第35話、荷物持ちですから
会合の次の日、幼女魔王一人を除いて7人で七飯ダンジョンに来ていた。
えっ、話を飛ばすな、ですか。昨日全てをゲロった結果がコレなんですわ。
相変わらず
そして花の中の汚点である男の俺 藤原
「あの野郎 魔法使いの分際で俺達のアイドルと上手い事やりやがって。ぶっ殺して俺が代わりたいぜ」
と 野郎共の心情を率直に言葉にしたスラングが聞こえてくる。
荷物持ちですから、お構い無く。見るなっつてんだろ、ゴラッ
「やあ、久し振りだね。元気に活躍しているようで何よりだ」
エアヤンキーになって心の中でイキってると 高級なスーツを着た逞しい初老の男性が話しかけて来た。誰だっけ・・・
「忘れられたかね。先日は我が社にスカウトして振られたのだが」
そう言えば何処かの大企業の偉い人か・・・関係無いな。
処世術がなっとらんな・・・とアニメに出ていた爺さんに言われそうだが
そういうのが必要な世界には近寄りたく無いから良いんだよ。
「スカウトの件は諦めたから警戒せんでくれ。これ以上の誘いは武人の心意気を
「武人って・・さすが時代劇で育った世代の人だな。俺はそんなんじゃ無いよ」
「何を言うか 自ら覚悟して戦いの地に赴く者は武人だ。それは今も昔も変わらん」
「まーそれで良いけど。ところで忙しいはずの会社の偉い人が俺に何か用?」
「わしの名は
「もう調べてると思うけど自分は 藤原
「うむ、確かに憶えきれんほど知人は沢山おる。
だがな 立場的に下心が無い知人は数えるほどしか居らん。そして そんな下心の無い人間と新しく知己を得る機会も格段に少なくてな」
「やっぱり 偉くなると大変だよね」
前世ではその点で大変な苦労を強いられた。
パーティ会場でチラッと軽く名乗って来た程度なのに「なぜ憶えていないのだ!」と怒り狂う貴族も多かったものだ。
自分にとって何の価値も無い相手の名前なんて忘れるに決まってるだろに。
「今日はわしの孫娘が
「お爺ちゃん、見つかった?」
「おっ、来た来た」
うわっ、幼女が出た。関わりたくねぇー。
でも 用が有るのはメメ達
「あれっ、魔王様のお姉さん。お久しぶりです。魔王様はご一緒ですか?」
なにっ、魔王様とな?。
幼女は
つまり 彼女の妹、
隣りの家の三女が魔王の生まれ変わりだと知ってるのは俺達転生者だけだ。
当然だが誰かに言いふらすはずも無い。
とすれば もう一つの可能性・・・前世の魔王の眷属が転生した事になる。
勇者パーティ全員が同時期に生まれ変わり
その事を考えれば魔族だった者達が転生して出会うのは不思議な事では無い。
あれっ・・魔族って地獄に落ちないのかな?さんざん悪い事してたんだよ。
そもそも地獄自体が罪人を恨みながら生きてる人間の願望なのかも知れないのか。
おっと、どうせ結果が出ない事に悩んでも時間の無駄だ、やめやめ
「
と、言いつつ念話を送る。
《メメ 聞こえてるか?このガキが魔王の手先なら勇者の魔力に気が付くはずだ。
歓迎してやれば白黒ハッキリするぞ》
《あはは・面白いのぅ 了解じゃ》
前世の勇者ファーリア・セレデティア、今世
傍から見れば子供に優しいお姉さんの絵面だ。
「私たちが
とか言いながら一気に魔力を放出した。ただの子供なら何も分からず喜ぶはず
「ヒヤァアァァッ。・・・・・・きっ、貴様は勇者ファーリア!何故ここに居る」
はい、真っ黒でした。
「ふ、ふんっ。私の名前は
聞いて驚け、我の前世は魔王軍四天王 深淵の獄卒ルプリュウスなるぞ。
年上だからとマウントを取ったつもりだろうがいずれ世界は魔王様と我々が支配するのだ」
その言葉を聞いていた俺達転生組は「おお、さすがに四天王を覇っていただけある」と幼い姿で立派な口上を言ってのけた幼女を褒めたい気分だった。
だが その他の全ての人々は大声で魔王ゴッコしている幼女を温かい目で見ていた。
「姫子よ、何時もは大人びていて子供らしくなかったが、・・・爺は安心したぞ。
押しの冒険者の前では子供らしくて可愛いのぅ」
自分のセリフに気が付いたのか姫子ちゃんは顔が真っ赤だ。ぷぷっ
いやーっ、と羞恥でこの場から逃げ出した幼女を複数の大人が追いかけていく。
悪意を感じないので護衛なのだろう。権蔵氏も慌ててはいない。
はー、やれやれ。悪魔は撃退したぞ。
触らぬ
と言う訳で、毎度のごとく騒々しい一階の安全地帯を抜けて入り口からダンジョンに一歩を踏み出すと今回も俺が一人だけ転移させられる。
そして最深部に召喚されたのだが・・・・何時もは明るく魔力を
「どうした?腹でも痛いのか」
心の中で「腹って何処だよ!」とボケてくれるのを期待したのだが・・・
『マコト・・・私を壊すの?、殺すの?』
第一声がコレである。ビックリだ。最近では二日毎に魔力を補充しているので以前のように幼女体形ではなく中学生くらいの姿で目をウルウルしながら聞いて来る。
ネットなどから色々と情報を仕入れているからか近頃は芸が巧妙になってきた。
でもまぁ、こんな姿を見ているとダンジョンにも心が有るのだと感じられる。
ますます こいつが生物であるという話が信憑性を増してくる。
目の前の悲しむ少女だぞ。言葉で答えるのではなく そっと優しく抱きしめる だろ。
相手に心が有るなら こんなナーバスな時は理屈で言っても伝わらないはずだ。
彼女の顔が俺の胸に預けられる身長差だったのでちょっとした恋愛もののワンシーンみたいには見えるかな?。勿論 観客など居ないけどな。
これを見たババア共には この程度の歳の差でもロリコンとか言われるんだろうな。
純粋な優しさを汚すなよ。ほんと いちいちウゼエ。バッカじゃね、と言いたい。
『ありがとう。マコトの気持ちは確認したよ』
「落ち着いたか?、他のダンジョンが機能停止になったの知ってたんだな」
『うん、ネットで情報共有してるからね』
やれやれ・・すっかりこの世界の環境に馴染んでるぞ。
ダンジョン間でSNSとかやってそうだな。
コア自体がサーバーとかしてたら最強の通信網とか出来そうだし。
「とりあえず ハッキリ言葉にしておくな。俺も仲間もダンジョンが必要なんだ。
壊すなんて絶対に有り得ない。むしろ 何か有れば全力で守るぞ」
見た目が女性のコアに真面目な口調で話すのは少し照れくさい。
だが、言葉に嘘は無い。俺達とこいつは一蓮托生と言う奴だ。
何か有れば世界を敵に回すのもやぶさかでは無い。
『うん、嬉しいよ。マコト達が本気になったら抵抗してもこの最深部まで攻略されちゃうの知ってるからね。死ぬのが怖かったんだ』
純粋に笑顔でそう言ってくるコアを見て・可愛い・と思う俺は変態なのだろうか。
相手は人間ですら無いのに。
《真君、聞こえる?、いえ 聞こえてるでしょう。何時まで待たせる気かしら?》
《兄様、まさか昨日の約束忘れたとは言わぬであろうな。早くダンジョンコアを紹介するのじゃ》
メメ達から念話で鬼電が来た。そうだった、ダンジョんの中に入ったんだし彼女達も念話程度は当たりまえに使えるのだった。
実は昨日の会合でコアとの密会がバレてしまった。
別に
「俺の仲間がダンジョンコアと会いたがっているんだけど どうかな」
『えっと、それって一緒に入って来た6人の事?」
「ああそれだよ。でも怖かったら今回は諦めてもらうぞ」
『じゃあ、ハイ これ お願いね』
何時ものようにコアの本体が渡された。
信用されたのは嬉しいが警戒心が全く無いのも心配に思えてくる。
『心配しないで、マコト以外には手渡したりしないよ。それより 6人もここに招待すると消耗が大きいから』
どうやらメメ達女子部もコアのお眼鏡に適ったようだ。
床に魔法陣が輝き 一瞬で6人が転移して来た。
女子6人はシンクロでもしたように迷いなくコアのアバターをガン見している。
その迫力に少しビビる手の中のダンジョンコア。うん 俺でもビビるだろう。
「「「「「「カワイイ♡」」」」」」
そして次に疑惑の目が一斉に俺に向けられる。ギルティ!と目が言っている。
どうせ 薄い本のような想像でもしてるだろ。ムッツリスケベ共め。
ったく、彼女達の想像に尾ひれが付いて暴走する前に消火しないとな。
「言いたい事は分かるけど、それ冤罪だからな」
「まだ何も言っておらぬのじゃ」
一斉に目を逸らす6人。
ほらな・・・・
****************
今年の更新はこれで最後となります。既読感謝。
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