第20話、憩いのひとときが・・・

今日は雨が降っている。


「だから何?」と言われそうだけどダンジョンでは外の天候は無関係だから働きたければ雨の日も働ける。


だけど自分は働かないよ。


先日 姉さん達と探索したので今月分の収入は目標額を達成したからね。


勤勉な日本人の感覚からすれば「時間が有るなら働け」と考えてしまうけど、せっかく出来た時間なんだから自分が楽しむ為に使わないとね。


リアル戦国シュミレーションが大好きな政治家の人なら国力がナンチャラ言って人々を働かせたいだろうけど、彼等ゲーマーを楽しませる為に自分の時間を犠牲にするのはどうかと思う。


と言う訳で、こんな日はオンラインMMOで遊びたい。


今日遊ぶのはオンラインMMOの面白さを俺に教えてくれた初期のゲームだ。


オーソドックスな剣と魔法の世界。


あの辛く苦しかった戦いの生活が俯瞰ふかんした立場から見るとこんなに遊べるものかと思うと言葉にならないアホらしさがあるよ。


色々な職業のキャラを作ってそれぞれの生きる楽しみを思い知らされて前世でも別の生き方も有っただろうと残念に思う。


そんな思いに浸れるのもこのオンラインゲームという世界が有ればこそだ。


この世界に生まれて一番素晴らしいと感じる総合芸術だ。(異論は認める)


別の世界に転生してもこの環境には巡り会えないだろう。


と言う訳で今日のキャラは魔法使いだ。すでにウオーロックにまで出世している。


まぁなんだ、肩書は立派だが前世の自分ほどの大魔法は使えない。


いや魔法の見た目だけは派手なのだが火力が弱い。早くアークメイジになりたい。


不満ではあるが派手な魔法が使えないリアルな自分のストレスを少しだけ解消してくれる。



ピンポーン☆ピンポーン☆


誰か来た。むっ‼憩いのひと時を邪魔してくれる、誰だよ。




んん、インターホンのモニターには誰も居ない。いたずらかな。


ピンポーン☆ピンポーン☆


でも呼び出しは続いている。まさかの故障・・。


カチャッ☆


念のためドアを開けて外を見る。やはり誰も居ない。


んんっ?足を叩く刺激が・・・・あっ、居た


足元にちっさい女の子・・2歳児か3歳児?女性の年齢は分からん。


考えるまでもなく小さな子供と接点など無い人生なのだが・・誰だ?この子


言っておくが俺はロリコンではない・・と言うかここまで幼いとペド何とか言うんだっけ、どちらにしろ興味など無い。むしろ子供に関わりたくない。


「見つけたぞ 深淵の引導師いんどうし


はぁっ‼?


何だこの子供、俺の前世の恥ずかしい2つ名を知っているだと。


芽芽達の知り合いかな?


「楽しみにしておったのに、我と戦う前に死んでしまいおって。

お前が死んだせいで勇者どもが我を討伐する旅を辞めてしまったのだぞ」


「お嬢ちゃん、何処の子?。帰り道分からないのかな」


くっ、自分でも呆れる苦しい対応だ・・。


「ほぅ、そのように我を軽んじるか。お主がその気なら我にも考えが有るぞ」


何やら凄い迫力が増したぞ。


「お前が誰か知らないけど、帰ってママのおっぱいでも吸ってろ。ほら帰れ」


ニコッと可愛らしい笑顔で言った子悪魔の言葉に俺は震えあがった。


「パンツを脱いで『お兄ちゃんに乱暴された』と泣きながら警察に行こうかなー」


・・・・・

・・・・・

・・・・ギャァーーッ‼


「ごめんなさい、ごめんなさい、俺が悪かった。頼むから止めて」


自分家の玄関で土下座する情けないオレ。幼女あくまに完敗した。



******************



場所は変わって俺の部屋。お菓子とジュースを出して幼女をもてなす。


幼女を連れ込んでしまった。最早言い逃れはできない。開き直って話を聞いた。



「じゃあ何か?君は前世で魔王だったのか・・」


「理解してくれたか。それにしては驚かぬな。さすが我を殺そうとしていた魔導士」


「違う違う。こっちの世界ではありふれた話(設定)なんだよ。特にラノベとかで」


「そうであるか・・。むぅ、バカにするでないぞ。何せ記憶が蘇ったのが数日前なのだからな。まだこの世界のデーターを集めておらぬ」


なるほど、この世界の知識は元の幼女から受け継いだだけなのか。


その割には完ぺきな冤罪による脅迫だった・・女は小さくても恐ろしいな。


んっ?数日前、ひよっとしてダンジョンが妙に活性化してたのは魔王が蘇ったから?


「で、魔王様はこれからどのようにするおつもりで?俺はすでに(冤罪攻撃には)勝てないから絶対に戦わないぞ」


「かつての大魔導士の情けない姿には思う所も有るが、我もこの世界では魔法が使えぬ。どうするもこうするも、何も出来ぬ。お手上げだ」


「てっきり世界征服するのに邪魔になる俺を倒しに来たのかと思ったけど」


「世界征服ならお主が死んだ後に成し遂げたぞ。思ったのと違ったがな」


「なるほど勇者たちも殺したのか」


どうりで転生してる訳だ。


「戦う気のない勇者を殺して何がおもしろいか。奴らは辺境で暢気にしておったわ」


お菓子を食いながらジュースをグビグビ飲む魔王様。仕草は幼女そのまま。 


ピンポーン☆ピンポーン☆ピンポーン☆ピンポーン☆


「だーっ、またかよ。何だよ、うるせぇな」


ガチャッ☆


「うるさいとは何じゃ、心配して来てやったんじゃぞ」


前世の妹、そして勇者だった豊条院 芽芽ほうじょういん めめが来た。


今度は勇者か。俺の部屋で前世の同窓会か?。



ドダダダッ、カチャッ


「やはり魔王が居たのじゃ。せっかく再会できた兄様を殺させないのじゃ」


「なんだ、骨抜き勇者か。・・ほう、魔剣か、懐かしいが銃刀法違反であるぞ」


「うわっ、バカ止めろ。家の中で炎の魔剣を抜くな‼」


ん?、炎の魔剣はダンジョンの外でも普通に使えるのかぁぁ、ますます危ないアイテム確定じゃないか。しかし・・アイテム袋とかの魔道具は使えなかったはず。むむむ


「そう警戒せんでもいいぞ元勇者よ。我も今ではただの幼女だからな」


「嘘じゃ、こんなに魔王の気配させてるくせに」


「気配だけならお主も勇者だがの 今はただの小娘の力しかあるまい。

剣先が震えておるぞ。地上では魔剣も重たかろう」


「余計なお世話じゃ。

むうっ、人間の幼女に擬態するとは姑息な、殺しにくいじゃろう」


「擬態では無いぞ。我も人間としてこの世界に転生したのだ」


「ウソ、私は魔王なんて殺して無いわよ。何で転生してるのよ」


あれっ、そうだった。確か「魔王は勇者だけが殺せる」とか王様が言ってたっけ。


確かに変だな。


「簡単な事、自分で死んだのだから殺されておらぬ」


はっ?魔王が自殺??


「我が世界を手に入れてからは退屈でな、面白い事など何も無くなった。

全てが思い通りに成るというのはこの上なくつまらぬものなのだ。しかも、前世の我の寿命は自分でも分からぬほど長い。永遠に続く退屈でつまらぬ存在だったのだ。


絶望した我は全ての魔力を増幅させて盛大に自爆した。その余波で世界そのものも消滅したのでなスッキリ サッパリして何の未練も無く、気分良く魂に帰った。

気が付いたら生まれ変わって赤子だったのだ」


結局、その時に勇者パーティも死んでこの世界に転生したのか。なるほろ


そりゃあ世界そのものが消滅したなら転生出来るのは他の世界だわな。


「そんな・・勇者として戦ったあの辛く厳しい時間は何だったの・・・orz

「諸行無常であるな」


「幼女のくせに何でそんな言葉知ってんだよ。意味分かってるのか」


「我は天才だからな。感覚で言葉を使うのだ、覚えて置くが良い」


どこかの終身名誉監督かよ。


「それより魔王、今の人間としての名前は何と呼べば良いんだ」



ありゃ、魔王が初めて焦った顔をしている。


「その手は食わぬぞ、お姉ちゃんを呼ぶつもりであろう。まだ帰りとうない」


お、お姉ちゃん??それに帰りたくない?何気に思考が幼女だぞ魔王。



ピンポーン☆ピンポーン☆ピンポーン☆ピンポーン☆


またかよ、俺んちのインターホン壊す気か。


『こらーっ、藤原君。うちのルルちゃん返しなさい』


えっ、この声は茉莉野 まりのさん?何で


『変態、ロリコン、警察呼ぶわよ』


「うわーっ、まてまて、人聞きの悪い」




幼女の魔王は茉莉野 毬奈まりの まりなの妹、瑠瑠奈るるなだった。


女性の芽芽が居てくれて助かった。


幼女と二人きりだったら待った無しで冤罪が成立しただろう。


恐ろしい。



俺にとっては姉妹そろって魔王だ。



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