第17話
「パトロール中に携帯いじんなし!」
「碓氷のライン放置してっと心配して面倒なんだよ! てか、朝宮先輩だって携帯弄ってんだろうが」
「あーしのは風紀部の定時連絡! 彼女といちゃついてるわけじゃないから! 一緒にすんなし!」
いい加減避けるのも面倒なので尻を蹴らせてやる。
本日がパトロールの最終日なのだが、相変わらず俺と朝宮の仲は険悪だった。
「だから、彼女じゃねぇって言ってんだろ! 真面目にパトロールしてんだからがみがみ言うなよな!」
げっそりとして言い返す。
一週間も一緒にパトロールをしていればある程度は人となりも分かってくる。
円子が言っていた通り、朝宮はギャルの癖にクソ真面目な奴だった。
なんか無駄にピリピリしてるし、煙たがられるのも当然という感じだ。
「どこが真面目だし? あんた、全然仕事してないじゃん!」
「仕方ねぇだろ、大した事起きねぇんだから。事件さえ起きりゃ俺だって活躍してやるよ!」
俺の言葉に、朝宮が怖い顔で胸倉を掴んできた。
「はぁ? なにそれ? 事件なんか起きない方が良いに決まってるし! 風紀部の仕事は遊びじゃないし! 人の命がかかってんだよ!」
いい加減頭に来て、朝宮の手を払いのける。
「うざってぇな。一々揚げ足取るんじゃねぇよ。そんなんだから他の連中にウザがられるんだろ」
風紀部に入ると決めたのは俺だ。やるからには半端な真似はしたくない。
だからこの一週間、俺だって真面目にパトロールをしてきたつもりだ。
異能絡みの事件は起きなかったが、重そうな買い物袋をぶら下げてとろとろ歩いてる婆さんを家まで背負ってやったり、迷子で泣いてるガキを慰めて家まで送ってやったりした。路地裏でカツアゲをしていた中坊をぶん殴って説教だってした。
けど朝宮は認めない。
そんなもんは誰でも出来る事で、風紀部の仕事の内には入らないんだと。
アホくせぇ! ちっちぇ人助けだって立派な仕事だろうが!
それでムカついていてつい言ってしまったのだが。
「――あんたねぇっ!」
朝宮の地雷を思いきり踏み抜いたらしく、怖い顔でビンタされた。
その癖朝宮の奴、自分が殴られたみたいな顔をしやがる。
「……ご、ごめん。そんなつもりじゃなくて……」
「別に。殴られるのなんか慣れっこだ。なんとも思わねぇよ」
なにをされても怪我をしない『クマムシ』の俺だ。
怪我をしなけりゃ証拠も残らないから、ガキの頃から色んな連中の玩具にされてきた。
面白半分に異能で嬲られたり、非異能者のクソガキ共にストレス発散で殴られたり。
そんな毎日を送っていれば嫌でも色々鍛えられる。
痛いのも怖いのも理不尽な暴力も慣れっこだ。
ただ、俺の中での朝宮の株は地の底まで落ちていたが。
冷ややかな目を向ける俺を見て、朝宮が泣きそうになる。
そんな顔するくらいなら手なんか出すんじゃねぇよ。
そのまま暫く無言で歩いていると。
「……なんか焦げ臭くねぇか?」
「……鼻詰まっててわかんない」
半泣きの朝宮が鼻をぐすぐすさせながら言う。
「いや、ぜってぇ焦げ臭いって。どっか火事なんじゃねぇか?」
その言葉に、朝宮の目の色が変わる。
「ヤバいじゃん!? どっち!?」
「わかんねぇけど、多分こっちだ!」
勘を頼りに臭いを追うと。
「……おいおい、やべぇだろ……」
「大火事じゃん!?」
立派な一戸建てが豪快に燃えていた。
茫然とする俺を他所に、朝宮が野次馬に消防車を呼んだか確認する。
「なんで誰も呼んでないし!?」
どうやらその場にいる全員が誰かが呼んだものと思っていたらしい。
それで朝宮が慌てて消防局に電話するのだが。
「……離してください!? 中に娘がいるんです!?」
買い物帰りらしい主婦が野次馬と揉み合ている。
「中に娘って……」
「嘘でしょ……」
二人して青くなっていると、母親らしき主婦と目が合った。
「風紀部の方ですよね!? お願いします!? 中に娘がいるんです!? 異能でどうにか出来ませんか!?」
「ま、待ってください! 今部長に連絡して、どうにか出来そうな人を送って貰いますから!?」
「そんな悠長な事言ってる場合かよ! 娘さんの名前は!?」
「あ、愛美です! 七歳で、ピンクの服を着てます!」
「七歳でピンクの愛美ちゃんだな!」
「バカ!? カテゴリー0が無茶すんなし!?」
入口に向かって走る俺を止めようと朝宮がヨーヨーを伸ばす。
「俺は燃えても死なねぇ『クマムシ』だ! 今働かないでいつ働くんだよ!?」
鉄の塊みたいに硬い朝宮のヨーヨーを蹴り返すと、急いでドアノブに手をかけるのだが。
「あっちぃいいいい!?」
火事のせいでドアノブが焼けてやがる。
オマケに鍵がかかっているのか熱で変形したのか、幾らドアノブを回しても開きやしない。
「朝宮! お前のヨーヨーでブチ破ってくれ!」
「で、でも……」
「いいからやれ! ガキの命がかかってんだよ!?」
「わ、わかったし!? 危ないから、ちょっと退くし!?」
朝宮のヨーヨーが巨大化し、ガツンと扉をぶち破る。
「っしゃぁ! これで――」
ブチ破った扉から炎が吹きあがり、俺の身体を吹き飛ばした。
バックドラフトだ。
親父が昔、そんな映画を見ていた気がする。
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