魔女の棲む館
屋敷までの道すがら、僕たちは九条さんから彼女が知り得る限りの常盤家に関する情報について事細かに説明を受けていた。
彼女は村の近くで行き倒れているところを常盤家の男の子に助けて貰ったそうで、その子のことを坊っちゃまと慕いお仕えしていたそうだ。
しかし、事態が急変したのはつい先週の事。その坊っちゃまが突然、原因不明の謎の死を遂げた。医療技術が発展した現代に
悲しみに暮れる彼女は、村人から聴いたとある噂を思い出す。其れは、常盤の一族の特異な体質と、屋敷に棲むという魔女の噂であった。
「大好きだったのですね、その子のこと⋯⋯。お悔やみ申し上げます」
「ええ、ありがとうございます。坊っちゃまは幼いながらも聡明で、お優しい方でした。それに、笑顔がとても可愛らしくて⋯⋯」
「へえ、お写真はありますか? 是非どんな方か見てみたいです」
僕が何の気無しにそう言うと、途端に九条さんの表情が曇る。
「それが⋯⋯⋯⋯坊っちゃまのお写真は残っていないのです」
「え!? な、何故ですか⋯⋯!」
「理由は分かりません。ですが写真や動画など、記録の残る
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「私の手元には何もございません。⋯⋯ですが、資料室でしたら何か残されているかもしれません。其方も後ほどご案内いたしますね」
ふと後ろを見ると、僕と2人きりの時からは考えられない程に別人のような面持ちの春彦様がいた。彼は、真剣に九条さんの話に耳を傾けながら文句も言わずに足場の悪い舗装されていないデコボコ道を黙々と歩いている。
女性が居るというだけで此処まで違うのなら、いっそ僕も女性体を取れば良かったのだろうか。
————否、其れでは仕事にならないだろうな。
僕は一瞬考えた後、直ぐさまその案を却下し、ふるふると頭を振って現実へと戻った。
「着きました、此処が常盤の御屋敷です」
そうこうしている内に、目的地に到着したようだ。
✳︎✳︎✳︎
周辺には家屋などは無く、ポツンと佇む田舎町には不釣り合いな程の豪華
「じ、実は⋯⋯探偵の方に依頼した事を誰にも話していないのです」
「えっ! 何故ですか」
「それは⋯⋯絶対に反対されるからに決まっています⋯⋯!」
「遅かれ早かれバレるのでは⋯⋯!?」
「なんだか悪い事をしているようでワクワクするじゃあないか!」
「しているんですよ、実際に今!!」
「あ、余り大きな声を出さないで下さい⋯⋯!」
僕たちはコソコソと声を潜めて言い合いをしながらも、日の当たらない薄暗い廊下を歩いて行く。
「
「⋯⋯流石に女性の入浴を覗くのはいかがなものかと。実質チャンスは食事のタイミングのみということですね!」
「私は入浴時でも一向に構わないのだが」
「貴方は良くても櫻子さんが構うでしょうが!」
此れだからロリーターコンプレックスは⋯⋯! 僕がそう思っていると、流石は稀代の名探偵とでも言うべきか。春彦様は僕の思考を読み取り反論してきた。
「因みに私はロリーターコンプレックスでは無いぞ。確かに、女性は老若関係無しに大好きだ。然し、其れも全ては亡きお祖母様の教えで、
「⋯⋯⋯⋯嗚呼、はい⋯⋯」
気品溢れる動作で胸に手を当て、そう
早朝の屋敷には未だ人の気配は感じられない。
裏口から暫く歩き、大分屋敷の奥まったところまでやって来ていた。
その間にも、幾つの扉を通り過ぎたかは分からない。余りにも多過ぎて、10程数えたところで止めてしまった。
「此方です。此の一番奥のお部屋に櫻子様がいらっしゃいます」
「遂に、噂の魔女に会えるのだな」
興奮を隠せないようすの春彦様は思わず小走りで駆けて行く。
然し、後もう少し、というところで其れを阻む人影が現れる。何とドンと威圧感のある雰囲気の熟年の女性が扉の前で仁王立ちをしているではないか。
「こんな所で何をしているのです、九条」
「し、
嗚呼、最悪だ。見つかってしまった。
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