第24話、狩場の変化

ダンジョン入り口のお祭り騒ぎからハブられてやっとダンジョン探索に入れた。


こんな時だけは魔法使いの特性で良かったと思える。


剣豪特性持ちの茉莉野 毬奈まりの まりなさんが来たら勧誘が酷いだろうな。


妹の 莉々奈りりなは俺と同じ魔法使いだから良いけど・・比較されて落ち込まないと良いけど。


深緑の鏃しんりょく  やじりの皆は来ない方が無難だろう。パニックになる。


七飯ななえダンジョンの規模が変わったと報道されていたけど、6層までの

モンスター分布には今のところは殆んど変化は無い。とても助かる。



ただし・・・


「はいはい、この場所にはうちの会社の保管庫が建設される予定ですので危険ですから関係者以外は立ち入らないで下さい」


探索者が安全に休めるセイフティエリアを企業が独占する事で一般の探索者を締め出している。階層のベースキャンプと簡易の倉庫に使うらしい。

今後は企業に属さないフリーの探索者とトラブルになるケースが増えるだろう。


本来は場所を占有する権利など誰にも無いのだが、企業側は「誰の土地でも無いのだから使う事に問題は無い」と主張している。


オンラインゲームで狩場を独占するクランが問題になるのは聞いた事があるけど

思考レベルはそれと同じだ。


ただし、これには落とし穴が有って、強い探索者のチームが拠点を襲撃して中に常駐する社員をたたき出し拠点に蓄積していた資源を強奪しても「落とし物を拾った」と言えば屁理屈だろうと通用するのだ。

表には出ないが企業同士で略奪する可能性も高い。


拠点設置はとてもデンジャラスで「ハイリスク、ハイリターン」なギャンブルとも言える。


ここはダンジョン、弱肉強食のフロンティアなのだ。



それはともかく


人が常駐していれば建物がダンジョンに吸収されないのは実証されていて建物を建築しても飲み込まれないから維持することは可能だ。


しかしそれは人間側の都合である。

問題なのは狩場に多くの施設を建てる事でダンジョンが修正するためのペナルティを課さないかが心配される。


今まで見ないイレギュラーなモンスターが出たり、セイフティエリアそのものが無くなる可能性すらある。


そんな業者の拠点が俺の狩場である6層にも作られていた。


俺の飯のタネとも言える千剣ミミズの牙も高価で取引されるので今後は常駐スタッフに狩り尽くされる可能性が高い。


ソロの探索者として生きていくなら今後はさらに深い階層を狩場としなくてはならなくなった、と言うのが俺にとっての現実だ。


静かだった七飯ダンジョンは規模の拡張によって今までのように注目されないローカルな秘境では無くなってしまったのだ。



幸いな事に女神様から高火力な攻撃方法のヒントを貰っていたのでソロでも深くまで潜れる可能性は残されている。


使う魔法の構想は出来ているが、まだ使いこなせるかは未定だ。

今後の訓練次第だろう。


亜空間倉庫のストレージを開き、さらにその奥の「秘匿ストレージ」から自分用の杖を出した。魔法発動補助のアイテムは今まで使っていなかったがこれから試す魔法を無手で成功させる自信が無い。


メメの愛剣フェリスティリア ラグラスと同じく、この杖も今の日本で表に出せない破格の性能を持っている。

この杖の名を日本語に直訳すると【数多の手を持つ奏者】となり、

意訳すると「千手せんじゅの杖」あたりが妥当だろうか。

複数の魔法使用を可能にするマルチタスクな杖だ



ここで今一度あの日の女神との対話を思い出してみる


≪マコトよ、お主 何故に剣が切れるのか考えた事は有るか?ん?(‐_‐)σ≫


「そりゃあ剣だし、切れるだろ」


≪(ノД`)ハァ ・・よくそれで最強の魔導士が務まりましたね ≫


会話を思い出すと少しイラッとする。


≪刃先が鋭利に研ぎ澄まされているから切れる、此処までは分かりますね≫


「はいはい」


何かガキ扱いされて不愉快だ


≪はい、は一回です。では何故研ぎ澄まされた刃は切れるのか?考えた事は・・≫


指導が雑だな。めんどくさくなったな、女神様


≪鋭利な刃物の刃先はミクロン単位の細い線です。

剣の使い手は全ての力と全ての重さ、速さ、をその極めて細い線に凝縮して叩き込むからこそ相手の防御を突き破り結果として切れるのです。さらに言えばレイビアや槍などの武器は《点》に全てを集めて相手に突きつける事で非力な者でも高い攻撃力を出せるのです≫


「ああ・・点の攻撃力が高いのは納得するぜ」


≪そうですね。マコトが砂に魔力を込めたそれと同じです≫


「少し分かって来た」


≪私が火力の制限をしている魔法は・・高火力で打ち出すもの、高火力で広範囲に影響するものです。逆に言えばそれしか制限を掛けていないのですよ≫




女神のヒントはここまでだ。


立場上具体的な方法は教えてくれなかった。言葉の表向きの意味だけ見ればだ。


要するに女神が規制している魔法は一般的なゲームで魔法使いが使用するタイプの攻撃魔法だ。


逆に考えれば 「それ以外は使える」・・とも言っている。


そして、剣が何故切れるのか?と意図的に遠回りをして講釈をしていた内容が具体的な方法を教えている。


砂の一点に魔力を集約させ火力を上げた魔法は制限されなかった。


そして、点の連なりが線である。


屁理屈かも知れないが線の魔法なら使っても良いらしい。


「まぁ色々試してみますか・・」




******************



三竦さんすくみ、と言うことわざがある。


今、我々の置かれている状態は正にそれに当たるだろう。


まさか、と言いたくなる面々がこんな場所で鉢合わせしたのだから驚いて三社とも動けないのだ。


言い間違いではない。三者ではなく三社。


右手の通路から現れたのは百菱コンチェルン影の総帥


左手の通路で固まっているのは四井重工業の実質的な社長


かく言う私は花田自動車の大株主である父の代理


業種も立場も違うがそれぞれが日本の裏の実力者とも言える。


お互いに情報としては顔も名前も知ってはいるが初対面だ。


日本に於いて真の実力者は表社会には顔を出さない。


だからこそ、こんなダンジョンで雁首を揃えるなど誰も予想していなかった。


「・・・・時代ですなぁ」


「ええ・・そうですね」


「そう思いますわね」


お互いに驚きはしたが何一つ疑問を持つことは無かった。


同じ目的なのは理解できる。

ダンジョンという時代の変化を感じ取りその重要性を自ら確かめに来た同士なのだ。


お互いに有望な探索者パーティを護衛に着けている為、込み入った話し合いが出来ないのは残念である。



「まずいな。おい、それぞれ来た道を引き返せ」


「ああ・・そうだな。その方が良い」


「あぁっ?てめえら何勝手に仕切ってやがる」


探索者達が険悪になっている。何か焦っているようだ。


「話は後だ。急げ」


「皆さん、護衛として言わせていただきます。直ぐにこの場を離れましょう」


「何かは知らないが専門家の意見に従おう」


「ええ・・そうね。」


時間的なロスは殆ど無かったはずなのに部屋の壁が全て赤く輝きだした。


まさか、これは・・魔物が湧き出る現象では・・


「くっ、まずいぞ、始まった」


「雇い主さん達、それぞれの護衛に囲まれて移動して離れてくれ。

ダンジョンが排除きを始めた」


「排除き?これが」



ダンジョンは軍隊で攻略出来ない。


その理由が二つ有ると言われている。


一つが、ダンジョンは別の法則で成り立っているらしく、物理法則や化学反応が地上とは違いすぎる事。例えば火薬などが発火せず近代兵器の殆どが役に立たない。

試してはいないが恐らく核兵器も使えないだろう。


二つめ、多数の侵入者が密集すると危険な存在と認識され、排除するために集中的に魔物が湧き出る現象が起こる。それが【排除き】だ。

集団で攻める戦いを得意とする陸軍などは相性が最悪だった。


バカな探索者がこの話を聞き「アイテム取り放題だ」と考えて挑戦し何度も大惨事を招いている。


アイテムなど拾っている暇が無いほど魔物が湧き出るために殆どが手に入らない。

やがて数に押されて人間側が全滅しダンジョンの糧となる・・。なんと恐ろしい



壁全体から沢山の黒オークが湧き出て来た。

しかし魔物の排出が終わったのに赤く発光する壁はそのままだ。



普段は一匹の黒オークを数人で狩る護衛達も自分たちが包囲された状況に呆然としている。


「しっかりしなさい、男子‼。

生き残るのよ‼美味しい思いもせずに死んでいいの?」


「‼」


「そうだ、死んでたまるか。俺は一流企業に就職したらあの子と結婚するんだ」


あっ、・・・私、死んだかも


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