冒険の始まり(?)

 人がいない……



 歩きだしてから少し。ニヤけもおさまった頃、改めてこの森の人気のなさに気づいた。

 さっきから足音はおろかモンスター(?)の鳴き声すら聞こえない。


 夢には人の願望が現れる、なんて話を聞いた事があるけど…………

 えぇ………私、森の中に一人でいたいなんて願望あったっけ?

 

 もぉやだ怖い……誰かいないかなぁ………


 そう思い、う〜んと耳をすましてみると。


 ――――パカラッパカラッパカラッ…………


 ん?この音…馬の足音では!?

 かすかに音がして、グーンと安心度があがる。

 もういいや!この際、モンスターでもなんでも来ーい!(やけくそ)


 その音はだんだん近づいてくるようで、私も音の方へ歩き出した。


 あ、よかった、人だ………!


「君、大丈夫!?」


 わ、きれいな人……………


 馬に乗っていたのは女の人で、状況も忘れて思わず見惚れてしまう。

 夕焼けのような茜色の髪に黄色い瞳。格好はまさにゲームやラノベの冒険者、という感じで、腰にはナイフのようなものがあった。


 すごい………モデルさんみたい。


「どこか怪我してない?あたしのこと見えてる?」

「えっ、あっはい!大丈夫です」


 私に異常なところがない事が分かったからか、ホッと安堵したような表情になり、どうしてこんな所に?と聞いた。


「えっと、実は、私にもよく分からなくて……気がついたらここにいた、って感じなんです」

「そっか……精神攻撃系のモンスターの影響かな。自分の名前は分かる?」

「はい、かえでです」


 あ、しまった。せっかく夢ならなんかハイカラ(死語?)な名前にしとけばよかった。

 だがしかし、後悔してももう遅い。案の定、目の前の美人冒険者さんは怪訝けげんそうな顔をした。


「カエデ……?変わった名前だね。あたしはローザ。一応、冒険者パーティーのリーダーをしてるよ」

「ローザ、さん」


 改めて見ても本当に綺麗な人だ。『かわいい』というより『カッコいい』顔立ちで、馬に乗っている姿がさまになる。

 そう、まるで白馬の王子様みたいな………まぁ、女の人だけど。


 でも本当によかった。このまま一人だったら私、野垂れ死んでたかもだし………

 お礼、言わなきゃだよね。


「あの、ありがとうございました」

「え?」

「一人で心細くて……人が来てくれて、とても安心しました」


 素直にそう伝えると、ローザさんはふっと目を細めた。


「ふふ、いいよ別に。この近くで大きなモンスターの気配があってね。あたしの方こそ怪我人がいなくて何よりだよ」



 そのモンスターって、もしかしなくてもさっきのアレですよね………

 どうしよ。これ言ったほうが………いや、私が倒したんじゃなくて勝手に消えただけだし……………

 まぁいっか。


 それにしても冒険者とかパーティーとか、ますます異世界っぽい!

 RPGで例えるなら、ローザさんは序盤に案内してくれるNPCとかかなぁ。


「とりあえず、あたしについておいでよ。ちょうど街に戻る所だったからさ、ギルドまで連れて行ってあげる」

「はい、ありがとうございます……!」



 ギルド、という異世界っぽい響きに、思わず目が輝く。

 先ほどの空想(というより妄想?)が現実になるような気がして、ワクワクが止まらなかった。


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