常盤家の隠匿
正門の扉を潜り玄関ホールを通ると、箒を持った掃除中の九条さんと鉢合わせる。
「只今戻りました」
「お帰りなさいませ。西園寺様、ニコラ様」
屋敷には九条さん以外の人影は無く、彼女は1人で忙しなく働いていた。
「あれ? 九条さんお一人ですか?」
「はい、奏太郎様は東雲さんを伴って外出中なのです。恐らく、後半刻ほどは戻らないかと」
九条さんの話を聴いた春彦様は顎に手を当ててふむと頷くと、おもむろに彼女に近付いて丁寧な動作で手を取った。そして懇願するようにジッと彼女の揺れる瞳を見つめる。
「帰って早々だが、九条さん⋯⋯貴女にお願いしたい事があるのです」
「は⋯⋯はい、何でしょう⋯⋯?」
「至急、確認したい事が出来たので資料室までの案内をお願い出来るかな?」
「は、はい⋯⋯! 直ぐに鍵を取ってまいります!」
春彦様のお願いに了承の返事をした九条さんは、パタパタと足早に駆けて行く。
「春彦様、そんなに急いでどうなさったのですか?」
「いやね、私の天才的な頭脳はとある一つの仮説を導き出したのだよ。もし此れが真実で有れば、常盤の一族は大変な禁忌を犯していることになる」
「え⋯⋯!? そ、其れって⋯⋯⋯⋯」
僕が口を開いたタイミングで丁度、ゼエゼエと息を切らした九条さんが戻ってきた。
「おっ、お待たせいたしました! 本来なら許可なく資料室に立ち入る事は許されておりません。この機を逃せば次は何時になるか⋯⋯ですので、どうかお早く!!」
「此方のお部屋です!」
九条さんによると、奏太郎さんの執務室のすぐ隣が資料室になっているようだ。
彼女は緊張でブルブルと震える手で鍵穴に持っている鍵を差し込む。そのようすに、釣られて僕までごくりと息を呑んだ。
ガチャリ。解錠音がシンとした屋敷内に響く。
そろそろと室内に足を踏み入れ中を見回すと、それほど広く無いスペースに分厚い本やファイル、書類などが所狭しと並べられていた。
「さて、宝探しと洒落込もうじゃないか」
✳︎✳︎✳︎
春彦様が桐生さんから聴き出した情報はこうだ。
現在、常盤家を取り仕切っているのは、分家筋である常盤奏太郎。本家の血筋は今も細々と続いているのだが、いかんせん身体が弱く成人を迎える前に亡くなる者が殆どの為だ。
そして、公にはされて居ないのだが、本家の血筋を受け継ぐ子どもたちの死因は皆、似通っているそうで、其の事が常盤家に恨みを持つ何者かの呪いではないかと言われる
また、不思議な事に本家の血を受け継ぐ子どもは男の子ばかりで女の子が生まれることは殆ど無いそうだ。
以上、3点が桐生家での収穫だ。
「ありました、常盤家の家系図です!」
「此方も屋敷の間取り図を見つけました!」
「意外と早く見つかったのだな。早速見せてくれ給え」
春彦様指示の元、僕と九条さんは
意外にもあっさりと見つかった資料を、僕たちは此方に向かって手を伸ばす春彦様に手渡す。彼は何時の間にか、タイトルの無い真白な本を手にしていた。
「矢張り、そういう事か⋯⋯」
春彦様は資料を広げじっくりと見分したかと思えば、途端にクツクツと声を潜めて笑い出した。
そして、
「⋯⋯嗚呼、面白くなってきた」
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