第14話 もう帰ろう?

お盆の時は海に行っては行けない



小さい頃、祖父や祖母に言われた事があるだろうか?



私はある。



これは50年も前に聞いた怖い話――





















「祖父」「宗次郎や」


「宗次郎」「ん?なに?おじいちゃん」


「祖父」「もうお盆が近い…お盆が終わるまでは決して海に近づくな…分かったな?」


「宗次郎」「…なんで?」


「祖父」「それはな…!」


「祖父」「お盆になると…海の至る所の海底で、この世とあの世を繋ぐ穴が現れるからじゃよ」


私が住んでいた地域は、岩手県の海岸側のある地域。


そこはかつて、超巨大地震によって最悪の被害にあった地域だ。


岩手県だけでも死者は1万を越える程の被害だった…


地震があった年以降…お盆になると海に泳いでいた人は、必ず溺れてしまうという噂まで広まった。


「祖父」「だからこの地域には、昔からこういう風習がある…」





















「祖父」「引き上がった家族の遺体に…もう帰るよ…というんじゃよ」


「宗次郎」「もう帰るよ?」


「祖父」「あぁ…さっきも言ったように、お盆になるとこの世とあの世を繋ぐ穴が現れる」


「祖父」「遺体が運良く浜辺に上がった時は、皆よう言っとった」


「祖父」「遺体が…魂があの世に行かないよう…もう帰るよ…とな」


「祖父」「死んでずっと1人じゃなんて…嫌だろう?」


「祖父」「我が家にいた方がずっと幸せさ」


「宗次郎」「…」


「祖父」「その風習が広まった以降、お盆に海で溺れる人は少なくった」


「祖父」「じゃが…魂が完全にあの世に行った者の方が多い」


「祖父」「じゃからの?宗次郎」


「宗次郎」「?」




















「祖父」「お盆が近づいてきたら、海には行くな!」


「祖父」「ワシは…お前まで失いとぅはない!」


「宗次郎」「…!」





















祖父の息子夫婦…つまり宗次郎の親は、お盆に海で亡くなっており、また祖父の母親と父親も、あの地震で…

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