第25話、次元素

加筆、修正しました。

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さてと、やって来ました七飯ななえダンジョン第6層。


女神の口車に乗せられて新しい戦い方を試しに来た。


今現在の最強装備「千手の杖」まで出したは良いが前世ですら使った事のない戦い方を要求されてもイメージが湧かないぞ。


とりあえず確定している方針としては「点の攻撃」と「極細の線の攻撃」。


問題なのは線の攻撃だ。


マンガとかで糸を使って攻撃する有り得ない戦いが有るけどあんなイメージなのだろうか・・・?


とりあえず砂に魔力を纏わせてビーズのように線として並べる。


そいつを糸のように操るまではイメージできるけど、もの凄い魔力コントロールが必要になり神経が磨り減る。


とりあえず壁に向かって攻撃してみる。


パヒュッ☆


・・・・ははは


手間が掛かる割に火力が弱すぎる。

魔力を付与する媒体である砂が砕けてしまうのだ。


ドロや小麦粉のような微粒子でも試したがさらに火力が出ない。


手強いな。本当に可能なのか?。さすがにあの女神が施した能力制限仕様だこと。


イメージのように何でもスパスパッと切れる魔法には程遠い。


小さくても壊れないのは何か・・この世界の化学では核分裂した後の陽子、中性子とか電子やらが最小だったかな・・それらに魔力を纏わせて連結して糸のように振り回す、とか?。


どう考えても危険すぎて手を出すべきじゃないだろう。


予想もできない臨界りんかいとか起こして放射能をばら撒きそうだ。


凶悪なくらい魔力を纏わせても壊れずに小さく、しかも根本的に危ない影響が無いもの・・・か。

理科系苦手なんだよなー・・・


そんなのは別世界の原理に沿ったものか、あるいは別次元の素材・・・・・



みつけた・・・




***********************




「お、おぉぉっ、この巨大な魔力の波動は魔王様のもの・・。

こんな世界で逢いまみえる事が出来たとは、何という僥倖」


ダンジョン入り口で幼女が幼女に抱き着いて魔王ごっこをしている。


少なくとも一般の人達にはそう見えて微笑ましく思われていた。


「なんじゃ、お前は‼。人間のメスガキに知り合いなどおらぬぞ」


「わたくしの気配をお忘れですか。四天王のルプリュウスでございます」


「ええい、分かったから、昔の事で騒ぐでない、恥ずかしい。

今の私は何の力も無い幼女Aでしかないわ」


「ご安心ください、魔王様。これより私が手足と成ってお仕え致します」


「だから魔王呼びは止めい。せっかくの新しい世界が台無しではないか」


幼女達が戯れているのは七飯ダンジョン一層の大セイフティエリア。


一般人も観光に訪れる安全地帯ではあるがダンジョンには変わりなく小さな子供は保護者無しでは入れない。


「ルルちゃん友達出来て良かったね。でももう帰るよ。この1層も一応ダンジョンの中だからもう満足したでしょ。子供はこれ以上下には入れないからね」


「もうちょっと待ってお姉ちゃん。ルプリュウス、今の名前は何という」


「はっ、央条おうじょう 姫子にございます」


「では姫子、こんな場所におるのは何故じゃ。お互い子供の身だ、理由が無くては此処には来ないであろう」


「仕事の一環ともうしますか・・魔力も魔法も無くしたこの身を守るための経済的戦略にございます」


「何ッ、そちは最早仕事を熟しておるのか?さすが四天王である」


「えっと、二人ともお姉ちゃんには分からないんだけど。今の会話は何かのアニメかマンガの話なのかな?」


「うーんとね・・私たち若者のじょーしきなの」


「くっ、若者・・・」


妹、瑠瑠奈るるなはごまかした


引率していた姉のJK茉莉野 毬奈まりの まりなは世代のギャップにおののき多大なショックを受けていた。


「えっと、魔王様のお姉さまですか?。本当の理由は私のお爺ちゃんが仕事でダンジョンに入ったので心配で見に来ました」


「だから魔王様はやめい、今の名前は茉莉野 瑠瑠奈まりの るるなだ 」




****************************




その微笑ましい?会話がなされている時、6層では姫子の祖父、権蔵ごんぞうが残り少ない余命を必死に守っていた。


「はーーぁっはっはー、気分いいぞ。魔物相手ならケンカ空手五段が本気でなぐっても罪にならないからな。どっせーい」


いや、必死では無かった。とても楽しそうだった。


方や護衛の探索者のベテラン達は黒オークの団体に囲まれて泣きたくなっている。


「おい、護衛対象の爺さん、俺達より強いぞ」


「くっ、それはありがたいが・・この数は‼」


これは3つのパーティが一か所で留まった為に起こった不幸なアクシデント。


ダンジョンに入り込んだ過剰な戦力を排除するべく働く「排除湧き」と呼ばれるシステムである。


ダンジョンが本気で殺しに来る魔物の異常発生は過酷なものであった。




一方、護衛対象が女性のパーテイでは当然の事だが戦力にはならない。


その現実を一番思い知らさせれている当人は頭の中で愚痴っていた。


(こんな事だから「女だてらにダンジョン行くな」とか嫌味言われるのよね)


「良いわね・・自分で戦えて。

守られるだけの自分か・・・私も男だったら自分でダンジョンを探索したのに」


この護衛の探索者パーティは優秀だった。


まず一番に包囲されるのを嫌い、全力で一方の魔物を排除して壁を背にする陣形に持ち込んだ。

そのおかげで今も何とか持ち堪えている。


突然のアクシデントなのに的確な判断だった。


(このパーティは今のトータルな戦力としてはこの階層が限度だろうけど、今後の装備次第では伸びるわね。

頭も良い将来有望なチームだわ)


(でも


この数の差はどうしようもない。


いずれ体力が尽きれば終わりだ。


こんな事で終わるなんて、惜しいわ。)




「ぐああぁぁっ」「っ、くそっ、テツヤの仇だ‼死ねやごらぁ」


(もう一組のパーティから悲鳴が聞こえる。終わりは近いのね・・


ここに居る日本経済会の実力者が一斉に死んだら国の経済は大混乱するのかしら。


少し見てみたい気がするわ。)



「ふっ、私としたことが現実逃避するなんて・・・」





バキャッ 「ぐっ」「レンジっ、くっ」


とうとう盾役の子が黒オークの連打で崩れ落ちた。


私もここまでの様ね。


結婚も出来ずに死ぬなんて未練が残るわ。


シャーーーン


シャーーーーーン


ふはは・・

シャーーーーーーーーーン


何の音?


「あははははっ」


誰かの笑い声が聞こえる?。


私、とうとう幻聴まで


「あははははは、死ねっ、ブタども」

シキャーーーン


いやいや、今度はハッキリ聞こえた。


「あはははははははははー、オレツエーーーー‼」


シャーーーーーーン


「なっ何?何事なの」


目の前に大きな魔物の頭だけが空中に飛び跳ねる非現実的な光景が見えている。


「なっ、何だ、オークの首が一斉に・・・すげえ」


探索者達は動けず立ち尽くしている。私もだ


無理も無い、周りに集まっていた黒オークの群れが一瞬で次々と首を刈られ消えていくのだ。


魔物が消えるとそこに見えたのは一人の少年?


彼がやったの、今の・・・


でも手にしている武器は刃物じゃないわ。


少年と目が合った‼


「ひっ‼」


「おっと、あぶな。人間か」


私でも分かったほどの濃密な殺気が一瞬向けられていた。


今まで囲んでいた魔物達よりよほど恐ろしい。


「えーっと、悪い、獲物を横殴りしちまったか?」


「・・・・・いや、気にしないでくれ、助かった」


護衛の探索者達も感じたのだろう、明らかに年下の少年に逃げ腰だ。


「お詫びに落ちたアイテムは貰ってくれ。それじゃあな」


「えっ、ちょっと待って・・・」


無視された。・・・この私を無視するなんて。


シャーーーーーーン


「お、おい見たか?今の、黒オークの群れが一瞬で倒されたぞ」


「一人でこの階層をうろつくなんて信じられないぞ。人に話しても信じてもらえないな」


「あのまま進めば 他のパーティも助かるだろう。よかった」


「それよりもケガ人の治療だ、急げ」


「しかし・・助かったんだよな、俺達」


「ああ、今回はさすがにダメかと思ったぜ」


気が付けば階層は静かになっている。


本当に他のパーティも助けられたのかも知れない。


冒険者パーティが安堵し気が緩んでいるようだがここはまだ6層、このまま気が抜けていては危ないわ。


「皆さんお疲れ様でした。皆さんの実力と誠意は確認させていただきました。

是非とも我が社の専属探索者として契約し働いていただきたく思います。

とりあえず脱出しましょうか」


「おおっ、これで俺達も一流会社の社員か。親に自慢できるぜ」


反応を見る限りどうやらこのパーティを勧誘するのには成功したようね。


これでこの階層を担当できる探索者の目途はたったわ。


「ところで、今の少年は誰なのかしら・・知り合いなの?」


「いや、残念ながら・・・おまえら知ってるか?」


「記憶に無いな、若かったし・・もしかすると学生かもな」


「おいおい、まさかだろ。他から流れて来たんじゃないか?」


全員が知らないらしい。



(この七飯ダンジョンの探索者としてはそこそこベテランと言えるパーティのメンバーが驚いていたくらいだし、本当に知られてないみたいね。)


つまりそれはノーマークの人材を意味する。


一人でこの階層を生き残ってるだけでも凄いのに、まるで遊ぶように駆け抜けて行った・・。


とんでもない実力の逸材。これこそ掘り出し物だわ。


当然ながら居合わせた他の二人のタヌキも目を付けたでしょう。


早い者勝ちかしら。


彼はこれからの時代に必要な人材だわ。


社運を賭けて絶対に手に入れてみせる。





そんな暗躍が自分に向けられているとも知らずに


藤原 真は火力を手に入れた事で浮かれていた。


アイテムボックスやストレージ、あるいはアイテムバッグに使われていた時空魔法。


その魔法を構成するのは他の魔法とは全く別の原理で成り立つ特殊な元素。


この世界の言葉で言うなら《次元素》だろうか。


物理的な衝撃で壊れる事が無くどれほど強い魔力をまとわせても揺るがない理想の素材だ。真の前世、いわゆる異世界ではその次元素を魔力で固定し組み立てて次元空間を作り上げるのだが、それを真は極小の鋭角な断片に仕上げた。


ノコギリの歯のようなそれを魔力で連結して糸のように自由に動かす。


凶悪なほど強い魔力を宿した細い線は全てを切り裂く高火力を生み出した。


ただし、この魔法は高い魔力コントロールと補助するアイテム千手の杖が無くては実現不可能なため女神が言った通り藤原 真だけが使えるユニーク魔法となる。


この日、浮かれまくって警戒心が欠落した彼は転移トラップに引っかかり15階層まで飛ばされるのだった。



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