第19話、百鬼夜行(笑

「皆、落ち着くが良い。兄上はどうやら人命救助の途中なのじゃろう。邪魔してはいかん」


「兄上??、真が兄上?うちに妹が居たの?父さんの隠し子なの・・・」


芽芽の助け舟で轟 鏡華とどろききょうかの拷問みたいな尋問から解放されたけど、余計な説明の手間が増えてしまった。


「はいはい、姉さんもバカな妄想すんな。帰るぞ」


「入り口まで護衛しましょうか?」


「申し出はありがたいが、ここから出口までは新人二人の戦闘訓練なんだ」


これ以上借りを作ると怖いしな、ポーション飲んで俺も復活しよう。ぐびっ


「油断して死ぬでないぞ。わしらはもう少し遊んで帰る。久々の魔剣を楽しむぞ」


「皆ありがとな。無茶はすんなよ」


「ははは、手は抜くよ。完全攻略しないから安心してねーー」


「それは本気で止めて欲しい」


完全に攻略したらダンジョン消える可能性有るから。


ここのダンジョンは俺の飯のタネだし、地域の希望なのだ。


本来この地は仕事さえ有ればとても住みやすい地域なのです。


その証拠に人口が多い訳でもないのにかなりの数の個人病院が有る。


野心を持たないお医者さんは住み良い土地に住み着くのだ。・・・たぶん



「じゃあ姉さん攻守交替だ。4層から上なら二人とも戦えるから魔物狩りの経験を積んでくれ。武器は俺が使ってたコレな」


「そんな事言って、女の子に触りたいだけなんでしょ。若いわね」


「そんなセリフは女性に夢と憧れを持っている若者に言ってくれ。俺には無い」


記憶を維持しての転生だからな、精神的には大人なんだ。きっと、たぶん。


中学、高校あたりの年齢に有るはずの純粋な恋心とかはほぼ消滅した。


結婚するなら異性に憧れの有る年齢の『若気の至り』でするのが幸せなのかもな。


「えーっ、師匠ってもう枯れてるんですかー。ショックです」


「真、その若さで・・・かわいそう」


「うるせえや。それと莉々奈りりなの武器はこっちな」


「金属バット・・・」


「こんなのでも教えた通り魔力を付与すれば立派な武器になる。ほら行くぞ」


俺が要救助者を背負い 二人には戦ってもらう。


そう言えば、こんな時はスマホのアプリで救急信号を出すのがルールだった。

救急車のサイレンや赤色灯と同じ意味がある。途中で戦闘中の場を通過しても邪魔した事にならないし邪魔な魔物を倒しても横取りにはならない。


準備が出来たので4層に上がる。




「あっ、帰って来た。良かった莉々奈ぁ無事だったのね」


「お姉ちゃん、ひょっとして待ってたの?」


「そんな事ないよ・・ここで戦ってたんだから。ホントだよ」


「姉がストーカーか。まぁ過保護はほどほどにな」


「だから違うよー。この場所が戦い易かったの。ていうか、背中の人だれ、血だらけじゃないの」


「そうだった、前衛の二人、走るぞ。最短ルートは俺がナビする。魔物を蹴散らせ」


俺が走る方向に二人とも走り出す。全てを言わなくても行動できるようになってる。


5層で走り回って少しだけパーティらしく成った・・かな。





「で・・・・。、君たち何で付いて来るのかな?、毬奈まりなさん」


「ふっふー。けが人居るみたいだし護衛してあげるよ。左右と後ろは私のパーティにまかせるが良い」


「私の、じゃ無いでしょ。もうっ」


毬奈のパーティ三人が仲間になった。チャララーンてか。


左右と後ろに一人ずつの配置で奇襲に備えてくれた。


本当に背中の女性を救助するためのレスキューチームみたいだな・・これは。




前方の通路にオーク二匹確認。

・・一対一で戦えるから数は都合良いんだけど


勝てるのは分かっていてもハラハラする。保護者の気分ってこんなんか。



接敵。


姉さんはオークの目前で急に横に飛び、オークの攻撃を回避、そのまま武器のリーチを生かす間合いから切り払い、オークの首を半分くらいまで切断して勝利。


莉々奈りりなは怖かったのか盾を前面に押し出しての突撃、盾にも魔力を付与していたのか自分より大きいオークを突き飛ばした。それで莉々奈の恐怖心が和らいだのか起き上がろうとするオークをバットで攻撃し粉砕した。・・そう粉砕


鈍器に魔力を付与しての攻撃はとても過激でグロいようだ。


ショッキングなビジュアルだった割に莉々奈は平然としている。良かった


二人とも初戦を無事にクリアーした。



「うそ・・莉々奈が近接戦をこなしている。オーク倒すの私より早いし」


毬奈さんは妹の戦いを見て驚いている。他の二人も無言だ。


実戦では使い物にならないと言われている『魔法使い特性持ち』が短期間で戦力になったのだから無理も無い。しかも彼等より高火力


そもそも ダンジョンを維持しているのは極端な言い方をすれば魔力なのだ。


地上では有り得ない量の魔力が満ちている。


それゆえにこの中では人々にも特性が発現するしスキルも使用出来る。


そんな場所で魔法に特化した存在の立場がどうなるか?。


本来ダンジョンでは 魔力が強くて多い存在が戦いでは強者。


クソ女神が余計な事をしなければ魔法使いは花形だったのだ。



「二人とも、初勝利だ。自分たちも戦えるって分かっただろ」


返事が無い。


二人ともジッと自分の手と武器を見つめている。


まだ自分たちが勝てたという実感が持てないか。


「きゃーっ、助けてー 早く脱出しないと私死んじゃうー(女声モード)、

・・ってこの子が言ってるぞ」


「・・・何それ、弟がキモイわ」


「ドン引きです」


「「「・・・・。」」」


「みんな正気に戻ったな、早く行くぞ」


もう慣れない仕事は早いとこ終わらせて自由になりたいのだ。


でも、地上に戻ったらまーた警察の事情徴収か・・めんどくさい。



「前方にオークとゴブリンの混成集団10匹。私たちも戦うわよ」


「了解。頼んだ」


10匹か・・多いな。普通そこまでの数が一か所でリポップしないはずだけど。


このフロアーも活性化してる?。



エンタメ脳ならスタンビートと騒ぐだろうが、その心配は無い。


魔物は外に出たら実体を維持できずに消えるから意味が無い・・はず。


外に出すだけ魔力が減ってダンジョンの力が弱くなるだけだ。


もしも全フロアーで魔物が活性化してるとしたら・・これは


ダンジョンが拡張される前兆か?。



などと考えているうちに戦いは終わっていた。


「いいね。エンカウント少なくて実習成績心配だったけど、この調子なら花丸だ」


「だな。このまま地上に戻っても合格だろう」


学生チームはそっちの心配が有ったのか。



その後も順調に走り抜け3層まで来た。この階層の魔物はリトルオーク。


油断しなければ魔力無しでも戦える階層だ。これで安心だ、やれやれ


この階層も駆け足で進む・・のだが、何故か周りの人数が多くなってきた。


「魔物が百鬼夜行してると思えば藤原君ではないか。オッス」


「そう言うチャライ声は深瀬 たもつ君ではないか。うっす」


「藤原が中心か、とうとう ぬらりひょん にバージョンアップしたな」


「というか、おまえも付いて来る気か、何なんだよこれ。正直迷惑なんだが」


増えたのは皆学生だ。実習体験のはずだが授業をボイコットしたのか?。

今では50人超えてるぞ。レイドチームになっとる。


「そりゃあ お前が救急信号出してるからだ。集まるのは当然だな」


「そりゃあ出してるぞ、ルールだし・・・じゃあ何、こいつ等野次馬か?」


「違う違う。真は実習受ける前に学校辞めたから知らないのさ。

けが人の救助に協力すると評価されて高い点数が貰えるんだよ。

救急信号の近くで活動すると魔物の討伐数と別にスマホのアプリで記録される」


なるほど。有もその一人と。


この数で上までゾロゾロ練り歩くのか。


魔物からすれば確かに百鬼夜行だ。


最後は笑い話になったが無事にダンジョンから脱出。


救助した女性も間もなく意識を取り戻した。


おかげで俺に対する事情徴収も軽くなり救助した事で警察に褒められた。


今回の死者を出した事件は全て自称ダンジョンレポーターを名乗るおばさんの過失致死と成ったが当人が遭難確実とみられる為、事件解決は少し時間がかかるらしい。


もっとも、

あのおばさんが生きていたとしてもまともな調書は取れないだろうけどな。ははは


以上で俺の初めての弟子育成は無事?に終了したのだった。




余談だが


姉さんはこの後、ゆんチューブの配信で大いに注目を集めた。

それだけ聞けばハッピーなニュースなのだが、内容が酷い。

魔物を金属バットで粉砕する過激な殺戮シーンを配信したことで

付いた二つ名が「撲殺魔女」。


武器を買う予算をケチったらしい。




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