第26話、お持ち帰りしたもの

一人で暮らす平屋の住宅。


そこは異世界から現代日本に転生して来た自分、藤原 まことの安息の場所である。


昨日はダンジョン探索で働いたので今日は休みだ。


良いだろう。休みの日を自分で決めるんだ。


会社に就職なんてしてたらこんな自由は有り得ないよ。


ただ・・今日ばかりは少し悩み事を抱えている。


「どうしょう、これ・・」


一人暮らしはつい独り言が出てしまうが一人だから恥ずかしくない。


この気楽さを知ってしまうとボッチと言われようが何と言われようが平気なのだ。


独り暮らしの自由を羨んで妬む輩は「結婚できない男」などと醜い悪口を言うらしいが「出来ない」と「しない」では天と地の差が有る。


家族と暮らす幸せを得ているのだから、気楽に暮らす幸せを妬むのは止めてもらいたい。



それはともかく、


俺の目の前、テーブルの上にデンと乗っかっている鉱石が問題だ。


数年前、魔物からドロップした100グラム程度のミスリル鉱石がダンジョンの価値そのものを変えてしまった。


未知のレアメタルに世界が注目したものだ。



「何を陰気にしてるかと思えば石とにらめっこしとるとは、錬金術でも始めるのか?魔導士」


「・・・ロリ魔王か。カギは掛けていたはずだぞ。勝手に入ってくるな」


「ふっ、今更だのぅ。命を懸けて魅かれあった仲ではないか。攣れなくするな」


「またそんな誤解を受ける言い方を・・・」


「フッ、お主の平穏な生活は私の手の中に有るのだよ。ティート・セレデティア君」


んぐぐっ、反論できねぇ。


あれ以来この転生して来たロリ魔王は暇になると遊びに来やがる。


家が隣りと言う悪夢のような環境では阻止しようもない。


転生してお互いにただの人間に成ったのだ、物理的に戦えば当然俺が勝つ。


だが此処は法治国家日本だ、魔王の言葉一つで社会的に俺が処刑される。


異世界の魔王は今も俺専属の魔王だった。


「おおっ、懐かしいな。オリハルコンではないか。この地でも採れるようになったのか」


「分かるのか?さすがだな。こいつは規模が変わった七飯ダンジョンの15層でドロップした」


「何じゃと‼兄様、一人で15層まで行かれたのか?。先日は5層で黒オークの集団に苦労しておったではないか、無謀じゃぞ」


「また来たのか・・元勇者。」


「当たり前じゃ。魔王と兄様を二人きりになどできるものか」


元妹よ、よく来た。


乱入者二人目は前世では勇者な妹だった豊条院 芽芽 ほうじょういん めめ


正直言って助かる。女性が一緒に居るだけで幼女監禁の冤罪が回避できるからな。


ただし、彼女は有名人で人気者なので一緒だと別の意味で危険なのだが・・。



「ふんっ、嘘を付け。お主がこ奴と二人きりに成りたくて来たのであろう。

当てが外れて怒っているのが見え見えであるぞ」


「うっ、それの何が悪いのじゃ。私と兄様は今は兄妹では無い、恋仲に成れるし結婚すら可能なのじゃ」


おいおい・・・


「ふむっ・・その理屈で言うなら魔王であった私も今は同じ人間である。

しかもメス、ならばこの魔導士と結婚しても問題有るまい」


「冗談ではない、問題有りまくりじゃ。

貴様ほど歳の離れた子供では兄様がロリコンの誹りを受けてしまうではないか‼」


カオスだ・・・


「二人ともいい加減にしろや。そんな事より、ちょうどいいから知恵を貸してくれ」


どうせ来てしまったならジタバタすまい。


「知恵と言われてものぅ・・魔王以上に悪辣と言われた策士のお主に貸すほどの知恵など無いぞ。まして今は幼女でこの世界のデーターも少ないしの」


「えっ、何?、俺って魔族にまで悪辣とか言われてたの?うそっ」


「何をいまさら、お主の策略と魔法で何度虎の子の軍勢を失った事か・・」


そりゃあ、こっちは5人パーティしか居ないんだぞ。


王様も貴族共も軍や騎士団を出さないし、そうでもしなきゃ魔王軍と戦える訳が無いだろ。


そのくせ助けられていた城の奴らは俺の事を「悪辣な手段を使う卑しい奴」と貶していたのを知っている。・・・ケッ、思い返せば胸糞だな、


もう二度と誰かの為に戦うなんてするかよ。


「相談したいのはこのオリハルコン鉱石のことだ。

こいつを発表して売りに出せば大金が手に入るのは間違いないだろう。

同時に不愉快な奴らが集まって来て俺の平和な生活が無くなる」


「そう言えば、こっちの世界では新発見に成るのぅ」


「ミスリルが見つかった時も大騒ぎだったし、連日マスコミが殺到して兄様は時の人じゃな」


それが嫌なんだってば・・・


「誰か他の者が発表した後に静かになったら売れば良かろう」


「そこが問題でなぁ・・・。メメのパーティ深緑の鏃しんりょく やじりが到達した深さは何層めだっけ?」


「えっ、まだ小手調べの段階だから10層まで・・・だから、何で一人で15層まで潜ってるのじゃ。また先に死にたいの?」


「バカ言うな。死にたくないわ。

新しい魔法の戦い方を手に入れたから試してみたんだ」


「試しで15層、さすが兄様」


「前世の戦いが出来れば一人でクリアーできるダンジョンだけどな」


「余も大きくなったらダンジョンで以前の力を取り戻すぞ」


魔王が力を取り戻すとか止めて欲しいぞ。


「問題なのはモンスターだよ。15層のメインは黒オーガだ」


「何が問題であるか、お主ならゴブリンに毛が生えた程度であろう」


「そこまで極端じゃないけど今の俺なら楽に戦える。でも俺達転生した異邦人は別として この国のパーティが戦えるのか疑問なんだよ」


他のダンジョンでミスリルが出たのはスケルトンがメインモンスターの階層。

黒オークよりもはるかに弱い魔物の階層で今も大人気の稼ぎ場所だ。


其処でも金持ちに成れるのだ、命を懸けて強い魔物が居る階層まで手を伸ばすのは一部の物好きか好奇心多大なパーティなど少数だ。


何が言いたいかと言えば探索者が全体的に弱いのだ。


「この地の探索者がこれを手にするのはまだまだ時間が掛かるだろうな」


「今すぐ大金が必要で無いなら部屋にでも飾っておけば良いではないか」


「今すぐじゃないけど大金の使い道は有るよ」


好きなオンラインゲームの新作をゲームメーカーに依頼するのだ。


人生の楽しみに大金を使う、これこそ最高の贅沢じゃないか。


「兄様、深緑の鏃しんりょく やじりと一緒にダンジョンに行くのじゃ。

手に入れたオリハルコンで武器を作って使いたいぞ。今のノーマルな武器では限界なのじゃ」


そう言えば、以前一緒に探索した時にその点は気に成ってた。


この際ついでに鉱石発見の手柄も深緑の鏃しんりょく やじりに引き受けてもらおう。


それぞれの思惑で彼女達との二回目の合同探索が予定された。




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