第29話、エメラルドメタリック

「ああーーっ。師匠おひさー、また一緒に探索しようよー」


初心者装備に着替えてダンジョン本坑の入り口に行くと以前スライムに殺されかけた魔法使い特性の少女 茉莉野 莉々奈まりの りりなと遭遇した。


彼女にはこの世界での魔法使いの戦い方を少し指導したことで弟子と師匠みたいな関係になっている。



莉々奈りりなか。今日は姉さんと一緒じゃないのか」


「姉さんもいるよー、今は着替え中。前衛は装備が多くて重いから大変だよねー」


「今は午前中だぞ、姉妹で学校サボリか?やるな不良娘」


「失礼ねもぅ、何言ってるのよ。今日は土曜日よ、休日休日ーー」


あーー土曜日か忘れてた・・・学生は夢の天国、週休二日だった


ちなみに今の俺は自由出勤だからさらに良し。


ダンジョンの有る時代に生まれて良かった。


「今日は先約が有るからパーティは組めないぞ」


「ええーーーっ、ずっと来るの待ってたのに・・・」


こいつ・・ちゃんと学校行ってるんだろうな。中学はまだ義務教育だぞ。



「はいはい、ごめんよ。通しておくれ」


老人5人のグループがダンジョンに入っていく。


ここから先は魔物が徘徊する危険な場所なのだが・・・。


「先約って、今のお爺ちゃん達の事?。老人ホームの慰安旅行の護衛?」


「いや、それは無い」


そう言えば変だな・・

弱い魔物の階層とは言え老人が観光でうろつくべき場所ではない。


「うわあぁぁぁぁぁっ、バケモノじゃー」


老人たちが戻って来た。


最初の階層はメインがスライム、レアでゴブリンが出る。


スライムはともかく老人にゴブリンの相手はキツイだろう


「文明が進んでいても所詮人間の考える事か・・・」



「おまたせー」


「藤原君、こんにちは」


前世では同じ勇者パーティだったメンバーがこの世界で集まった深緑の鏃しんりょく やじりと合流する。


「藤原君おひさー。元気にしてた」


莉々奈りりなの姉、茉莉野 毬奈まりの まりなも一緒だ。


顔見知りだし不思議では無い。ロッカールームで鉢合わせでもしたのだろう。


毬奈まりなさんや、君の所のちびっ子が毎日来るから久し振り感が全く無いな。アレ何とかしてくれ」


「うんうん、ルルちゃんは天使だからねー。かわいい子が来てくれて嬉しいよねー」


天使じゃねーよ、アレは悪魔だ、 魔王だっ(藤原 まこと 心の叫び)


「師匠、妹に手を出さないで下さいね。手を出すなら私にですよ」


弟子よ、オレをロリコン認定すんな


「皆さんこんな入り口で漫才なんてしてたら迷惑になりますよ。

探索にいきますよー、ハリーハリーハリー」


そうだね。とりあえず入りますか・・・


おっと、その前に


「皆ストップ、入る前に迷子のブローチを渡しておくから装備しておいてくれ」


秘匿ストレージから取り出したのは前世ではポピュラーなアイテム。


専用の魔法を使うと所持している人間の階層や位置情報が分かる便利アイテムだ。


今と成ってはアーティファクトと言える貴重品だが、予備としてかなりの数を持ってていた為に全員に気楽に手渡せる。


「あらあら、懐かしいアイテムですわね」


「これを有効にする探索魔法はポイントが有ったから俺が習得しておいた」


「私と 莉々奈りりなの分も有るの?用意周到だねぇ。さりげなくプレゼントするなんてポイント高いよ藤原君」ニヨニヨ


「ちゃかすなよ、これはダンジョンの中で居場所を教えてくれるアイテムだ。転移トラップ対策だな」


「転移トラップなんて有るの?」


「以前の七飯ダンジョンには無かったと思うけど、今は有る。先日俺が引っ掛かって6層から15層まで落とされた」 経験者は語る。


トラップの存在は公に報告してある。

15層とは言わず無難な階層に飛ばされたと嘘はついたけど、どのみちトラップの場所と深さはランダムだから大事なのは存在の報告だけだ。


「今日は斥候の春奈が居るから大丈夫と思うけど今後探索する時は保険と思って必ず装備してくれ」


「よしっ、言質取ったよ。今後も兄様が一緒に潜ってくれるのじゃな」


どうしてそうなる。


「ブローチって言うより小さいからボタンに見えるよね。普段も着けておくから私の居場所を探ってね、師匠」


女性はこの手の物に反応が良すぎて無駄に疲れる。

とは言え、皆が弱体化して前世の実力には程遠いから必須のアイテムだろう。


何故かこのアイテムの存在に疑問を持たない茉莉野まりの姉妹。



入り口の手前に進むとスッとドアーが消えて洞窟風な空間が広がり本当の意味でダンジョンが始まる。


どのような原理でドアーが消えるのか?この謎は未だに科学者達を悩ませている。



あれっ・・・


広大な空間に出た・・・


「こんな仕様変更は聞いてないぞ」


ツンツン


ん?


「誰だ、背中をつつくのは。こんな時に遊ぶなよ」


ツンツン☆


イタイって


振り向くと後ろに居るはずだったパーティメンバーは誰もいない。


ツンツン☆


「えっ」


さらに腹をつついたのは俺の腰くらいの身長しかない子供。いや幼女


こんな幼女がダンジョンに入って来たのか?


ゴミ親が子供をダンジョンに捨てる事件が有ったため保護者同伴だろうと小学生以下の子供の入場は厳禁と法律で決まったのだ。


入り口の係は何してたんだ‼


この子を保護するのは当然としても、またメチャクチャ事情徴収されるだろうな。


めんどくせーー


『まりょく・・・』


俺ってロリに付き纏われる呪いでも掛かっているのか・・・


『魔力・・・をちょうだい』


「お嬢ちゃん、どうした?迷子か?・・ここは入ったらダメな場所だぞ」


あれっ・・


片膝をついて目線を合わせて違和感に気が付いた。


この子、背丈は幼女のソレなのだが体形は高校生みたいな少女体形なのだ。


衣装は着用している・・・が変だ。

下はダンジョンの受付嬢が着ているビジネス用のスカートに似ているし、上は女学生の制服のようなブレザースタイル、靴は何と小さいのにハイヒールとバラバラでちぐはぐな姿でいかにも「知らないので参考にしました」というラインナップだ。


「おまえは何だ?魔物か?」


「んとね、えーっとね・・・」


仕草も言葉も幼女そのものだな


「これ、なの」


何処からか取り出したのは野球ボールほどのエメラルドメタリックな色をした球体


「へぇ・・奇麗だな」


「えへへーっ。ありがと」


そうか・・・・・この子


俺は異世界からの転生者で記憶も残っている。


だからこそ、これだけの交流で気が付いてしまった。


この球体は俗に言うダンジョンコアであり、少女はこのダンジョンそのものだと。


「何故俺の魔力を欲しがるんだ?」


「この世界‥この星?魔力が無い。

元から自分の持ってる魔力と外から入って来た魔力でカツカツ。

外から入って来る中で貴方は高純度の魔力が垂れ流しで美味しい」


何かすごいだらしない男みたいに言われる。


「あなたのおかげで大きくなれた・・けど、さらに魔力欲しくなった」


大きく成長できたけど維持費も大きくなったって事かな?


「どうやって魔力を渡せば良い?ダンジョンの中にずっと居るのは困るぞ」


「この私の本体を手で包んで魔力を流して欲しい。あと、もっと沢山私の中に入って欲しい」


俺だけが呼ばれていて良かった。

今のセリフを他の奴に聞かれたら何を言われるか・・・


「まぁいいか。それじゃあソレ渡してくれ、試してみるよ。ダンジョンが元気じゃないと俺も困るしな」


「はい、それで・・あのぅ・・初めてだから優しく入れてね。壊さないでね」


おいっ、


言ってる言葉は確かに間違いじゃないのに妙にイカガワシイ。


このダンジョンめ、知っててわざと言ってるんじゃないだろうな・・


と言う訳で・・・コアを両手で包み込んで魔力を込めていく。


これは魔法のアイテムなどによく行われる作業なので難しくはないのだが、終わるまでの工程は割愛させていただきたい。18禁になりかねない。


いちいち変な声を出されて精神的にメチャ疲れたからだ。何もしてないのに・・


しかもコアの幻影?たる少女がだんだん成長して最終的には中学生位まで大きくなった。


俺が持つ魔力を半分ほど注入した所で今日は止めにした。


「ありがとう♡、これでしばらくは持ちこたえられるよ」


見た目も大きくなり言葉使いも相応になったようだ。


魔力のやりくりが大変ならオリハルコンみたいな激レアもの作らなければ良いのに。


「マコトの仲間の位置座標は分かるから転送してあげる。また来てね♡」


おまえはキャパ嬢かよ、と言いたくなるダンジョンコアだった。


言うまでも無く、みんなの所に戻ったは良いが泣いて怒られた。


「で?兄様、ダンジョンコアに魔力をあげたのは分かったけどどうやって渡したのじゃ。相手は女子の姿だったのじゃろう・・・口移しなのじゃろう」


「ちがーーう」


被害甚大である。












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