見つめる影 〜???視点〜

 何もかも白い、神殿の一室のような部屋。

 その中には美しいひとりの幼女と水鏡。

 幼女の視線はじっと水鏡に注がれていて動かない。

 そして、ぽつり、とこぼすように呟いた。


「………成功、ですかねー?」


 彼女の見つめる水鏡には、ある森の中の風景が写っていた。

 中心にはセーラー服をまとった、茶色がかった黒い髪の少女。

 髪よりも少し色素の薄い瞳に、肌荒れひとつない肌、薄くぷるんとしたくちびる。

 ぱっちりとした目は、コロコロと表情を変えて楽しげだ。


 この少女こそ、水鏡を通して彼女が見ているものだった。



「やはりー、あの方は『作者』。この世界を、『創り出す』力の持ち主………」



 彼女は『神』と呼ばれる存在。

 この世界の全てを管理する、世界の管理者。


 だが、あの黒髪の少女は違う。

 あの少女は、この世界の全てをつくった、世界の創造者なのだ。



「わたし達、『神』が持たない力………」



 先刻、モンスターに少女を時のことを思い出す。

 恐怖から、強く目を閉じていた、あの少女は気づいていないだろう。

 自分がギュっと目を閉じ、『嫌だ』と念じた瞬間。


 モンスターが跡形もなく【消滅】したことに。


 殺したり、移動させたり、【消去】することは【神】にもできる。

 しかし、あの少女のものは違う。


 彼女はモンスターを【消滅】させた。

 まるで、文章をカットするように。描いた絵を消しゴムで消すように。

 あのモンスターの存在を、過去・現在・未来をにしてしまったのだ。


「それでこそ、あの方を招いた意味があるというものですー」


 水鏡を見ながら、幼い姿の神は呟く。

 そのくちびるは弧を描いており、ふふ、と笑い声がもれた。

 あの少女の力はあまりに強大だ。自分が側に行くまで、隠している必要がある。



「あのスキルをつけたのは正解でしたねー。でもレベルは………カンストにする必要がありそうですー」



 そう言って、彼女は現世に干渉し、あの少女につけていたのレベルを引き上げる。

 神の力を行使した彼女はふぅと息をついた。


「しかし、なんで夢と勘違いしますかねー?異世界好きのはずなのに、てっきり喜ぶのかと思ってましたー。………はぁー、早くお話してみたい」


 そして、また水鏡に視線を戻す。

 鏡の中の少女は、まだ森の中を歩いていた。


「さ・て………そろそろ、王子様の登場といきましょうかー」



 白くて白い部屋の中。

 全てを知る幼女は、にこりと微笑んだ。

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