けてきたのか?
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