第15話
『つー事があったんだけどよ、朝宮って碓氷となんかあったのか?』
『朝宮せ、ん、ぱ、い! あんた、先輩にはちゃんと敬語使いなさいよ! 自己紹介も超生意気だったし! 元から嫌われてるのにあれじゃあ余計に嫌われるでしょうが!』
このままでは風紀部を追い出されるのは確実だ。
なんとかしないと不味いと思い、その日の夜、俺は円子に電話で助言を求めていた。
『仕方ねぇだろ。俺はこういう奴なんだよ。猫被ったってどうせバレるんだ。それより朝宮の話聞かせろよ。なんか知ってんだろ?』
『もぅ! あたしはあんたの世話係じゃないっての!』
面倒臭そうにぼやきつつ。
『……あたしから聞いたってバラさないでよ?』
『わーってるって。バラすわけねぇだろ』
『じゃあ言うけど……。別に冬花となにかあったってわけじゃないの。冬花はカテゴリー5だし、結果もちゃんと出してるし、表面上はみんな仲良くやってんのよ。けど……』
『けど、なんだよ』
『なんて言ったらいいんだろ。嫉妬って言うのとはちょっと違うんだけど……』
考えをまとめるように円子が黙る。
『……最初は上手くやってたのよ。朝宮先輩はギャルっぽいけど面倒見は良いし、真面目だし正義感は強いし、入ったばかりの頃は冬花の事も色々気にかけてくれてたんだけど……』
『煮え切らねぇな。はっきり言えよ』
『うっさいわね! こっちも色々あんのよ! ……朝宮先輩って元々はカテゴリー1で、風紀部に入る為に頑張って努力してカテゴリー2になったらしいのよ。で、風紀部って危ない仕事も多いし、ハイカテゴリーの方が偉いみたいな雰囲気があるでしょ? それで色々気にしてるって言うか……』
『そんなもん自分の問題で、俺も碓氷も関係ねぇだろうが』
そんな事で八つ当たりしてくるような女を敬うなんて無理な話だ。
『そうだけど、簡単には割り切れないでしょ? それに、朝宮先輩の真面目な所とか上下関係に厳しい所をウザがってる奴らが居て、冬花と比べてカテゴリー2の癖に偉そうとか陰口言ったりしてんのよ。それでギクシャクしちゃって、冬花のアンチグループのリーダーに祭り上げられちゃって引くに引けないみたいな、そんな雰囲気』
『雰囲気かよ』
『しょうがないでしょ! あたしだって全部分かってるわけじゃないし。はたから見ててなんとなくそう思ったってだけ! 部長ならもっと詳しい事知ってるかもしれないけど……』
『一戸先輩はなに考えてるか分かんねぇからあんま頼りたくねぇな。貸し作る感じがして嫌だし』
『あたしならいいわけ?』
『碓氷のダチだしな。同じ一年だし、大達の事も助けてくれたから信用出来る。心配すんな。この借りはちゃんと倍にして返してやるよ』
『いいわよ気持ち悪い。あたしは冬花に頼まれて嫌々あんたの面倒見てるだけ! 友達でもなんでもないし、勘違いしないでよね!』
『いや、ツンデレキャラとか求めてねぇから』
『デレてないでしょ!? あたしがデレるのは冬花にだけ! あんたなんかツンツンのツンよ!』
それはそれでなんかキモいのだが、喧嘩になるだけなので黙っておく。
『まぁ、なんとなく地雷ポイントは分かったんだが。朝宮に気に入られるにはどうすりゃいいと思う?』
結局はそこだ。
一週間後に朝宮のOKを貰わないと風紀部を追い出される。
『真面目な人だから、ちゃんとパトロールしてやる気のある所見せれば普通に認めてくれると思うけど』
『そんなんでいいのかよ』
『そうじゃなかったら部長だってあんな約束しないわよ。あれで色々考えてるの! あとは敬語ね』
『いやだって。敬ってもねぇのに敬語とか逆に失礼だろ』
『そういうもんでしょ。あんた、大人になったらどうするつもりよ』
『さぁな。そん時になったら考えるぜ』
別に俺だって敬語が使えないわけじゃない。
お店の人とかにはちゃんと敬語使ってるし。
偉そうに見下してくる相手にへりくだるのが嫌なだけだ。
そんな事は言っても仕方ないから言わないが。
『ま、そういう話ならなんとかなりそうだ。サンキュー円子、助かったぜ』
『頼むわよ? あんたが風紀部追い出されたら冬花が心配して絶対おかしな事になるんだから。あと、今後こういうやり取りは電話じゃなくてラインにして』
『……なんだよ。そんな嫌う事ねぇだろうが』
素っ気なく言われて、俺はちょっと悲しくなった。
ダチになったと思ってたのは俺だけだったらしい。
『そうじゃなくて! あんたと電話してるって冬花にバレたらまずいでしょ!?』
慌てた様子で円子が訂正する。
『はぁ? なんでだよ』
『なんでって、冬花はあんたの事が好きで、あたしは冬花の親友なのよ!?』
『……で?』
『はぁ~~~~~………………』
クソデカ溜息が聞こえてくる。
『あたしだって一応女子でしょ!? 親友の好きな男子と夜中に電話してたら不味いの! 冬花もラインばっかりであんたと電話なんかした事ないって言ってたし。こんなのバレたら絶対嫉妬されるわよ!?』
『俺が円子に惚れるってか? 意味分かんねぇ。なわけねぇだろ』
『どーいう意味よ!? 言っとくけどあたし、これでも結構モテるんだからね!』
『めんどくせぇ。大達とゲームする約束してっからもう切るぞ』
『ちょっと! 話はまだ――』
長くなりそうなので通話を切る。
確かに円子もかなり可愛いタイプだろうが、そんな目で見た事はない。
俺は女と見れば誰にだって尻尾を振るような安い男じゃないのだ。
碓氷もそこん所を理解して、妙な嫉妬は勘弁して欲しいのだが……。
で、通話を切ると碓氷から大量のラインが来ている事に気づいた。
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