第34話、イリュージョンエメラルド
そろそろ季節は夏に切り変わろうとしている。
ここしばらくはトラブルも無く平和?な探索者生活を楽しんでいる。
地元の
前世の感覚からするとまだまだ初期段階のダンジョンだが攻略されて消滅する可能性が減って少しだけホッとしていた。
あれからも二日に一度はダンジョンコアに
その度にお土産として不自然にならないアイテムを
ローンで買った平屋の一軒家もとうとう完済できて家が自分の財産として確定した。
魔王の家と隣りという立地には少し問題があるのだが あの当時 無理してでも購入していて本当に良かった。
何せ
何と言っても人口が増えた。
フリーの探索者はこぞって移住し 関連している企業の支社が立ち並び、ダンジョン専門の税務署や警察署 果ては機動隊の詰め所まで新設された。
町としても嬉しいやら悲しいやらで対応が追い付かない状態だ。
今後も一番活気の有る地方都市と成っていくだろう。
当然だが良い事ばかりでは無い。それは治安の悪化だ。
探索者の中には就労目的の外国人も多く 中には不法滞在者も紛れている。
アメリカをはじめ世界各国の調査班が送り込まれているので見分けが難しくややこしい事に成っていた。何と言ってもダンジョン内部には警察も手が出しにくいからな。
細かな事情まで書いていては話が進まないので取り急ぎ大まかな情勢だけ抜粋した。
「マコトーーー暑いぞ、そろそろ部屋にエアコン取り付けるが良い」
「こんな狭い部屋に集まってたら暑いに決まってるだろ。文句有るなら隣に帰れ」
「うっ、・・お兄ちゃんが怒った」
「「真君、ルルちゃんを虐めないで」」
「あのなぁ・・」
北海道も近年は異常に暑い夏が増えた。温暖化を如実に感じている。
以前は扇風機で事足りていたが今ではクーラーやエアコンを設置している家が多くなった。
ちなみに我が家にはエアコンなどのハイカラな物は存在しない。
今の状況だが 場所は我が家の12畳のワンルーム。(二部屋を一部屋に改築した)
そこにメメ達のパーティ
初夏とはいえど暑苦しいのは当然だろう。
窓は空いているが薄っすらと女性向け香水の匂いも充満している。
俺以外全員女なのだ 非常に肩身が狭い。俺の家なのに・・・
「パーティの今後の方針を話し合うのじゃぞ、何でお主ら三人まで居るのじゃ」
何故 その会場がパーティメンバーでは無い藤原
「私は魔法使い特性の一番?弟子だから師匠の傍に居ても問題無し」
「私たちは藤原君の友達として来てるよ。まぁそれは建前でね、ここに来ると最新の情報が聞けるから ー探索者としては美味しすぎるのよ。見逃して豊条院さん♡」
「むぅ、他にリークするでないぞ」
今の会話も予定調和という奴なのだろう。
「初めからそっちのパーティハウスで集まれば良いだろ。エアコンも完備してるし」
「「「「「いやよ(じゃ)」」」」」
俺のはかない抵抗は一瞬で却下された。女は集まると強いぜ。
ただし この時の俺はまだ甘かった。
彼女達の本当の企みに気が付いていなかったのだ。
「あーーっもぅ、話が進まないから始めるのじゃ。
今日 緊急招集までして集まってもらったのはイリュージョンエメラルドの件じゃ」
「俺は噂程度でしか聞いてないが本当なのか」
「それは本当じゃ。昨日この町の市長直々に呼ばれての・お願いだからダンジョンを消さないで欲しい・と懇願されたのじゃ」
突然な話の経緯を説明すると、どこかの探索者パーティが小さなダンジョンの最深部まで攻略する事に成功したそうな。そして ゲーム感覚でダンジョンコアを破壊。
当然ながら主を失ったダンジョンは活動停止となって単なる地下洞窟に成り果てた。
ダンジョンの所在地であった地方自治体は地方活性化の原動力を失ったのだ。
自治体の所有財産を破壊されたと 訴訟騒ぎとなり損害賠償を請求するなど大騒ぎ。
しかし 法的な根拠が無くその訴訟は認められなかった。
この騒動の後、ダンジョンを所有する各自治体はお役所仕事としては珍しく即日の可決をもって
ただし ここまで騒いでいたのは行政の関係者だけ。
民衆の関心は持ち帰ったダンジョンコアの破片に集まっている。
それが今までに無い美しい宝石であると世界に名立たるセレブ達が絶賛したからだ。
この騒ぎで俺達も他人ごとでは無くなって来たので今回 集まったと言う訳だ。
「すごいねー・・その感じだと本当にダンジョン攻略に成功したのね」
「逆に早く消してくれと頼まれるよりは良ろしいと思いますわ」
「確かに私たちのパーティですら40階層に行けない体たらくだしね」
「体たらくって言うな。それにしても歯がゆいな以前の・・・ゴホゴホ」
盾役で前世で男だった
言いたい事は分かる。
前世の武器だけでなく防具も完全装備して戦えば直ぐにでも攻略可能だろう。
だが 考えてみよう。
縛りプレイで探索するのは必要な事だと思う。
なにせダンジョン以外に探索者が活躍する場所など無いのだ。
しかも、今 この世界で探索が楽しめるのは日本のダンジョンだけ。
前世のように人類を脅かす強敵など居ない世界だ。
魔王ですら ただの人間に転生してる事だしね。
今の世界においては無理をしてまでダンジョンを攻略する必要は全く無い。
「ダンジョンが攻略されて破壊されたコアの破片がイリュージョンエメラルドと呼ばれている宝石じゃ。何でも周りの状況に合わせて流れるように色と輝きが変わるそうじゃの」
「それは・・・」
「皆の予想の通り今やセレブの間で話題の中心での、商人達からすれば垂涎の商材じゃ。価格も天井知らずでオークションすら開催できん。今後は争奪戦になるじゃろ」
「それは まずいですわね」
「ああっ、各自治体は今後ダンジョンを守る方向で全力を挙げる。反対に裏社会の実力者は全力で欲しがるじゃろう。貧困にあえぐ国家そのものが動く可能性も有る」
「あはは・・今更だけど 聞かない方が幸せな話だったよ。身の程を知ったかも」
「いや ダンジョンは今まで以上に危険な場所になる。知らない方が危険だ」
「学校では今回の話はどういう
「今の話みたいな危機感は無いですね。まだ学生には次元の違う世界の話みたいな扱いです」
「中学でも同じかな・・他人事だね」
彼女達の会話を聞き流し俺 藤原
俺が知ってるコアはメタリックなエメラルド色。
色が変化する事は無かった。今度 魔力補充の時に当人?に聞いてみるかな・・。
それよりも先ほどから何か異質な気配を感じる・・・のだが?
「あらあら・・・これは動きましたね」
「どうしたの?涼香」
タブレットをいじって何かを調べていた
「政府が公表しているダンジョンの最新情報を見ていたのですわ」
「声を出して我らを注目させたは意図的じゃな」
「ふふっ今の私たちにとってとてもタイムリーなニュースが二つ飛び込んで来たわ」
うふふっ と
その姿は美しいが どこか秘密を知られた夫になったような気持ちがして少し怖い。
「日本各地のダンジョンが一斉に活性化して規模が拡張されたそうよ」
「この地のダンジョンが何度も大きくなっているのじゃから不思議ではないがの、
全てが一斉にと言うのは解せんのぅ」
「それに 関連したニュースなんだけど 話題の探索者パーティが全滅したわよ」
「はぁっ?噓でしょ」
「話題って今の会話に成ってたアレか?」
「そう・・・調子に乗って他のダンジョンに潜って活性化に巻き込まれたのね。
加えて 遺族は死んだ事よりも残された宝石の所有権で大騒ぎしてるみたい」
「身の丈に合わない財産は身を亡ぼすよな。欲を出すからだ」
「それ、他の探索者には言わない方が良いよ。
一攫千金夢見てる人多いから
「
「うわ、藤原くん。私の事さりげなく名前呼びするなんて愛を感じるよ」
「ここには
「はは。冗談だってば。皆も怖い顔するの止めてね♡」
「お姉ちゃんたまに空気読めないよね」
あっ、この騒ぎで不愉快で異質な気配の出所が分かった。
ここまで気付かせないとは現代科学恐るべしだ。
《ティーティス・・じゃなったスマン。琴平さん急いで部屋に結界を張ってくれ》
《えっ、此れって念話・・・真さんなの?いきなり脅かさないでよ。
オマケに前世の名前で呼ぶなんて。そんなに慌てて何事なの?
それと忘れてるようだけど 私はダンジョンの外で魔法使えないわよ》
《あっ・・・そうだった。すまん。ストーカーされてるみたいだ。
かなり遠距離からこの部屋を監視して撮影してる奴が居る。
下手すると会話の音声まで記録されているかもな》
《なるほど。でもその前に私の事も涼香って名前で呼び捨てして欲しいなー。
もう 先日抱き合った仲だし。・・・・なんてね。
誰も聞いてない二人だけの会話何て素敵ね。言えないセリフが平気で言えるわ》
《なんでそんなに余裕が有るんだよ。女性の方が覗きとか こう言うの嫌いだろ》
《まずは落ち着いて マ コ ト。
覗いてるのは他国のエージェントか もしくはパパラッチの連中ね。
外から覗かれるなんて世界的なセレブか有名人に成った気分だわ。》
《落ち着いて良いのかよ それって。何か魔法で探られる気配は慣れてるんだけど
機械を通して遠くから気配を感じると不気味なんだよ》
《こっちにはやましい事なんて無いし平気よ。実害が有るなら消すわ》
《へへーーい。 さすが涼香の
《ムカッ💢》
冗談を言った俺を見た
だが 目は笑っていない。それどころか殺気まで放っていた。
後ろには般若のお面がエフェクトで見えるようだ。恐ろしい
「うふふっ。マコトさんったら 念話で告白して来るなんて気を使ってくれてるの?
私はみんなの前で言われても平気だから気にしないで良いわよ。結婚しましょう」
「「「「「えっ、何それ! 何なの」」」」」
だから彼女はその手の冗談は大嫌い。
藤原
この後会合は
その後 喧嘩の騒音を気にしたのか部屋の窓は閉められ、カーテンまで閉じられて中の様子は見えなくなった。
エージェント達はしょうもない子供のケンカだと苦笑いを浮かべて撤収して行く。
彼らは子供相手の諜報活動に真剣には成れなかったのだ。
その子供にまんまと してやられたとは気が付いていない。
世界の誰も知らない情報が語られたのはこの後だった。
「さて、兄様。これで邪魔な覗き魔はいなくなったのじゃ。そして今日の会合はこれからが本当の話し合いとなる。ここは自宅じゃからな逃げられぬぞ。
コソコソと一人でダンジョンに通っている本当の事を全て吐いてもらうのじゃ」
藤原
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