第22話、配信狂騒曲

日本にダンジョンが出来てから世の中に色々な変化が有った。


その一つにダンジョン内の様子を動画としてネット上に配信する事を仕事とするゆんチューバーなどの存在が多くなった事だ。


しかし、数が多くなるほど競争は厳しくなり視聴者の関心を集めるのは容易ではなく、またそれを維持できるのは並大抵な事ではなく ある種の才能とも言えた。


要するにネット配信を仕事にするのは大変な苦労をするという事だ。


当然である。その道のプロであるテレビ局のスタッフが視聴率の為にどれほど苦労しているかを見れば素人が簡単な気持ちでそれを求めるのは無謀とも言える。


そんな中、ダンジョンレポーターを名乗る配信者が出て来た。


彼等、彼女等は自分では戦わない。他の戦っているパーティの様子を撮影したりインタビューなどして取材し許可を取ってネット上に流すというスタイルだ。


探索者パーティーを護衛として契約し、ダンジョン内の様子や護衛が戦う姿を撮影する場合が多い。


自分が戦う必要が無い為か気楽な気持ちでそれに手を出す配信者も増えて来た。



ガシャン☆


「なっ、何で私のドローン壊すのよ」


「決まってるだろぉ、楽しむのに邪魔だからさ」


「ふざけないでっ、契約違反よ。訴えてやるわ」


「いいーぜぇ。その代わり俺たちも撮影したアンタのヌードと大事な所の画像をネットで流してやるからよ。もちろん実名付きで、だ」


自分の力ではなく他人を当てにしているという事は高い確率でこのようなトラブルに発展する。少し考えれば当たり前な事だろう。


「私に乱暴する気?。ここは危険なダンジョンなのよ正気なの」


「はーーん・・ここの取材してるくせに何も知らねぇんだ。はは、笑えるな」


「此処はなーっセイフティーエリア、安全地帯なの、分かるか?素人ちゃん」


「えっ・・」


「しかも 此処は誰も来ない不人気な場所だ。あんたが泣こうが喚こうがOK」


「分かったらオレっちが動画取ってやるから自分で服を脱げや。嫌なら服は切り裂いても良いんだぜ。でもよぉ裸で帰りたくねぇだろぉ」


二人の男はノリノリで機嫌が良かった。


ダンジョンは言わば無法地帯だ。


死体すら消えてしまうから完全犯罪すら可能かもしれない。


パーン☆ パーン☆


「ぐぁっ」ドサ ドサッ


「えっっ何?今度は何なの‼」


まるで銃で撃たれたような音の後 二人の男はバッタリと倒れてしまう。


「ひうっ」


女性はピンチを脱したが涙目でパニック状態だ。


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こんち。久し振りにダンジョン探索に来た藤原 真ふじわら まことです。


ここは七飯ななえダンジョンの6層。


この階には俺の資金源とも言えるモンスター、千剣ミミズがいる。


ドロップアイテムの牙が高価で売れる美味しい獲物だけど個体数が少ない。


6層全域で5体居るかどうか・・とてもレアなのだ。正確な数は不明。


当然だが人通りの多い次の7層に降りる階段までの最短ルートにはいない。


結果として俺は6層の誰も行かない奥まった場所まで探索しなくてはならない。


つまり時間が掛かる。


今は目的地だった区域なのだが前方の小部屋から人の話し声が聞こえてくる。


他のパーティも来ていたようだ。


「こんな所まで来て無駄足か」と思い舌打ちしたくなる。



『分かったらオレっちが動画取ってやるから自分で服を脱げや。嫌なら服は切り裂いても良いんだぜ。でもよぉ裸で帰りたくねぇだろ』


他を探そうとした時、何気に聞こえて来たのはとても不穏なセリフだった。


静かに部屋を覗いてみると男二人が女性を壁際に追い詰めている。


男たちの言葉と女性の泣きそうな顔を見れば合意の可能性は無いだろう。


「こんな所で盛りやがって、ゴブリンかよ」ぼそっ


下手をすると事が終わった後で女性は殺されるかもしれない。


ちなみにダンジョンのゴブリンやオークは物語にあるような18禁な行動はしない。

繁殖する必要が無いからだろう。


俺は素早く砂に魔力を込めると男たちの後頭部に打ち付けた。


パーン☆ パーン☆と乾いた軽い音が響き男たちは倒れ伏した。


本来ならこんな場面で干渉なんかしないのだが・・・


砂には軽く魔力を付与しただけだから死んではいないだろう。



目の前で人が死んだと思ったのか女性はパニック状態でオロオロしている。


このまま放置しようかとも考えたが、ここ6層と上の5層には黒オークが多くうろついている。


とても女性一人では生還できない。


俺は秘匿ストレージから異世界で手に入れたアイテムの 転移石を取り出した。


これは魔法の転移と違って発動までのタイムラグが無く一瞬で跳べる。


身体強化したスピードで女性に接近、腕を掴み二人で2層出口の階段に転移した。


「階段を上がれば入り口だ。死にたくなければ行け」


女性の後ろから耳元に囁くと振り向く前に再び一人で6層に転移した。


幸いドローンらしき物が破壊され転がっていたのは確認している。


一連の出来事は記録されていないはずだ。


もしもドローンが健在だったら俺が破壊していただろう。


ネット配信には嫌な思い出しか無いから本当は関わりたくないんだ。



謎の男に助けられたとは気が付くだろうけど顔も知られて無いし映像も無い。


俺が助けた証拠は何処にも無い。完璧だ。うん


これでスッキリして探索に戻れる。



ウアアァァァァァァァァァァァッ 


ダンジョン響く男の悲鳴・・。


またかよ・・・・・・・まぁなんだ、男ならガンバレ。


俺は救助隊ではないのだよ。はははは


声の感じからして割と近いみたいだし関わらないように移動しよう。


≪足音が聞こえる。こっちの方に人が居るわよ≫


≪よしっ、早いとこ魔物をなすり付けて襲われているシーンを撮影するぞ。

うあっ、あぶねぇ。このバケモノやべえ、おい急いで生贄を探せ≫


物騒な会話が聞こえる。

擦り付けて撮影?。ダンジョン探索での最低限のモラルも無いのかな。


七飯ダンジョンの規模が大きくなってニュースになってから探索者が増えたのは良いけど・・悪質な探索者も多く入り込んでるみたいだ。


声の主たちは魔物をわざわざトレインしているらしい。


ならこちらは当然 逃げるよ。めんどくさい



へぇ・・・、的確に距離を詰めてきている。奴らの斥候はかなり優秀なようだ。


バカな事をしていないで真面目に探索者してた方が稼げるだろうに。


俺が逃げるのは簡単だけど、そうすると他の探索者に被害が行くのか・・。


何か胸糞悪いな。



ふむっ、次の部屋に黒オークが五匹いる・・・・・・・・ふひっ♬


カーン☆ カーン☆ と武器を壁にぶつけて音を立て黒オークのタゲを集める。


暇だったのか元気に駆け寄ってくる黒オークさん達。


さあ行こうか。


付かず離れず黒オーク御一行をご案内。


悪質探索チームの足音が近い。


あえて自然な感じでそちらに向かい、警戒しながら通過する。


男二人、女一人の三人パーティ。ドローンも付き添っている。


こちらを見てニヤニヤしている彼らは擦り付けに成功したと思っただろう。


ところが、連れていたモンスターは何と嬉しい千剣ミミズでした。ラッキー


では、仕上げといきましょう。


パアァァァァーーーーーーン☆‼


次の瞬間、6層に響き渡る大音響。


大量のモンスターに囲まれた時に鼓膜を破壊し、混乱させるための音響魔法だ。


勿論 自分は頭を結界で守り、さらに耳を塞いでやりすごす。


「何?どうしたの、何も聞こえないわよ」


「ぐああー、耳が痛ぇぇえ、」


当然 人間にも効果抜群なので近くに仲間が居る時は間違っても使えない。


斥候らしき男は気を失っている。耳が良いのも善し悪しだね。


千剣ミミズですら混乱している。今のうちに退治しましょう。



ブギャアァァァァァァッ


「うわぁぁぁっ、オークの群れが」


当然ながら後ろから来ていた黒オークも大混乱、力の限り暴れまくる。


狂乱して敵味方関係なく大乱闘になった。


今のうちに目障りなドローンを破壊する。


ダンジョン内では地上とは別空間でありライブ配信が不可能なので記録さえ残らなければ問題ない。


千剣ミミズの牙と魔石を回収したし今日の収入も問題無し。良かった良かった。


今も戦っている彼らに手を振ってその場を離れる。がんばってねー。


お互いに魔物を交換したんだから文句無いよね。


「目には目を、歯には歯を」イスラムの教えで唯一知ってるこの一説は賛否両論が有るらしいけど自分はけっこう好きだ。


自分の仕事場を荒らす奴らに慈悲は無い。


さぁ、帰ろう。



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あとがき。


今回も読んでくださった方、ありがとうございます。


他の作者の作品を読んでいると自分と同じ設定がすでに使われていて

気持ちが落ち込みます。

決してパクったつもりは無いのですが結果としてそうなってしまいました。

いつの日か自分だけが描ける世界を作りたいものです。





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