第33話、琴平 涼香は お嬢様・・・・

私の名前は琴平 涼香ことひら すずか

パーティ深緑の鏃しんりょく やじりのパーティメンバーで回復魔法が使えるヒーラーなのよ。

そしてマッピングやデーター管理など頭脳担当も熟してる。

私なんかがヒーラーとか笑える境遇なんだけどね。

前世でもその役目だったから自然と今回の人生もそうなった感じかな。


問題は私の実家でね・・・ものすごく心配されてるのよ。

親だから当然とは思うけど月に一度必ず実家に帰省して顔を見せる事を条件にやっと探索者を続ける許可が出たわ。


今日がその日ではるばる車で4時間も使って帰らないとならないの。めんどくさ

でももし帰らないと大変な事になるからサボれないのよね。


そんなルーティンワークな一日になるばずだった今日が思い出深い一日に成るなんてこの時は思ってもいなかった。



***************



琴平 涼香ことひら すずかが誘拐された?。

ダンジョンコアの許から転移で入り口まで戻された俺に小声でそう告げて来たのは

誘拐された当人を除くパーティ 深緑の鏃しんりょく やじりの三人。


タダでさえ有名で目立つ彼女達が慌てているからダンジョン一階の巨大な空間セイフティエリアの注目は全て集まっている状態だ。

とてもではないが込み入った話などする状態ではない。


俺こと藤原 まこと も最近は顔が知られて国の資源買取りセンターに魔石などの資源を買取りしてもらうのもスムーズに行われる。

そのついでに防音の会議室を使わせて欲しいと交渉して何とか許可をもらった。

とにかく事の経緯を聞かないと動くに動けない。


疑問は尽きない。

普段は優秀な護衛が警護しているパーティメンバーなのだ。

どうやったら誘拐何て出来るのか?


「まず聞くけど・・パーティから一人だけ誘拐するとか魔法使っても難しいぞ。

あの護衛だぞ、どこかの国のエージェントでも難しいだろ。どうやったんだ?」


「それなんだけど彼女の実家が探索者家業には反対らしくて良く思っていないのよ。

何とか説得して許可してもらったんだけど、月に一度帰省する事を約束してるの」


「まぁ涼香は見るからに良い処のお嬢様って感じだしな・・・なるほどな話だ」


「「「・・・そうだね」」」


何やら含みの有る何とも言えない表情なメンバー達。まぁ良いか・・・

個人の、それも女性のプライベートな話は地雷だからな・・・流すに限る。


「ああ、ごめん。続きを聞かせてくれ」


「ん、今日がちょうど帰る予定日で実家から迎えの車が来たんだけど・・・

うちから出発して少ししたところで涼香の乗った車が横から追突されたのよ。

事故確認のために運転手が車から降りたところに別の車が来て跳ね飛ばされたそうよ。その車から降りて来た数人の男たちが後部座席にいた涼香を攫ったの」


「えらい計画的な犯行だな。荒っぽいし、それに手慣れている」


「一人で別行動する機会を狙ってた感じ。どうやら私たち監視されてたみたいね。

それがほんの15分前くらいの話なの、今からなら無事に涼香を助けられるわ。

だから真の魔法で何とかして欲しいのよ」


おいぃ、メメさんや。その話は秘密にしていたはずだぞ。


「言いたい事は分かるけど緊急事態だからね。それにここのメンバーは今更ティートだった真が不思議な事しても驚かないし秘密は守るわよ」


前世の妹だった豊条院 芽芽 ほうじょういん めめが情報漏洩の正当性を主張する。

こんな感じでいずれは秘密が拡散されるんだろうな・・・俺の平穏な暮らしも長くないかもしれん。

彼女の横では轟 鏡華とどろききょうか轟 春奈 とどろき はるなの姉妹がニコニコしながら頷いている。

こいつらその様子だともう何の心配もしていないだろう。


「そもそも大事件じゃねーか。もう警察だって動いてるだろ。追突した車はどうしたんだよ」


「それなんだけど・・・彼女の実家の都合で警察沙汰は困るの。車も大破はしてないから少しぶつけた程度で済んでるわ。だから今も表沙汰に成って無いのよ」


涼香の実家ってそんな大物なのか?それとも世間体を気にする政治家とか。

琴平って名前の国会議員とか聞いた事無いけど・・・。


「はぁっ・・・芽芽達が俺の所に来た訳が分かった」


前世じゃないんだから いい加減に魔法で解決する発想は捨てて欲しいんだがな。

人の事は言えんか・・・


この世界で【魔法】何て発想が生まれたのも「どうしようもない現実」を変えたくて思い通りに使える力を欲した結果だろう。

俺達転生者にとっては魔法がリアルな世界だったのだから頼るのはむしろ自然な思考なのだ。


確かにグダグダ考えてもしょうがないか。



*****************




≪涼香の視点≫


「ちっ、まだ何の反応もねえな・・・薬が強すぎたか?」


男の声が聞こえる。

体に触れているのが分かるがまるで電池の切れたオモチャみたいに体はピクリとも動かない。不思議と怖くは無い。死んで体を失うのはこんな感じなのだろうか。


「こいつは芸能人でも通用するレベルだぜ。早いとこひんいてっちまいましょう」


あら?私に手を出す気なの。

そんな事に成ったら血の雨が降りますわよ。

声も出ないから現実を教える事もできないわね。ご愁傷様


そんな事はどうでも良いけど・・・汚されちゃったらティートの争奪戦から脱落になりますね。今回の人生では結ばれたかったです・・・運が無いですわ。



「バカ野郎、せっかく苦労して仕入れた金づるだぞ。

マグロで何の反応もしねえ女に誰が興奮するんだよ。AV売るのもテクがいるんだ」


「まぁそうだな。エロの業界も難しいからな。裸の女を出しておけば喜ばれたのは昔の話だ。だが今回は何と言っても今を時めくセレブな探索者でアイドル並みの人気だからな、裏での販売でも売れるぜ」


「ひっひっひっ、そうだぞ。考えてみな、他人がうらやむ恵まれた人生が足元から壊されていく絶望の顔。加えて犯される恐怖で泣きわめいて抵抗するシーン。最高だろ。そして処女を失う瞬間が映像で見られるんだ、どんな変態野郎でも盛り狂うだろうぜ」


下衆な考えね。それに心外だわ。

そんな事で泣き喚く女に見られてるのかしら。

伊達に前世の地獄みたいな惨状を見て来た訳ではないのよ。


もっとも、前世だったら今のような状況でも頭の中で魔法を構築してこの程度の男達ザコなんて消し飛ばしてあげるのに。こっちの世界は住み易いけど不便よね。



フォォーン



ぼふん


えっ!


目の前に懐かしいエフェクトがゆらめいた後 男性の背中が見える。

変な薬を使われたから私がラリって幻でも見ているのかしら。


「ここが姫をさらったゴブリンの巣穴か?臭いな。ほんと魚臭い」


「何だてめぇ、何処から入った」


「全部で20人ほどか・・・問答無用だ」


ぐああああーっ。  っぎゃーぁぁっ目が目がぁぁぁっ


男たちの断末魔のような叫びが響き渡る。うるさいな


いきなりベッドの上に落ちて来たのはやはり一番 来て欲しかった人。


漁港の古い倉庫なのか魚臭くてムードも何も無い場所ですが、ベッドで動けない私を上から見下ろす愛しい男性というシチュエーションはドキドキしますね。


思えば今の私はザコな悪党に捕まったカッコ悪い姿です。

スカートなどめくれてはいないでしょうか?

恥かしくてドキドキします。

私にはしたない薄い本のような妄想させないで・・・


いや、むしろこんな雰囲気に負けて彼が私を襲ってくれた方が既成事実になって大変に都合が良いですわね。

さあっ、今の私は貴方の欲望のままにできましてよ。

私の初めてを差し上げますわ。ドンと恋です。

言葉も出せませんから目で誘惑しましょうか?。


「そう睨むなよ。遅くなって悪かったってば。

どうやら乱暴はされてないようで良かったよ」


に、睨んで何ていないわ。もぅ

私ってそんなに目つき悪かったかしら・・・今日一番のショックだわ。


「迷子のブローチを着けてくれてて助かったよ。目印が無かったらさすがに飛べないからな」


迷子のブローチ?、確かにいつも身に着けてるけど、ダンジョンの外では魔法何て使えないはず・・・・


「こいつ等以前メメを誘拐しようとした半グレとか言う子悪党だな。

誘拐未遂で止めておけば良かったのに・・・もう一生 目が見えないだろうな」


そうだったわ。真君一人で来たの?警察とか・・・は無理だね。

じゃあ、たった一人で沢山の男達を無力化した事になる。どうやって?

それにあのエフェクトみたいに見えた光のゆらぎは・・・魔法の転移!。


「では、とりあえず脱出しましょうか?涼香姫」


脱出と言いながら寝ている私に迫って来る。

やればできるじゃない。その調子よ

顔が近づいてきた・・・

このままキスする事を許しますわ。


だから、私の腕を真の首にかけたって私からはキス出来ないんだよ。

目線が高くなる。

こ、これは・・・幼い子供を片腕で抱き上げる方法。

・・・・・・・むうぅぅぅ

私を姫とか言うならせめてお姫様抱っこにして。


真の顔が目の前に有るのに私からはほっぺにキスする事すらできない。

こんな強力な麻酔を使う犯人をギタギタにしてやりたい。


とは言え、初めて父親以外の男性に抱き上げられたわ。

これはこれで良しとしましょう。ドキドキ


眩しいわ・・・建物の外に出たのね。

男の人に抱きついた姿で人前に出るなんて恥ずかしいわね。

帰りも魔法で転移してくれれば良いのに。


あらら、首が動かせないから頭が真君に寄りかかるカッコウになっちゃう。

他の人が見たら完全に恋人同士の姿よね。ふふっ




「おいおい・・・モンモン背負ったプロのお出ましかよ。かんべんしてくれ」


真が小声でブツブツ言う何て珍しいですわね。


キキーーッ


狭い視界だけでも何台もの車が走って来て近くで停車したのが分かる。

新手の敵かしら・・・いくら魔法でも相手するには限度があるよね。

それに外で魔法が使えるのは隠したいでしょう。

私の騎士は姫を守れるかしら。


カチャッ、バタン、バタン、バタン


車を降りる沢山の人の気配。しかも明白に殺気を放ってくる。

素人の遊びでは無いわね・・・半グレの糸を引いていたのはマジな玄人やくざですか。

まずいですわね。血で血を洗う事になりますわよ。


「ふっ、さすがにこの数を再起不能にしたら警察が動いてしまうな。めんどくさ」


さすが前世の二つ名が 深淵の引導師いんどうしティート・セレデティア。

相手はプロなのに・・この程度の修羅場は鼻で笑いますか。感動しますわね。


今この人生で私の伴侶にふさわしい男ですわ。


「あ、てめえがお嬢を攫った野郎か?。

・・・・・マジか・見た目は若いが何人も殺ってるな、どこの組の者じゃ」


「堅気の少年に酷い言い方だな。俺は探索者だからな殺してるさ、ただし魔物だけだ。そっちこそ琴平さんに何の用だ」


あぁっ、止めて真。

私を抱き上げたままでそんな強い殺気出さないでー漏らしちゃうよー。



「・・・・一つ聞くが涼香お嬢をさらったのはお前さんじゃねぇのか?」


「ああ、犯人はまだこの中に居るぜ。もっとも全員 目が見えないだろうから今後は半グレは引退だろうけどな」


『おい、確認しろ』


小声で指示が出て一人が走っていくのが分かる。冷静な判断ね。

真の出す殺気と敵対している状況でこの対応が出来るのはかなりの強者だわ。



「確認しやした。半端もんが20ばかり目を抑えてジタバタしてます」


「そうかい。

・・・・・・

なぁ、兄さん あんたは涼香お嬢を助けた・・・で良いかい?」


「何が聞きたいのか分からないが仲間は助けるさ。ダンジョンだろうと外だろうと」


「なるほどな、探索者の仁義ってやつか。俺達は涼香お嬢を助けるよう依頼されただけだ。無事なら問題は無い。手間が省けたぜ」


「それならもう帰っても良いかい」


「一つ聞きたいが倉庫の中のゴミはこっちで始末しても良いのかい」


「問題無いけど一生目が見えないまま生きていく方が大変だと思うよ」


「なるほどな、生かさず殺さずで手を打とうかね」


「それはさすがに怖いな」


「はっ、冗談だろ。でもまぁ、さすがお嬢だ、度胸の据わった男を捕まえてるぜ。

うちの組も安泰だな。

おいっ、仕事が楽に片付いたからこのお二人を自宅まで送ってさしあげろ」


「へいっ」


ぼそぼそ『いいか 相手が若造だと思ってなめた態度はするなよ。将来は本家の組長に成るお方だからな』ぼそぼそ


「ひっ」



あらっ、気が早いですわね。


でも、そう思っていた方がよろしくてよ。


彼らの小声が聞こえているはずの真は意図的に無視していますわね。


私の立場がバレてしまいました。


ドン引きされたかも


・・・・でも逃がしませんわ



前世でもこの世界でもパーティ 一番の腹黒はお嬢様な見た目の琴平 涼香ことひら すずかだった。









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