第13話:発情期
神暦3103年王国暦255年1月21日12時:ジャクスティン視点
「公爵閣下、発情期です!」
何も考えられなかった夢の時間から覚醒した。
夢ではなかったのは、現実に戻るために払う犠牲で明らかだ。
頭と心臓は破裂しそうだし、神経が逆立って全身に針を刺されたように痛い!
逆らい難い誘惑から抜けだすには、想像を絶するほどの意思の力が必要だ!
だが俺様は、そのために刃物を身体に突き刺すほど軟弱ではない。
意思の力で抜け出せるが、それでも、奥歯が砕けるくらいの我慢は必要だった。
俺の目の前にはうなじを赤く染めた発情期のオメガがいる。
そこに牙を突き立てて番の印をつければこのオメガを俺様のモノだ。
それこそがアルファの存在意義であり、オメガの幸せでもある。
「ジェネシス様です!」
ぐっあああああ!
本能に負けるほど俺様は弱くない!
自分の孫に襲いかかるような、鬼畜になってたまるか!
「お爺様💘」
このクソガキ、発情期に負けてんじゃねぇえ!
自分の爺さんを誘惑してどうする!
なんでジェネシスのうなじが近づいてくる?!
「サブスペース!」
ゼイ、ゼイ、ゼイ、ゼイ、ゼイ、危なかった!
鬼畜の近親相姦爺に落ちてしまう所だった。
それにしても、何という強力なフェロモンなんだ!
「閣下、ジェネシスはどうされたのですか?!」
親衛騎兵隊の隊長がたずねてきた。
いきなり目の前から消えた事を疑問に思っているのだろう。
親衛騎兵が情報を漏洩するとは思えないが、秘密は多ければ多いほどいい。
「公爵家の秘密だ、知らせる訳にはいかん」
ジェネシスは俺が事前に創りだしていた亜空間にいる。
衣食住が揃っているから、何非自由ない生活ができる。
勉強や鍛錬を重ねるのに最高の場所になるだろう。
「さようでございますか、よけいな事を聞いてしまいました」
オメガの発情期間には個人差があるが、二十日から三十日が普通だ。
余裕をもって四十日、いや六十日は亜空間に居てもらおう。
非常食は一年分蓄えてあるし、水もたっぷり用意してある。
「いや、よく頼んでいた事を果たしてくれた。
お前が言葉をかけてくれなかったら、取り返しのつかない事になっていた。
お陰で公爵家の名誉は保たれた」
問題があるとしたら、亜空間に閉じ込められているジェネシスの精神状態だが、実験用に五畜だけでなく犬猫も入れてある。
ジェネシスなら家畜やペットと上手く付き合って自己セルフしてくれるはずだ。
「畏れ多い事でございます。
自分は閣下の命令に従っただけでございます。
何かが分かっていて、命懸けでやった事ではありません。
お褒めの言葉を頂くほどの事はできておりません」
もう少し研究時間が有ったら、亜空間の時間の流れを遅くしていた。
そうすれば、亜空間の中で鍛錬する事で現実に何十何百倍も鍛えられる。
この世界にパソコンはないが書籍はあるから、勉強に籠る事もできる。
「その命令通りにできる者が少ないのが現実だ。
隊長が命令通りにやってくれた事が、俺様の助けになった。
これからも命令通りに働いてくれるように、配下の者達も同じように俺様の命令に忠実に従ってくれるように、正しく評価し褒めているだけだ」
もう幾つか亜空間を創って実験をしておこう。
現実より速い流れの亜空間も創ってどうなるかを検証しよう。
獣や魔獣を放り込んで、繁殖させて増やせれば食糧問題も解決する。
「過分なお言葉恐悦至極でございます」
時の流れを早くした亜空間に入れる事で、一瞬で発情期を終わらせる事も可能だ。
時の流れを遅くする事で、現実世界だけ時を進めるとどうなるだろう?
浦島太郎のように取り残されて狂ってしまうだろうか?
「ではこのまま魔境で狩りを続ける」
そんな事は後で考えればいいな。
今考えるべきなのは、俺様すら狂わせる発情期をどう乗り切るかだ。
ジェネシスを危険な目には合わせられないから、今回は普通に隔離だ。
「はい、お任せください」
発情期の獣や魔獣を時に流れを早くした亜空間に閉じ込める実験をする。
それが成功したら、ジェネシスが発情期を迎えても心配しなくてよくなる。
そもそもアルファとオメガにだけ発情期があるのは何故なのだ?
「日が暮れるまでできるだけ多くの魔獣を狩る」
ベータには発情期がない。
外国人にも発情期がないと聞いている。
十五歳の成人を迎えたら三属性に分かれる体質も外国人にはない。
「はい!」
俺達人間が外国人とは違う選ばれた種族なのかもしれないが、それにしてもアルファとオメガだけが発情期を持っているのは不思議すぎる?
まあ、アルファは発情期じゃなくても自由に性交できるから何の問題もない。
「周囲に集まっている魔狼と魔熊は全て狩り尽くすぞ!」
簡単に結論を出せない難問題は、時の流れを遅らせた亜空間で考えよう。
ここで悩んでもしかたがない。
今は魔獣を狩って魔道具と魔法陣を作る事だけ考える。
「はい!」
そうだ、魔境の一部を亜空間に閉じ込めてみよう。
魔境独特の魔力に満ちた空間が、亜空間でも維持されるのかを確かめてみたい。
自然環境をそのまま亜空間に閉じ込められたら安全な耕作地が作れる。
「サンドホークアイ」
空から地上を見下ろして把握する魔術を使う。
「レーザー・ディテクション、サウンド・ディテクション」
レーザーと音を使って周囲の状態を把握する。
俺様は鷹でもコウモリでもイルカでもないが、前世の知識がある。
軍艦や漁船の探知機がどう映し出すかは知っている。
「ウルトラ・スーパー・ウィンドアロー」
この世界にはないと思う、俺の想像した風魔術を発動する。
百の魔法陣からそれぞれ百のウィンドアローを発現させる大魔術だ。
結構な量の魔力が必要だが、それは飯を喰えば幾らでも補える。
「サブスペース!」
狩った魔獣は片っ端から亜空間に放り込んで保管する。
時の流れが止まっていると思い込んで創った亜空間に保管する。
これが成功すれば食糧の保存期間を気にしなくてすむ。
「ウィンド」
ただ自分がその場にいないから、亜空間までは風魔術で移動させないといけない。
その分余計な魔力が必要になるが、多めにローストポークを食べればいい。
今日狩った魔熊をこんがりと焼いたローストベアーでもいいぞ。
「ウルトラ・スーパー・ウッドアロー」
周囲の魔樹を利用した魔術も使っておこう。
同じ属性が満ち溢れた場所ほど魔力の消耗が少なくて済む。
必要な魔力は惜しまないが、魔力を無駄遣いする気はない。
「サブスペース!」
親衛騎兵達が余計な疑念を持たないように、多少の獲物を残しておこう。
領都に凱旋する時にある程度の獲物があった方が威信を高められる。
特大の魔熊はこいつらの前で狩るか。
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