第21話

『闇』

『光』


『………………』

『うそうそ。今度はどうしたの?』


『……勇人君が朝宮先輩に取られちゃう……』

『取られないって。先輩だって冬花が伏見の事好きなの知ってるでしょ?』


『……だって、別に私と勇人君付き合ってるわけじゃないし……。勇人君かっこいいし、優しいし、かっこいいし、一週間も一緒にパトロールしたら絶対好きになっちゃうじゃん……』

『ならないでしょ……』


『なるよ! っていうかもうなってる! 勇人君女の子助ける為に火事場に乗り込んでいったんだよ! そんなのかっこ良すぎだよ! 絶対惚れてるよ! あああああ! 私がいたら秒で消化して好感度稼げたのにいいいいいい!』

『あれね。新聞載ってたし、ヒーロー扱いされてない? 確かに頑張ったとは思うけど、扱いが大きすぎない? なんか臭いよ』


『萩本さんが動いてるみたい。よくわかんないけど、私とのバランスを取る為だって』

『……大丈夫なの? 異能庁の人だか知らないけど、胡散臭いって言うか、信用できないって言うか。なんか企んでる系の人じゃん』


『部長に似てるよね。悪い人じゃないと思うけど。って、それはいいの! それより勇人君! 朝宮先輩といちゃいちゃしてない?』

『してないって。普通にパトロールで組んだり一緒に訓練してるくらい』


『病みまみた』

『なんで……』


『だってそんなのいちゃいちゃじゃん! パトロールとか見えない所でなにしてるか分かんないし! 訓練とかお触りし放題じゃん!』

『お触りって……。普通に鍛えてやってるだけでしょ。伏見は丈夫なだけで戦闘力ないし。って言っても、無茶な戦い方するし、喧嘩自体は普通に強いみたいだけど。あたしの敵じゃないけどね』


『マルちゃんはフィジカルオバケなんだから当たり前! 強くないのに頑張ってる所が尊いんだよ!』

『さいですか』


『朝宮先輩は強敵だよ! だって年上だし、面倒見良いし、普通に良い人なんだもん! なのに小麦色の金髪ギャル! で、ちょっとメンヘラ入ってるし! 男の人が好きな属性詰め合わせじゃん!』

『そんな事ないでしょ……』


『あるって! わかんないけど!』

『そんな事言ったら冬花だってメンヘラじゃん』


『……私の場合は重いだけでリアルだとウッてなる奴だもん……』

『……自覚あったんだ……』


『あるよ! でもどうにもなんないの! 初恋の相手だし大大大好きだし全然会えないし、こうしている間にも誰かに取られちゃうんじゃないかって不安になっちゃうの! それに私……有名人だし。付き合っても面倒なだけだし、遠くの女より近くの女っていうし……』

『ストップストップ! 自分で言ってて病んでるでしょ!』


『だってええええええ! 私も勇人君と一緒に居たい! 沢山お喋りしていちゃいちゃして事件解決して良い感じの雰囲気になって好感度爆上げしたいいいいいい!』

『すればいいじゃん……』


『そんな都合よくイベントなんか起きないし! そもそも私、忙しくって学校だってろくに行けてないし!』

『そうだけど、全然時間ないってわけじゃないでしょ? この前だってあたしと映画見に行ったじゃん』


『……そうだけど。私からアプローチするのは恥ずかしいっていうか……』

『冬花からしなきゃどうにもなんないでしょ。あいつ、謎に硬派ぶってるし。女子と関わったらかっこ悪いとか思ってる脳ミソ小五タイプだよ』


『いいじゃん硬派な人! 攻略難度は高いけど、絶対一途だよ! 絶対浮気しないタイプ!』

『そう? そういう奴に限ってぐいぐい押されたらコロっといっちゃう気がするけど』


『……どうしよう。朝宮先輩に色仕掛けされてたら……』

『だからないって……。先輩こそそういうタイプじゃないじゃん』


『わかんないよ。ああいう真面目なタイプこそ、好きってなったら大胆そう! ごめんなさいって泣きながら思いっきり横取りして悲劇のヒロインぶりそう! うううううう! 私も悲劇のヒロインになって勇人君に構われたいいいいいいい!』

『なればいいじゃん……』


『無理だよ!? 私、カテゴリー5なんだよ! 悲劇とか無縁だもん!』

『また病んだって言って構って貰えばいいじゃん』


『面倒くさい女だって思われたくないの! 既に色々やっちゃってるし! だから私からは声かけにくいって言うか……』

『……なに? 私にセッティングしろって言ってんの?』


『だってマルちゃん、私より勇人君と仲いいでしょ?』

『全っ然!』


『下の名前で呼ばれてるじゃん!』

『伏見が勝手に呼んでるだけ!』


『良いじゃん! めっちゃ良いじゃん! 私も冬花って呼ばれたい!』

『言えばいいじゃん……』


『そんなの自分で言うの変じゃん! 一応私、清楚キャラで通ってるし!』

『う、うん』


『なに?』

『いや』


『なに!』

『セッティングって二人っきりで遊びに行く約束とかでいいの?』


『それはちょっとハードル高いと言いますか……』

『じゃあ、あたしもついていこうか?』


『そうしてくれると助かります』

『え。冗談だったんだけど。冬花が伏見といちゃいちゃしてるの横で見てるのとかあたし嫌なんだけど』


『いちゃいちゃ、出来たらいいなぁ……』

『もしも~し』


『マルちゃんがアシストしてくれたら良い感じになれると思うし!』

『言っておくけど、あたしは伏見の事認めてないからね?』


『そんな事言って、マルちゃんは誰も認めないでしょ? 良いのマルちゃん? 私が一生独身でも!』

『……その時はあたしが責任取って貰ってあげるし』


『ごめんねマルちゃん。私、男の人が好きなの』

『知ってるし! 別にただの冗談だし!』


『でも、マルちゃんは一番で特別な親友だよ?』

『わーい。うれしー』


『仮に私と結婚したとして、マルちゃんは私とどうしたいの? エッチな事したいの?』

『ごめんなさい。その話はもういいので勘弁してください』


『……マルちゃんがどうしてもそういう事したいって言うなら、ちょっとくらいならいいけど』

『本当?』


『……マルちゃんが本気なら。でも、初めてはダメ! 初めては好きな人とって決めてるの!』

『……生々しいからこの辺にしない?』


『そうだね。じゃあ、もう一人男の子誘う? ダブルデート的な!』

『あたしは別に彼氏とか欲しくないんだけど』


『じゃあ嬲君とかどう? あの子なら女の子になれるし、美形だし、マルちゃん好みのSっぽくない?』

『は、はぁ!? あたしは別にMじゃないし!』


『わんこ系はMって相場が決まっているのです』

『オタク! 猫被り!』


『ニャー!』

『てか、あいつら三バカだから片方呼んだらもう片方もついてくるんじゃない?』


『だよね。大君だけ仲間外れにするのも可哀想だし。勇人君的にも三人一緒の方が誘いやすいだろうし……』

『そしたらこっちももう一人呼ばなきゃおかしくない?』


『閃きました!』

『どうぞ』


『朝宮先輩を誘って大君か嬲君とくっつけちゃうの! そしたら私も安心! 完璧な作戦じゃない?』

『過程が一つもない事を除けばね』


『そこは臨機応変に!』

『ていうか、いきなり3、3で遊ぼうとか言うのおかしくない? しかも一人先輩だし。いくらあたしでも気まずいんだけど……』


『じゃあ合コンって事にするとか! 男の子好きでしょ、合コン!』

『そう?』


『絶対好きだよ! あたしも合コンしてみたかったし! 合コンなら自然な流れでカップルになれるかも! そうしよう!』

『……そうなると、あたしはどっちかとくっつかないといけなくなるんだけど……』


『嬲君も大君もとっても良い子だよ? 嬲君は顔がいいし、大君は唐揚げ食べ放題!』

『はいはい。で、いつにすんの?』


『スケジュール確認するね! ありがとマルちゃん! 大大大好き! 心の友よ!』

『はいはい』


 適当に返すと、円子はふくれっ面で自室のベッドに仰向けになる。


「……なにさ。伏見伏見って。あたしの方が先に好きだったのに」


 間違った恋、叶わない恋なのは分かっている。

 それでも親友でいてくれる冬花が稀有な存在である事も理解している。

 ……それでも、もやもやするものはどうしようもない。


「……あーあー。あたしも男女島みたいに男になれる異能だったらな」


 どうせ変身するなら、毛深い狼なんかじゃなくて男になりたい。

 割りと本気で円子は思った。

 ブブッとお腹の上で携帯が震える。

 確認すると、冬花から画像が送られてきた。


「――っ!?」


 大胆に肌着をはだけさせた、あられもない画像だ。


『せめてものお礼です』

「ば、ちょ、そんなの、だめだってば!?」


 真っ赤になってあわあわしつつ、内心では物凄く嬉しかった。

 本当ならやめなさいと言うべき場面なのだが。


『いただきます』

『すけべ』


「そういう意味じゃないってば!?」


 まぁ、そういう意味になってしまったのだが。

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