真相への第一歩


「お二人とも、ご無事で良かったです!」


 座敷牢のあった隠し部屋から帰るなり、心配そうな顔をして入り口の側で待ちぼうけていた九条さんに出迎えられる。



「あの、中には一体何が⋯⋯」

「そ、其れが⋯⋯さく————むぐっ!?」

「西園寺様!?」

「ぷはっ! いきなり何するんですか、春彦様っ!!」


 部屋のようすを九条さんに話そうとするなり、突然春彦様に口を塞がれてしまった。

 直ぐに抗議するも、彼はどこ吹く風で何事も無かったかのように九条さんへと問いかける。


「九条さん、魔女——否⋯⋯櫻子さんは今何処にいるのかな?」

「え? ⋯⋯櫻子様でしたら本日もお部屋にいらっしゃいますが。⋯⋯あの方はお一人では部屋の外には出られませんから」

「え⋯⋯!?」


 一体、どういう事なのだろう。 もしかして、一階の部屋から此処まで繋がる通路があるとか⋯⋯? 然し、何故彼女が態々この部屋に来る必要があるのだろうか。

 それに、昨日見た時は健康面には問題があるようには見えなかったのだが、人間とは一日であんなにも衰弱するものなのだろうか。


「⋯⋯⋯⋯」


 僕が混乱していると、春彦様は「未だ分からないのか」とでも言うように冷ややかな視線を向けて来る。

 僕は優れた頭脳を持つ探偵では無く、唯の悪魔なのだから分からなくともご容赦願いたい。



「⋯⋯ニコラ君、此方に」


 春彦様は一向に真相に辿り着くことの出来ない僕を見兼ねて、ため息を吐いたかと思うと手招きをする。



「はい、春彦様」


 春彦様は僕が駆け寄るなり、何処からか一冊の本を取り出した。



「⋯⋯それは?」

「察しの悪い鈍感な君の為に、最大のヒントをあげよう。此れを見てご覧」


 差し出された本を受け取り、パラパラとめくってみる。どうやら、僕が本だと思っていたそれは、アルバムだったようだ。

 中には、常盤家の子どもと思しき着物を着た少女とスーツ姿の少年たちの写真が張られていた。その下には写真が撮られた日だろうか、小さく年月日が記載されている。


 然し、不思議なことに様々な服装に、異なった時代に撮られたであろうその写真は、性別に関わらず皆一様に同じ顔をしていた。


「何故、櫻子様の写真に混ざって男の子の写真が? このアルバムは一体どんな目的で作られたんでしょうか⋯⋯それに、このアルバム何だか違和感が————」


 そう言いながら、僕は最後のページまで捲っていく。

 アルバムの一番最後のページには、真新しい写真が貼られていた。スーツ姿で微笑む可愛いらしい男の子の写真だ。



たまき坊っちゃま⋯⋯⋯⋯」


 いつの間か僕の持つアルバムを覗き込んでいた九条さんは、その写真を見るなりボロボロと涙を流した。



「⋯⋯この男の子が九条さんが仕えていた方なんですね」

「はい⋯⋯。真逆もう一度環坊っちゃまのお顔が見られるなんて思ってもいなかったもので⋯⋯失礼いたしました」


 涙を拭い、改めてアルバムを覗き込む九条さんは暫く懐かしそうに眺めた後、不思議そうに口を開いた。


「其れにしても、此処に写っている皆様はとても良く似ていらっしゃいますね。私もよく母にそっくりと言われますが、此処までは似ておりません」

「ええ、僕もそう思っていました。其れなのに、何故九条さんは環さんの事は分かったのですか? 失礼だとは思いますが、僕には皆さん同じ顔にしか見えなくて」

「うーん⋯⋯。何故でしょう⋯⋯メイドの勘と言うものでしょうか」



「⋯⋯!」



 幽閉され数百年を変わらぬ姿で生きる魔女。座敷牢に囚われた少女に、呪われた常盤の一族—————。

 点と点が繋がり、一本の線になる。


 此の時になって、漸く僕は春彦様の言わんとしている事の意味を理解する。

 そして、其れは余りにも残酷で悲しすぎる真実であった。


「鈍いニコラくんでも、漸く真相に辿り着けたようだね」

「⋯⋯はい」



 この事件は必ずや白日の元に晒さねばならない。僕は決意を胸に、グッと拳を握りしめたのだった。




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