野呂り収集

イタチ

第1話

世の中から、目に見えない物が、いよいよ無くなってきたのは、いつ頃からであろうか、ワタシは、職業柄、目に見えない物を見るために、目に見えるもを、深くはいけんしてきたが、やはりそんなワタシから見ても

世の中はいよいよ、何も見えなくなってきているような気がする今日この頃。


「ノロイ」

其れは、野生の生き物さえ居ないような、荒れ果てた、禿げ山のことである

ワタシは、峠を越えている自分

みょうちくりんな山を見て、つい、そちらに足を延ばした

そこは、緑という物が一切なく

大地は、岩と、白い粉のような土ばかり

その、あまりにも何もない光景から

硫黄の臭いさえ有るような気がするが、気のせいなのか

風が強く吹き

そのにおいさえ消え去る気がした

ワタシは、その何もない光景とは別に

何かの気配を感じていた

其れは、予感のようなものであり

どんな生物でさえ

生きられかねるこの地に

人の気配を、感じた

「おぉーーーい」

ワタシは、叫ぶと、何もない大地に、無機質とは対照的な声が響く

ただ、其ればかりで、何も変わらない

はて、やはり誰も居ないのだろうか

ワタシは、帰ろうかと考えていたのだが

何やら、それでも、不思議と考えるところがあり

辺りを歩き回っていると

ぼろ切れのような服が、木の棒が地面に突き刺さっており

そこに吊されている

「・・・居るのだろうか」

其れを見ていると、どこからか、石を砕く足の音が聞こえた

「はて」

後ろを振り返ると

そこには、老婆が一人立っていた

「こんにちは」

ワタシは、老婆に声をかける

しかし、黄色い眼球を、めいいっぱいみひきらき

こちらを曲がった背中で見ている

「こんにちは」

ワタシは、それでも声をかける

「アナタサマハ、本当に人でしょうか」

老婆はそう言うと、何とも言えないような引き裂くような声を出して

ゆっくりと近づくとワタシの腕をつかんだ

「っあ・ああ」

その老婆の腕を見て、ワタシは酷く驚いた

その老婆の腕という腕に、髑髏と女の顔が、痣のような紫色の刺が、描かれており、大凡その正体乙かめかない

しかし、よくよく見れば其れよりも奇妙なことがある

其れは、老婆の眼球が、いつの間にか真っ黒の洞となっており

その外見から、先ほどの光景が、一体何なのかと考えずには居られない

「ワタシは、穴あき病にかかっておるのです」

そんな病はきいたことがない

ただ、目の暗い老婆の姿も同じく居なくなっていた




ネズミ3兄弟


その女は

酷く長い赤い爪を

男の喉に

まるで突き刺そうとするかのように

押さえつけていた

しかしながら

その獣のような顔は

実に偽物的である

まるで作られた獣

そう

それは、ホルマリン漬けの幼児のような

そんな感じ

しかしながら

その壁に押さえつけられている男も

そして女も

それは遠い過去の産物

記憶の断片でしかない


世の中って言うのはいろんな奴がいる

それは別段良い奴だけでも

悪そうな奴だけって物でもない

自分だってそうだ

・・・・しかしその自分をどうやって定めるかについて僕は知らない

だから何


詰まりこれは書くに値しないってこと






ねずみ記



第0、1話「だから何」



そいつについて話すのは実に難しい

なぜならそいつは絶対的な悪であり

また悪でも何でもない

それどころか存在すらないような、いような存在なのだ

つまりは異常な生物と言う認識で以上はない

要は居ても居なくても良い存在だ

それが・・・「ネズミ」と言う


「ねーーー、これ食わなきゃいけないわけ」

それは寂れた路地裏からそんなどうでも良いような声が聞こえてきた

どちらかと言えばその声について僕はいくらか知っている

知っているから僕はそれを無視してさっさと自分の受け持つ大学の授業に向かう


・・・・・・何だ・・僕が進もうとしているのに何者かが僕の袖を掴んで放さない・・・・一体どういうことなのだろう

僕が後ろを振り返ろうとすると

「・・・」

そこには無言で笑うネズミが居た

「・・放せ」

「・・・・来い」

「放せ放せ放せ」

「・・・・・」

それは無理矢理袖が引きちぎれても良いような感じで

ズルズルと引きづりながら歩いて行った

「止めろおまえを警察に何かの罪で引き渡すぞ」

「・・・・」

ネズミはかまわず少し路地を入った

小綺麗なそのネズミには不似合いな長屋にはいると

「こいつが食べます」

と言ってやっとしゃべると僕の前にあるテーブルの上にある、きのこを指さして言う

「・・・・・食べないぞ」

いきなりネズミは僕の口にそれを皿ごと押しつけてきた

「・・じゃべ・・でぐじゃじゃい」

「食ってるか」

「うっーーさい」

「・・・」

「止めろ押しつけるな、もっと押しつけるな」

僕はそれを蹴散らしてしゃべろうとしたが

奴がさらに力強くしかもずれる僕の顔にまるで芸のように合わせ押しつける

そのせいで僕の声はまたしても水に沈むように濁り聞こえなくなった


「所でこの人は何です」

僕は授業が心配で腕時計を実なら等話すと

「こら・・・もぐもぐギャキンもぐもぐ」

「おい食うな」

「不味かった」

それは僕の腕からそれを踊り喰した

「・・・何てことを・・あれ100万したんだぞ」

「ほれ」

ネズミは無造作に箪笥を開けると積み重なる札束の一筋を取ると僕に渡した

「・・ああ」

「利子は月30パーだ」

「これ百万より多いのか」

「・・・・・・」

「別の人間と話し始めるな」

それは先ほど話していたであろう人物と話し始めた

「・・・何と話してるんだ」

僕は百二万入って居た札束から2万やつに返しながら一人で喋っているやつに聞く

「・・・・ボイスレコーダー」

それはもはや通話するものではない

「・・・何やってるんだ」

「何も


第二話 ネズミ犯罪録

それは寂れた白い洋館

誰も入りたがる者など誰もないことだろう

そう、廃墟マニアか、またまたふざけて入ってきた

肝試しをする人間か

どちらにしてもろくなことではない

止まったはずの空間に足を踏み入れるなど


僕がその白い洋館に来たのは

珍しくあの忌々しいネズミのせいではなく

僕の彼女が、行ってみたいと行ったから付いてきたのだ

「本当に行くのですか」

「・・・・うん」

彼女は自分から来たいと言ったのに震えている

「・・・本当に」

僕のその確かめるように言った言葉を遮り

「行こう」と言う


その洋館は、人里から離れすぎているわけではない

しかし近いわけでもない

ここから一番近い家から三十分・・一キロほどの所にある

しかしあたりを森に囲まれているので

そこが人里の近くとはとても思えない

そこに彼女は昔のおじいさんが書いた日記を頼りに来たと言う

「・・・何をしに行くんだい」

僕は彼女の後ろ背に言う

「・・・分からない」

彼女のはそう言って振り返った

その目は三月のように細く曲がり、その奥は夜の闇のように黒しかない


「さて君はどうする」

それは僕の唖然とした心を更に驚かした

しかしそれが後ろから聞こえてきた以前に

その彼女が彼女じゃないことの驚きに

僕はただ唖然とそれを見て

後ろの声に驚く余裕など無い

「・・・・・って・・・その声・・・ネズミでは」

「・・・・君はうるさいな・・・殺してやろうか」

それは彼女目のような黒いサングラスで見えないが

そんな闇のような微笑みを僕に向けた

「・・・そんなことより彼女が」

しかしそのどこまでも昼間なのにひんやりした

その館の奥の闇の中に消えていた

「・・・どこに行ったんでしょうね」

「・・・見てたんじゃないのか」

「何のことです」

「・・・彼女だよ」

「そんな者居ましたっけ」

「・・・ふざけるな」

僕は急いで懐中電灯を握りしめるとスイッチを入れて

その闇に走る

「ちょっ・・待って下さいよ」

後ろから役立たずの声がする

「なんだ」

しばらく歩いたろうかで僕は腕を引っ張るあれに言う

「・・・・本当に行くんですか」

「・・・・何かでるって言うのか」

「・・出るというか・・・出ますね」

「・・・・・・怖くないのか」

「おいしいですよね」

「・・お化けが」

「ねずみが」

「・・・・・おまえは何者なんだ」

「さあ」

「彼女は何だと思う」

「・・・そんな人いましたっけ」


「いただろ」

「・・・・ではでは」

「おい言い逃げはなしだぞ」

しかしそこには玄関が遠くで僅かに外の光を伝えるだけでやつは居ない

「・・・」

その時僕の後ろ手を誰かが引っ張った

「・・・私と踊る」

それは僕にそう聞いた


第三話0、2「ホラー」

僕は彼女に手を引かれ一つの一軒家に来ていた

しかしそれは掘っ建て小屋というよりかは

どこかの研究所のような

角張って

そして灰色で大きくて

どこにもアットホームなんて物はない

だいたいそれが廃墟だという時点で

それにアットホーム感はないのだが

僕はしかしそれに入らないといけない

入ると彼女に言ってしまったからだ


(やめておけよ)

脳内であの忌々しい声が聞こえた

ひょんなことからやつに今回の話をしたのだが

その時ネズミは開口一番

「やめておけよ」と言った

それは別段僕を心配していったことではないだろう

間違いなく裏切れ・・みたいなニュアンスで言ったに違いない

だから僕は「行くよ」とそういってこのはなしは終わった

しかし今頃になってそんなことを考えていることからして

少なくとも行きたくてルンルンしているわけではなさそうである

「行こう」

彼女は少し震えながらそんなことを言う

しかし懐中電灯の光輪が一定の場所を指さず

ふらふらと揺れているのがどうも前触れのように僕の行くきを削ぐ

「本当に行くのかい」

僕はなぜかそんなことを言った

僕たちの住んでいる町からここまで三時間

少なくとも行き帰りで二万近く消費している

だから何だというのかも知れないが

彼女はそう言う無駄使いを極端に嫌う

つまり帰るなんて選択は雨の代わりにフライパンが降るくらい無いのだ

「行く」

それは独り言のようにそうつぶやいた

「そうか」

僕は一歩踏み出した彼女の後を追う

彼女は徐々にその歩数を早くしていく

僕はこのまま帰られないんじゃと大人げなくそんなことを思ってしまう

しかし歩くほどに闇は増え

まるで異世界の地下ダンジョンか

またまたホラーゲームの世界に迷い込んだようだ

・・・大丈夫か

たぶん大丈夫だからそんなことを思っているのかも知れないが

しかし怖い物は怖い

「ここ」

不意に彼女が立ち止まった


今日ここに来たのは全て彼女の願いである

そして少なくとも彼女に廃墟マニアと言う趣味はない

彼女の祖父が昔この研究施設で働いていたらしく

そのことを最近初めて聞いた彼女は祖父の日記を読むとこの施設に忘れ物をしたというのだ

それでさえ半世紀も昔の話

今もあるかどうかも疑わしいが

もしあってもその祖父の遺品があるとは思えない

僕はしかし意気込む彼女にそれとなく年かそれについて指摘できなかった


「ここ」

それはさび付いた鉄時が混じったような異物だった

しかしほとんど木は腐りぼろぼろで

それに打ち込んである鉄も同様の有様で

「ここなのかい」

果たして、どうやって見分けたのかと彼女にそう言う意味を込めて聞くと

彼女はそのか細い腕を上げると僅かに残っている出窓を指した

「・・・・」

僕は僅かどころか汚れのせいでほとんど曇っているその窓を見ると

そこには顔があった


第0、3「ほら骨」


結果手に彼女のその時の記憶を聞くとそんな夢を見たらしい

しかしその視点は彼女ではなく悪魔で僕であり

彼女は自分が僕を連れていくのを僕の視点から見ていたという

つまり彼女自体は僕としてただ付き添っていたらしい

しかしここまでならただの夢なのだが

彼女は最近死んだ祖父の異物の中に日記を見たという

彼女自体日記を付けていないせいなのか

それに興味を示さなかったと言うが

しかしこんんあゆめを見た後ではどうも気になると

三日なぜか目を覚まさなかった彼女は病院のベットでそんな話を思い出したように付け加えて話を締めくくる

彼女の異変は三日前にさかのぼる

僕たちはその日駅前でデートの予定があったのだが

いつも三十分前に来る彼女がその日は何かあったのか一時間しても来ない

結果的にもう三十分待ったが来ない彼女を心配して僕は彼女のアパートに急いでいくことにする

そこで僕は目無理姫のごとく寝ている彼女に冗談めかし出揺さぶってみたところ

いくらないもしても起きず

しまいには濡れタオルで顔にかぶせるという荒行に打ってみても結果的にせき込むだけで起きる気配がない

僕は急いで知り合いの病院に駆け込んで彼女を診察してもらったが

結果的に何が原因かわからず今日に至る

その後色々な検査をされたようだが何が原因か結局わからず

その日退院した後彼女は独自にあのときはなした老人の日記を探したようで

一週間後の今日、ぼくに授業の後そんな話をしに

部屋に訪れて話したのだ

「・・・本当に行くのかい」

彼女は彼女の夢の中の彼女のように

実に意気込んで彼女の祖父の物だという革製の茶色い日記帳を開いて僕に

青いインクの文字を見せる

そこには確かに彼女が夢の中で話したような内容がかかれ

「・・・しかし良くないことが・・」

とはいえなくなってしまった

なぜそんな事態に陥ったかと言えば

普段の気分の落ち着いた彼女とは思えないくらいのハイ・テンションに押されたの一言しか出ない

結果僕たちは夢で見たという物を頼りにそこに向かう

日記には詳しい記述はないが

しかし彼女の夢というのはよほど鮮明だったらしく

僕の来るまでそこまで来てしまう

車を降りて二十分ほど

誰も通らないような参道を歩いたところにそれはあった

「・・・・今日もネズミは出ると思うかい」

これだけ夢が本当になっているのだ

もしこれがウソだとしても・・いやウソだからこそあいつが出てくるのは必然と言える

なぜなら何よりも人が困っているのを実るのが好きで好きで好きな奴だからだ

「・・・・何かしらネズミって・・それは廃墟だから出るかも知れないけど夢の話の時ししたっけそんな話

「・・・・しなかったか」

「うん」

彼女はそう頷いたがどうだろう

確かにあのとき彼女の話の中で

彼女が僕の時に僕の腕をネズミが引いたと言った

すなわちそれは今の僕が引かれるとか以前に

彼女が言っていたような気がする

ことへの確信になると思う

・・・そうあのとき僕は彼女が寝るベッテの隣で思ったのだ

・・・しかしあれは単なる勘違いか

しかしあのとき確かに僕はネズミという単語を聴いた

「ねえ、行きましょう」

僕はその時彼女が僕の手を引っ張ったと思った

確かに僕の手を引っ張ったそれが着ているのは彼女の白に花柄の模様の長袖ではあるが

しかし些か毛深い

そして僕は最悪だと思いながら上を見ると

そこにはあのネズミが居た

そこで僕が目を覚ましたというお話をなぜかネズミが紙芝居形式で

老人ホームでしているところを僕は日曜日

たばこを吸いながら寝ているところ

テレビで目撃して

「っあ・・」

とか言いながらチャンネルを変えたという話・・・・・


エンドレスコード


第四話

僕はある日煙草をすいながらあくびをしたため

その煙草がひょんなことで

体内の中に入ってしまう

それからという物僕は喋る度に煙を吐くのです


0、4話「ガキ」

ネズミは大人だろうが赤ん坊だろうが何だろうが

全て嫌いだ

なぜそう思うかと言えば

やつは子供を見ればけ飛ばし

大人と見れば絡み

老人と見ればするのだ

そんな物なので僕はいつも警察にやつを引き渡そうとするのだが

そのたびにやつは脱兎のごとく逃げ去る

そのため警察のレッド・イエロー・ブックに乗っているのにも関わらず

やつをどうこうする警察は居ない

なでならそれは噴火口に爆弾を投下するようなもので

1を一兆倍にして更にそれを三景の三乗ほど増やしてもまだあまり余る

悪事を働くため

それをわざわざ全国区で無視するようにしている


やつと昔、はなしているとき

「ハメルーンの笛吹男にネズミを貸したのはこの俺だ」

と言っていたことがあったが僕はその荒唐無稽なアホ話を無視している

しかしいつか聞いた警察のそんな事情を聞いたとき

その話が些か真実もを帯びた

そう、やつはネズミなのだ人間ではない

そんな芸当ができてもおかしくはない

・・・やつはネズミではないんだよな・・少なくとも着ぐるみではないんだよな

・・・・・・あれは何なんだ

しかしそれに答えは出ない

だからやつは居ても居なくても良い存在なのだ


ナつコール

「あなた、ものすごく、おぞましいくらいに」


僕の名前は、上芝 霧、どこにでも居そうな十八の男である、訳が分からず、どう言うわけか二三日前から

肩がずっしりと重く、大した運動もしていないのに

不思議がっていた折りに、友達に相談したところ

なんでも、有名な霊能力者が居るらしく

見てもらう運びとなったのだが

彼女は、僕をみるなり、ただでさえ、濃い皺を、さらに深く刻みつけると

「あなた、ものすごく、おぞましいくらいに

きれいな女の生き霊にとりつかれています」

と、悲壮感たっぷりに、そう僕に言った

「生き霊ですか、それもものすごい美しい」

女は、恐ろしいものでも見たかのような目で

僕の横を見ながら頷く

「しかし、僕の身の回りに、そんなきれいな女性は

失礼かもしれませんが、居ませんよ」

僕は正直に話した、勤めているのは農家であり

平均年齢が還暦以上である

「いえ、確かに、あなたは知らないだけかもしれません、そう、気づいていないだけで、しかし美人です」

「美人ですか」

「はい、おぞましく美人です」

かくして、確証の取れない生き霊の存在を

知らされた僕は、肩の荷が、降りないままに、自宅のアパートに、帰宅した


一人暮らしを初めて、もういくねんかは過ぎていたが

相変わらず、風呂なしトイレはある

今時珍しい賃貸であり

かろうじて、料理の出来る設備はコンロ一つと水道の蛇口が一つ、それから、ぎりぎり冷蔵庫が置けていた

腕の方は、鳴かず飛ばず

はじめと大して変わらないのは、努力のピークが一人暮らし前だったからであり

そのあとの流れに変化はさしてなかった

今日は、安売りのピーマンとやすいが値段が据え置きのモヤシ賞味期限がぎりぎりだから濃そ旨いらしい卵を、最後に、片栗粉と併せて、流し込んだスープと

買い置きのキムチのつけもの+白ご飯

その間中僕は、肩の重さを感じていたが

しかし、果たしてどのたぐいの美人だろうかと考えて

いたのを最後に、目の前の食事に移行していた


銭湯の場所は、アパートから五分ほどであり

ケロヨンと書かれた黄色い桶を片手に、着替えと手ぬぐい石鹸などを放り込んで、向かえば、いい

されど到着する頃には、冬なら、がちがちであり、真夏であれば、でろでろであるので、基本、夏場は、水道水で、冬は、ヤカンのお湯で、体を拭くにとどめ

それ以外の、三百円という対価に見合う環境が継続できる内は、利用している

そして今は、秋である、今年最後の銭湯になりかねる

頃合いであった


「肩が重い」

それはまるで、肩にダンベルをくくりつけられているような

ずっしりとした重さであり

体を振り回しても、重力に逆らうように

それは一定であった

銭湯にはいるときも重く

お金を払うときも

脱ぐときも

洗うときも

入るときも

コーヒー牛乳を、飲むときだって

やはり重く

重い心を引きずるように

アパートに、帰宅した今だって、やはり重かった

一応、鏡を、見てみたが、むさい18才が、こちらを見ているだけであり、他には、薄汚れた天井のシミが

曰くありげにほほえんでいる

まさか、このシミでもあるまいにと、現実的に

美女の心当たりを、探り始めることにした

なんでも、自称霊能力者によれば

目立ちのはっきりとした、二十代半ばであり

あまりの神々しさに、守護霊か、何かかとも思ったが

どうやら、生き霊のようであり

見分け方は教えてもらえなかったが

確からしい、なぜなら目が物語っていた

まあ、本物かどうかの霊能力者の話はともかく

彼女曰く、心当たりを、探らないことには、お話にならないと、ケーキ代を、残して、帰って行った

「美人か」

茶色い人生を、歩んできた上芝 霧にとって

そんな美人の記憶はなかった

強いて言えば、隣のうちに飼われていた「豆」と言う

柴犬だろうか、奴は、目立ちがはっきりしており

飼い主以外には、絶対に懐かず

結局、自分にも懐かなかったが

奴は確か、去年死んだと妹が言っていた気がするから

違うのだろう、まあ、犬だし、人ではない

霊能力者も言っていた

「美人」だと

もし、豆が出てきたのであれば、こう言うはずである

「美犬」と

さて、現実逃避はこの辺にして

はたして、人間にいただろうか

美しい外見の人など

霧は、テレビの女優なんかを、思い浮かべながら

いつの間にやら、眠りについたのであった


夢の中のことであった

その女性は、酷く美しく

なぜか、実家の庭に立っている

その立ち姿は、美し過ぎるもので

何か、一つの風景のようでさえあった

僕は、その女性に、何か、覚えがあるような気がしてならないが、どこで見たのか

酷く懐かしくもまた怖い記憶が

一緒に、引き出されている気がするが

どう言うことだ

「きり」

女性は、家の中に向けて、そう言った

僕は、薄暗い家の中に、小さな姿を見た

それは、人間のようで、美人の方へと

千鳥足で、向かっている

かなり幼いようだ

その小さなものは、縁側まで来ると

その手を、女の方へと向け

小さな口で、声を出した

「キク キク」


目を覚ますと、僕は、朝一番に、実家に電話をかけた

果たして、実家に、いや祖父母と話をするのは何年振りだろうか

一体、子供同然に育てられた菊婆ちゃんに、何を求められているのか、緊張しながら、不思議を含みながらコールを、待つ霧なのである

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野呂り収集 イタチ @zzed9

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