第18話
「伏見!?」
「これくらいなんでもねぇよ!」
地面を転がって火の付いた服を消化すると、今度こそ家の中に入っていく。
「げほ、げほ、ひでぇなこりゃ!?」
すでに一階はかなり火の手が回っている。
熱いし煙いしで最悪だ!
「愛美ちゃん!? どこだ! 助けに来たぞ!?」
愛美ちゃんを探しつつ、台所へと向かう。
制服の上着をシンクに放り込むと蛇口を捻って水をかけ、その間に冷蔵庫を開けて牛乳やら麺つゆやら水気のある物を片っ端から頭に被る。
別に俺は火だるまになったって平気なのだが、そんな状態じゃ愛美ちゃんを見つけても連れ帰れない。
そういうわけで全身飲み物と調味料まみれになって濡れた制服を羽織ると、ダッシュで階段に向かう。
まだ一階を探し終わってないが、この様子だと全部見て回っている余裕はなさそうだ。
七才なら火事で上に逃げるくらいの事はするだろう。
というか逃げててくれ!
そう祈りながら二階に向かうのだが。
「はぁ!? なんで二階も燃えてんだよ!?」
火元は一階だと思っていたのだが、二階も同じくらい燃えていた。
もう、ほとんど火の海状態だ!
こんな状態で生きてるわけがない……。
絶望で足元がふらつくが、まだ死体を見たわけじゃない。
俺が諦めたらそこで終了だ。
一パーセントの可能性だってなくなっちまう!
「愛美ちゃん! おい! どこだ! 頼むから返事してくれ!」
片っ端からドアを開ける。
開かないドアは力づくで蹴り破る。
既にびしょ濡れだった俺の服は乾きだし、いつ火だるまになってもおかしくない状態だ。
そうなる前に見つけないと……。
「……なんだ、ありゃ」
一つだけ、やたらと火の勢いのつよい部屋がある。
普通に考えれば、そんな所に愛美ちゃんがいるはずがない。
いた所で助かるはずもない。
だから後回しにするべきなのだが。
……虫の知らせというのだろうか。
なにか妙な気がして、俺はその部屋へと駆けこんだ。
「……クソッタレ! そういう事かよ!」
どうやら愛美ちゃんは自分の部屋に逃げ込んだらしい。
火の海になった部屋の真ん中で、ぐったりと倒れている。
母親の言っていたピンクの服は焼け落ちて、すっぽんぽんの丸裸だ。
そんで、長い髪の毛が炎のように赤くなってメラメラと揺らめいている。
……異能が暴走したのか、突然強度が増したのか。
なんにせよ、火傷を負っていない所を見るに炎には耐性があるらしい。
けど、煙が平気かは分からない。
実際死んだように倒れてるし。
でも、死んでるなら異能の効果は解けるはずだ。
……多分。
わかんねぇ。
俺は異能博士じゃねぇ!
なんにしても、このままここに置いといたら死んじまう!
「今母ちゃんところに連れてってやるからな」
気合を入れると、俺は炎を頭に宿した愛美ちゃんを抱きかかえた。
燃える頭髪に身体を焼かれるが仕方ない。
愛美ちゃんが炎に耐性があるのは幸いだ。
あとはここから逃げるだけ。
ちょっと荒っぽいが、愛美ちゃんを抱えて窓から飛び降りるか。
なんて思っていると、頭上からメリメリと嫌な音が響いてきた。
「ふざけんなよ!?」
慌てて廊下に飛び込む。
直後、愛美ちゃんの部屋の天井が崩れた。
クソッタレ!
もう一秒だって惜しいってのに!
「……あ、ぅ」
眩暈がして膝を着く。
やべぇ。
足に力が入んねぇ。
煙を吸い過ぎたか?
「バカ、野郎……あと、ちょっとだろうが……」
全力で足を殴って自分を鼓舞するが、炎の痛みが強烈すぎて何の足しにもなりやがらねぇ。
「根性、見せろよ……。てめぇ一人で生き残って、どうするんだよ……」
愛美ちゃんを片手に抱えて必死に廊下を這う。
あぁ! 俺にもっとすげぇ異能があれば!
そう思わずにはいられない。
だめだ。
瞼が落ちる。
気絶しちまう。
隣の部屋が。
あまりにも。
遠い。
ドゴン!
大砲でもぶち込まれたような音と衝撃に家が揺れる。
お陰で俺の目も覚めた。
「……へへ。やってくれるじゃねぇか」
家の壁をぶち抜いて、鉄球みたいにデカいヨーヨーがぶっ刺さっていた。
新鮮な空気が入り込み、酸素を求めて炎が膨れ上がる。
「ぐぁあああああ!?」
咄嗟に俺は愛美ちゃんに覆い被さった。
この子は炎に耐性があるから、そんな必要はなかったのだが。
遅れて俺も息をして、頭はさっぱり回復だ。
「伏見!? 伏見!? 生きてるし!? ねぇ! 伏見いいい!?」
「おう! この通りピンピンしてるぜ!」
「ちょ!? 伏見!? なんで裸だし!?」
「燃えるもんは全部燃えちまった! それより、ヨーヨー借りるぜ!」
家に突き刺さったままのヨーヨーから伸びる紐を片手で掴み、そのまま人間ロープウェイになって朝宮の所まで下りていく。
「伏見!? 大丈夫!?」
「俺はなんともねぇよ。それより救急車だ!」
「部長が『裏口』開いてるし!」
朝宮が向かいの家を指さす。
扉の向こうでは手術室をバックに一戸先輩が早く来いと手招きしている。
「……全く、頼れる先輩方だよ!」
ニヤリとして、俺はフリチンのまま扉の向こう飛び込んだ。
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