第25話


「お、おぉぉっ、この巨大な魔力の波動は魔王様のもの・・。

こんな世界で逢いまみえる事が出来たとは、何という僥倖」


ダンジョン入り口で幼女が幼女に抱き着いて魔王ごっこをしている。


少なくとも一般の人達にはそう見えて微笑ましく思われていた。


「なんじゃ、お前は‼。人間のメスガキに知り合いなどおらぬぞ」


「わたくしの気配をお忘れですか。四天王のルプリュウスでございます」


「ええい、分かったから、昔の事で騒ぐでない、恥ずかしい。

今の私は何の力も無い幼女Aでしかないわ」


「ご安心ください、魔王様。これより私が手足と成ってお仕え致します」


「だから魔王呼びは止めい。せっかくの新しい世界が台無しではないか」


幼女達が戯れているのは七飯ダンジョン一層の大セイフティエリア。


一般人も観光に訪れる安全地帯ではあるがダンジョンには変わりなく小さな子供は保護者無しでは入れない。


「ルルちゃん友達出来て良かったね。でももう帰るよ。この1層も一応ダンジョンの中だからもう満足したでしょ。子供はこれ以上下には入れないからね」


「もうちょっと待ってお姉ちゃん。ルプリュウス、今の名前は何という」


「はっ、央条おうじょう 姫子にございます」


「では姫子、こんな場所におるのは何故じゃ。お互い子供の身だ、理由が無くては此処には来ないであろう」


「仕事の一環ともうしますか・・魔力も魔法も無くしたこの身を守るための経済的戦略にございます」


「何ッ、そちは最早仕事を熟しておるのか?さすが四天王である」


「えっと、二人ともお姉ちゃんには分からないんだけど。今の会話は何かのアニメかマンガの話なのかな?」


「うーんとね・・私たち若者のじょーしきなの」


「くっ、若者・・・」


妹、瑠瑠奈るるなはごまかした


引率していた姉のJK茉莉野 毬奈まりの まりなは世代のギャップにおののき多大なショックを受けていた。


「えっと、魔王様のお姉さまですか?。本当の理由は私のお爺ちゃんが仕事でダンジョンに入ったので心配で見に来ました」


「だから魔王様はやめい、今の名前は茉莉野 瑠瑠奈まりの るるなだ 」



****************************



その微笑ましい?会話がなされている時、6層では姫子の祖父、権蔵ごんぞうが残り少ない余命を必死に守っていた。


「はーーぁっはっはー、気分いいぞ。魔物相手ならケンカ空手五段が本気でなぐっても罪にならないからな。どっせーい」


いや、必死ではなく楽しそうだった。


「護衛対象の爺さん、俺達より強いぞ」


「くっ、それはありがたいが・・この数では」


方や護衛の探索者のベテラン達は黒オークの団体に囲まれて泣きたくなっていた。




あっちは良いわね・・自分で戦えて。私も男だったら自分で探索したのに。


守られるだけの自分か・・・護衛の探索者パーティはなかなか優秀だわ。

一番に壁際の魔物を排除して壁を背に出来たから何とか持ちこたえて戦っている。

トータルな戦力はこの階層が限度だけど装備次第では伸びるわね。

頭も良い将来有望なチームだわ。


でも


この数の差はどうしようもない。いずれ体力が尽きて崩れてしまう。


こんな事で終わるなんて、惜しいわ。



「ぐああぁぁっ」「っ、くそっ、テツヤの仇だ‼死ねやごらぁ」


もう一組のパーティから悲鳴が聞こえる。終わりは近いのね・・


ここに居る日本の実力者が一斉に死んだら国の経済は大混乱するのかしら。


少し見てみたいわ。ふっ、私としたことが現実逃避なんて・・・



バキャッ 「ぐっ」「レンジっ、くっ」


あぁっ、とうとう盾約の子が黒オークの連打で崩れ落ちた。


私もここまでの様ね。結婚も出来ずに死ぬなんて未練が残るわ。




ふはは・・


「あははははっ」


誰かの笑い声が聞こえる。私とうとう幻聴まで


「あははははは、死ねーーブタども」


今度はハッキリ聞こえた。


「あはははははははははーオレツエーーーー」


「なっ何?何事なの」


「なっ、何だ、オークの首が一斉に・・・すげえ」


探索者達も立ち尽くしている。私もだ


無理も無い、周りに集まっていた黒オークの群れが一瞬で首を刈られ消えていくのだ。


魔物が消えた後に見えたのは一人の少年?


彼がやったの、今の・・・


でも手にしている武器は刃物じゃないわ。


「あぶな、人間か」


ひっ‼


私でも分かった位の濃密な殺気が一瞬向けられていた。

今の魔物達より恐ろしい殺気だ。


「えーっと、悪い、獲物を横殴りしちまった」


「・・・・・いや、気にするな助かった」


護衛の探索者達も感じたのだろう、見た目が年下の少年に逃げ腰だ。


「お詫びに落ちたアイテムは貰ってくれ。それじゃあな」


「えっ、ちょっと待って・・・」


無視された。・・・この私を無視するなんて。


「お、おい見たか?今の、黒オークの群れが一瞬で倒されたぞ」


「信じられない、いや人に話しても信じてもらえないな。

都市伝説に成る」


「それよりもケガ人の治療だ」


「しかし・・助かったんだよな、俺達」


「ああ、今回はダメかと思ったぜ」


「皆さんお疲れ様でした。皆さんの実力と誠意は確認させていただきました。

是非とも我が社の探索者として契約し働いていただきたく思います。

とりあえず脱出しましょうか」


「おおっ、これで俺達も一流会社の社員か。親に自慢できるぜ」


これでこの階層を担当できる探索者の目途はたったわ。


「ところで、今の少年は誰なのかしら・・知り合いなの?」


「いや、残念ながら・・・おまえら知ってるか?」


全員知らないらしい。



この七飯ダンジョンの探索者としてはそこそこベテランと言えるパーティのメンバーが驚いていたくらいだし、本当に知られてないみたいね。


つまりノーマークの人材を意味する。


一人でこの階層を生き残ってるだけでも凄いのに、まるで遊ぶように駆け抜けて行った・・。


とんでもない実力の逸材、掘り出し物だわ。


当然ながら居合わせた二人のタヌキも目を付けたでしょうし、早い者勝ちかしら。


彼はこれからの時代に必要な人材だわ。


社運を賭けて絶対に手に入れてみせる。


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