第30話、地方活性かも

今回の探索はいきなりダンジョンコアに誘拐されて出鼻を挫かれたけど、その後の探索は順調に進み17階層まで到達した。

これで目的は果たした。

そして問題の鉱石も間違いなくドロップする事が確認された。


今回の探索はここまでだ。


此処だけの話、新しい戦い方を手に入れ前世の装備で武装したオレ藤原 まこと、そして豊条院 芽芽 ほうじょういん めめ率いる前世の勇者パーティ深緑の鏃しんりょく やじりの組み合わせならこのまま完全攻略も問題無く可能だったはずだ。


それを17階層で止めたのは今はまだ時期尚早だからだ。


今の日本で用意できる一般装備は良質だが所詮はノーマル止まり。

現実問題として魔法使いの火力が使えないパーティがダンジョン探索において躍進できないのは当然であり、探索者達には限界であるという意識さえ広がりつつある。

そんな中、装備が進歩することで「深くまで攻略出来そうな気がする」と人々が思うようになればさらに下に進んでも不自然には思われないのだが・・・今はな。


そして今、俺達五人は多くの照明とカメラの隊列に睨まれている。


「そして、こちらが15階層でドロップした鉱石です。見ての通りミスリル鉱石とは色も質感も明らかに異なります。3つだけ手に入りましたので二つを政府と民間の研究機関に提出してこの鉱石が何に使えるか調べてもらいます」


豊条院 芽芽 ほうじょういん めめが堂々とマスコミの取材に応じている。

有名なパーティだし彼女は場慣れしているのだろう。


「あと一つ残りますがオークションに出されるのでしょうか?」


「いえ、手元に残します。鉱石が分析されて未知の金属が手に入るようなら新しく武器を作りたいですからね」


おおーーっ


多めに研究機関に渡すことで世間からのやっかみを減らすことが出来る。

残りの一つを売らず武器に回す事で探索に関わる全ての人に夢を見せる事になる。

極力敵を作らない上手い話の進め方をするものだ。



「ところで今回の探索にもそちらの男性を同行されていたようですが、確か魔法使いの特性持ちだったと記憶しております。深緑の鏃しんりょく やじりの皆さんとはどのような御関係なのでしょうか?」


「彼も同じ探索者だ。一時的にパーティを組んだとして何の不思議も無いでしょう」


「それはそうですが今回は攻略深度のレコードに挑戦する意味が有ったはず。

そこに何の役にも立たない魔法使いを同行させるのは何か別の目的が有るのではと思いましてねぇ・・ひひっ」


四十を過ぎたら自分の顔に責任を持て・・か。なるほどなぁ。

あのレポーターの男、質問の内容と同じで下衆を絵にかいたような厭らしい顔をしている。


そもそもなぜ名前も知らない他人が俺を貶す。

これだけバカにされて俺にはあの男をぶん殴る権利くらい有りそうなものだが、実際には殴った俺が悪者になる。

口は、言葉とは便利なものだ・・たとえ相手を罵って自殺したいほど心を傷つけても殆ど罪にならない。

マスコミの奴らは言葉やペンの暴力を自分たちが使うのは権利だと思い込んでいる。終いには身勝手を拗らせて「報道の自由を邪魔するな」などと言い出す。


報道の自由、言論の自由、他にも信教の自由などが日本で悪用されているが、ここで使われる自由とは「自分で自分を正す自由」だと聞いた事が有る。

つまり自分で行動を正せない者は自由を口にする権利など無いと言う事だ。

自浄出来ないなら外から叩き潰すしかないのだから彼らはいずれ自由を取り消されてしまうだろう。哀れな事だ。


「何を勘違いしているか知らないが魔法使い特性が役に立たないと思うのは時代遅れだね。それに私たちは探索者であって芸能人では無い。

もし仮に今後も彼と私たちが恋愛関係に成ったとしても他人にとやかく言われる筋合いは無いな」


ディフェンス役のTS少女である轟 鏡華とどろききょうかのコメントにはかなりのイラつきが込められている。そろそろフォローしないと手を出してしまうか。


「なるほど、なるほど。探索もデートの内ですか。安全地帯も有りますしねぇ。

誰も来ない階層ならそれは楽しいでしょうねぇ」


「「「おおっ、なるほど」」」


「なっ、バカな事を言うな‼。そんな事の為にこの場を開いたんじゃないぞ」


「しかしねぇ、一般の視聴者はこの話題の方が興味有るんだよねぇ。ははは」


「きさま、いい加減にしろよ」


あーあ、話の方向をすっかり誘導されてスリ変えられてしまったな。


「ハイハイ、ストップ。そこまでだ」☆キュィーーン


気迫を込めて大声で止めたためハウリングまで起こした。どうせ一階の大セイフティゾーン全ての注目を集めている記者会見だし迷惑にはならんだろう。


鏡華きょうかさん、手を出すなよ。この男マスコミの振りしてるけどチンピラだぞ。手を出したらそれをネタに脅迫して骨までしゃぶる気だ」


「「「「「なにっ」」」」」


これで場の流れは変わっただろう。


「何を言うかと思えばゴシップをごまかす為に嘘を言ってはいけませんねぇ」


「ごまかしてるのはお前だ。

なになに・・関東半グレ団体デーモン・コフィンの構成員、野田てつや26歳ね。

恐喝、脅迫、暴行障害、婦女暴行、殺人まで有る。他にも色々やってるねぇ。

半グレのベテランだな、オッサン、いい歳こいてグレてんのかよ、引退しな」


「きっきさま、デタラメ言うな‼。名誉棄損だぞ」


「おまえ、この場所がダンジョンの中だと忘れてないか?鑑定魔法だよ。

魔法使いだからな、この程度の魔法なら使えるんだよ。こんな感じで」


ガシャーン☆


自称マスコミ男の横に浮かんでいたドローンカメラを両断する。この程度なら杖を使わなくても魔法をコントロール出来るようになったからな。



「なっ、俺のドローンが」


「そいつのカメラのメモリーを調べてみな。婦女暴行されて撮影されたAV画像でいっぱいだぞ」


「噓をつくなぁっ、そんな事は無い。テメェ、プライバシーの侵害だぞ」


「警備員、何をしている‼。その男を取り押さえろ」


やっと動いたか。


ん?、指示している男・・見覚えが有る。

あれは以前俺を窃盗の冤罪でうたがったダンジョンの買取センターの責任者だ。

彼は実質このダンジョンの責任者で単なる公務員では無い。ダンジョン内では逮捕権限すら持っていたはずだ。


「止めろゴラッァ。俺に手を出してただで済むと思ってるのかアァッ」ドタバタ


半グレ男はかなり抵抗したが無駄だ。

ダンジョンの中なら身体強化の能力を使える警備員も多数配備されているからチンピラなど敵ではない。


「魔法使い特性が使えないと思うのは時代遅れ・・・か。なるほどですね」


「お久しぶりです。また会うとは思いませんでしたが」


「都落ちしたしがない公務員なんでね、のどかな地方施設の責任者がお似合いなんですよ」


なんだよ、こっちのオッサンもいい歳してスネている訳かい。左遷でもされたのか?


「そいつは悪い事したかな。今日でのどかな職場は終わりですよ」


「今日は確かに騒がしいですね(君たちのせいで)」


このオッサン、相変わらず顔色一つ変えない鉄面皮だな。是非とも驚愕させたくなる。



「明日からはもっと騒がしくなるから過労死しないようにね」


「まぁ確かに今日の話題でダンジョンに来る探索者は増えるでしょうが・・たかが知れてますよ」


あらら・・本当に分かって無いのか。明日から増えるのはソレだけじゃないぞ。


色々な意味で情勢が変わるだろう。


気の毒だから少しだけ警告しておくか。


「あの鉱石はオリハルコン鉱石だよ、鑑定魔法で調べたから間違いない。

学者さんが何て名前を付けるか知らないけど新しい未知の金属なのは確実なんだよ。それ目当てに世界中の国からエージェントやら工作員やら企業の関係者やらが大挙してこの七飯ななえ市に押し寄せて来るだろうね」


「「「「「おおーーーーっ」」」」」


残っていたマスコミ連中が騒がしい。いまさらか・・・


「後は予想できるだろ。

しばらくの間は世界中の関心がここのダンジョンに向けられる。

この七飯市ななえしが世界の中心だ」


やった、オッサンの顔が複雑な表情をしている。

頭が良い人だし事の重大さに気が付いたのだろう。


ホテルなどは連日満杯でウハウハだろうし、近くの観光地にも人が押し寄せる。

多くの国や企業が近くに拠点を作るだろうし地価は暴騰するかもな・・・

それは迷惑だから止めて欲しいが。

素人の俺が考えただけでもこれだけ波及効果がでてくる。

本格的に考えだしたら切りが無いくらい大きな影響が出て来るだろう。


そんな中での各方面の責任者のポストは存在感が爆上がりになるだろうし、今の立場が地方の閑職などではいられなくなるのだ。


連日の問い合わせだけで下手すると過労死するぞ。ご愁傷様・・・



俺が言えるのは一言だ。


ガンバッテネ


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