第16話

『おばんです! 風紀部の方はどうでしたか? 本当は私が一緒にいて皆さんに一人一人直接ご紹介したかったのですが……。もし嫌がらせとかされたら言ってください! 伏見さんは良い人だってちゃんと説明しますから!』


『パトロール中でしょうか? 初日から遅番という事はないと思うのですけど。危ない目に遭ってたら教えてください! 部長に連絡して、すぐに助けに行きます!』


『大丈夫ですか? 伏見さんは無敵なので大丈夫だとは思うんですけど……、既読がつかないので心配です……』


『伏見さん? 大丈夫ですか?』


『……部長に連絡したらパトロールはもう終わったって言ってました。また変な人に絡まれてないか心配です。一言でいいので連絡ください』


『すみません! 通話中だったんですね! お邪魔してすみませんでした! ちょっと心配になっただけなんです! 重い女だって思わないで下さいね!』


『もしかして、マルちゃんと話してますか?』


「………………うぁ」


 ずらりと並んだメッセージに肩が重くなる。


 碓氷、重すぎだろ。


 いや、実際あいつ関連で危ない目に遭ったのは事実だし、心配になる気持ちもわからんではないのだが……。


 とりあえず、早いところなにかメッセージを送って誤解を解かなければ。


 けど、なんて言えばいいんだ?


 そんな事を思っている間に次のメッセージが飛んできた。


『ごめんなさい伏見さんはマルちゃんの事が好きだったんですね私の事は気にしないで忘れてください』


「なんでそうなるんだよ!?」


 慌てて『違う!? そうじゃない!? 風紀部の事で相談事があって電話しただけだ!?』


 と送るのだが。


『なんで私に相談してくれないんですか? 私じゃ頼りになりませんか?』


『そうじゃない。碓氷は忙しいと思って遠慮したんだよ』


『遠慮なんかしないで下さい! 伏見さんのお役に立てるなら、どんな用事も二の次ですから!』


 そんなんだから遠慮してるんだが……。

 なんて思っていると今度は円子からのラインだ。


『ちょっと! 冬花に電話の事バラしたでしょ!? どうして相談してくれなかったのとか完全に誤解してるんだけど!?』


『うるせぇ! こっちも大変なんだ! 後にしてくれ!』


『こっちも? 他の人とラインしてるんですか?』


 やべぇ!? 焦って碓氷に送っちまった!?


『いや、そういうわけじゃなくて』


『マルちゃんですよねなんで隠すんですか私は全然平気ですよ大事な親友の恋だから応援します大丈夫です』


『だから違うって言ってんだろ!? 人の話を聞けバカ! まどろっこしい! 電話すんぞ!』


『待ってください心の準備が』


 碓氷の返信を待たずにコールする。

 今の今までラインしていた癖に碓氷は中々出やがらない。


『もしもし! 碓氷か!』

『ひゃ、ひゃい! う、うひゅいでつ!』


 七コール程した後、ぐしぐしと半泣きの碓氷が怪しい呂律で出た。

 で、三十分程しょうもない話をしてなんとか誤解は解けた。


『だから、俺は円子とはなんでもねぇんだよ! あんな乱暴女全然タイプじゃねぇし! 好きになるとかあり得ないっての!』


 別にというかまったく嫌っているわけじゃないのだが、碓氷を落ち着かせる為に話を盛った。


 円子だって誤解が解けるなら文句はないだろう。


『よがっだあああああああ!』


 碓氷は心からホッとしたように大泣きする。


『てか、もっと自分に自信持てよ。学校一の美少女でアイドルでカテゴリー5の氷の女王様だろ?』


『えぐ、えぐ……だ、だっでぇ。ぞんなごどいわれでも、わだぢなんかたまたまカテゴリー5の異能でチヤホヤされてるだけの普通の女の子なんですもん……。伏見さんはかっこよくてイケメンで性格も良いし、マルちゃんだってかっこよくて優しくて頼りがいがあるし、一緒の時間も長いから、盗られちゃうんじゃないかって心配になっちゃうんです……』


『別に俺はまだ誰の事も好きになってねぇから! 頼むから落ち着いてくれ!』


『はひ……。ご迷惑をおかけしました……』


 すんすんと泣きつつ、なんとか落ち着いてくれたらしい。

 ……と、思ったのだが。


『ところで、朝宮先輩とペアを組む事になったって聞いたんですけど、どんな感じでしたか?』


 それまでの様子が一転、氷柱を突き刺すような声音で聞くのである。


『……その前にちょっと便所に行ってきていいか?』


『はい! 私は気にしませんので、通話はこのままでも――』


 電話を切ると、俺は大達に今日のゲームは無理そうだと伝えた。

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