第18話、何を呆けておる

自称ダンジョンレポーターを名乗るおばさんの襲来を受けた後は後腐れになりそうなドローンとスマホの残骸を徹底的に破壊した。証拠隠滅とも言う。


実に下らない時間を使ったものだ。


しかし、問題はこの後だ。


あの女が逃げて来た方向に4層に上る階段が有る。


つまり、通らないと帰れない。


時間的にまだ探索者の死体が残っているだろう。


二人にはまだ刺激が強すぎるだろうか・・。


まぁ、胃の中身をキラキラーしても帰り道だし良いか。


グロい場面を見るだろうけどダンジョンで死ぬ現実も知らないとダメだ。


この時代 死体を見る機会なんて親類縁者の葬式で棺の中で花に囲まれている安らかな姿くらいだろう。


はぁ・・。有効な魔法の使い方を少しだけ教えるつもりだったのに、我ながらマメに教師を演じてるものだな。




「ひっ‼」「うっっ‼」


「やっぱ、こうなってたか・・」


そして女子二人はキラキラーーッ。無理も無い


俺も前世で慣れてなければ一緒にキラキラしてただろう。


黒オーク、正式名称オークソルジャーは戦闘特化のオークでその攻撃力はすさまじい。素手で殴られただけで人の頭など半分ほど吹き飛ぶ。


そんな暴力で殺された死体が5体もある。


手足があらぬ方向に向いているなどあたりまえ、骨が体から突き出している死体も数体ある。


犯人?の黒オークが あのデブおばはんを追いかけて行ったため食い散らかされた死体が無いのがせめてもの救いだ。


まともな姿の死体は一人だけか・・ん?


いや失礼した。


まだ生きてる。ちなみに若い女性だ。なんかデジャヴー


後頭部から派手に血を流してるからてっきり死体だと思った。


吹き飛ばされた仲間に巻き込まれ頭を打って気絶したって感じか。近くに無残な死体が有る。そこから流れた血で彼女は血まみれになっている。


推測は後回しだ。せめて幸運?なこの命を助けよう。


『秘匿ストレージ』から中級のポーションを取り出して頭に振りかける。


「うっ、痛い・・」


おっ、意識を取り戻した。


「おい、しっかりしろ。薬だ飲め‼」


「真・・その人生きてるの?」


「血だらけだよね」


キラキラーの二人が復活して状況を見るまで立ち直ったか。


「気を失う前に何とか一口だけポーションを飲み込んだから、とりあえず生きて出られるだろう」


「ポーション?」


「説明は後だ、この子を連れて脱出する」


めんどくせーから説明は先送りだ。



だが生存者を運び出す前にもう一つ大事な作業が有る。


「はぁ、やりたくないけど、俺がやるしかないか」


ダンジョンで亡くなった人の遺品回収だ。


血まみれの死体から探索者登録カードを探し出す。


次に髪の毛を少しだけ切り取りカードと一緒にティシュにくるむ。


本当はハンカチなどが良いのだがそんな物何枚も持ち歩く訳もなく苦肉の策だ。


探索者のライセンスをもらう時の講習で最後に習うのがこの手順。


もちろん「可能な状況なら」という但し書きが付くが・・。


この数の死体が入る大容量のアイテムボックスのスキルなど無いとされているからストレージに入れるのも論外。自分の秘密をさらけ出してまで運ぶ義理も無い。


今回は守るべき生存者も居る事からこれ以上は危険と判断する。



この階層で戦えるのが実質俺一人だけなので複数の魔物に囲まれると生存者を救出できなくなる。早くこの場を離れなくては危ない。


「この階層だけで良い、姉さんがこの人をおぶってくれ」


「私が? 無理よそんなの」


「レベル上がっただろ。ダンジョンの中だけなら男以上の力持ちになってるから」


「むぅぅ、やってみるけど・・男以上って嫌な言い方ね」


姉は難なく女性を背負ってその力に自分で驚いていた。


意外な事に血まみれの人を背負うのにためらいも無いようだ。少し見直した。


俺は自分のスマホを取り出してそんな姉の姿を写真に収め、姉のスマホに転送した。


「何してんのよ、こんな時に。私には撮影禁止って言ったくせに」


姉はブチブチ文句を言っているが後で喜ぶだろう。



「姉さんが持っていた盾は莉々奈りりなが持ってくれ。走るぞ」


5層に入った時はゴネていた二人も今では平然と走っている。


ほどなく前方に5匹の黒オークの群れ。5匹は少しキツイ。


まず砂の目つぶしを打ち込む。2匹外した。


それでも仲間内で殴り合いが始まった。


二度目の目つぶしで全ての視界を消せた。


仲間内で殴りあっている黒オークの死角から攻撃し一匹ずつ無力化ししとめる。


地味だ。こんな時はつくづく広範囲の殲滅魔法が使えたらと思う。



5匹全て撃破して走り出すとまた3匹の黒オークとエンカウントする。


まずいな。


血の匂いで魔物が集まっ来るのは当然としても数が多い。


このフロアー自体が活性化してる可能性がある。


活性化すると一時的にフロアのモンスターが多く出現する。


新たな3匹も同じ手順で撃破。


「真っ、後ろから沢山来たぁ」


休む暇もなく後ろから6匹の集団が追いかけて来る。


4層に上がる為の階段までおよそ100メートル。


「二人とも階段まで走れ、逃げ切る」


逃げる前に砂の目つぶしを打ち込む。


命中したのは二匹ほどか・・急いだ事で狙いが甘くなった。


護衛が走る二人から離れる訳にいかず、悔しいが後を追う。



グガアァァッ


「チッ、」


横道から飛び出してきた黒オークの攻撃を躱しきれず肩口にかすってしまう。


それだけで腕が使い物にならない。下手すると骨折している。


片手になった魔法使いでは戦ってこの場を切り抜ける選択肢は無い。


二人の後を追いかけてひたすら走った。



あと30メートル位で階段だ。前方の二人が登り口にたどり着いたのだが・・


「えっ、マジかぁ」


何と上から他のパーティが降りて来た。最悪だ


黒オークは10匹くらいに増えていた。


普通の探索者パーティで対応できる数を超えている。


このままでは魔物の集団を擦り付けてしまう。


どうやら片腕で戦うしか無くなった。


片腕だけではポーションを急いで取り出して飲むのは無理だ。 


こんなショボイダンジョンで命がけの戦いとは情けない。


前世のように攻撃魔法が使えたなら黒オークなどゴブリン以下の相手なのに・・


「このクソ女神のバカヤローぉぉぉぉぉ」


「賛成じゃな」


「ハァッ?」


「何を呆けておる。早よ、わしの愛剣フェリスティリア ラグラスを出さぬか」


となりで偉そうに催促するのは前世で妹だった豊条院 芽芽ほうじょういん めめ


何故ここに居るのかはさて置き、とりあえず助かった・・かも


だけどアレを出すのはマズイだろ


「この程度の相手ならこれで我慢しろ」


「なんじゃ、あの時の炎の魔剣ではないか。つまらんのぅ」


とか言いながら早速さやから剣を取り出す芽芽さん。その横顔は愉悦に満ちている。


ノーマルの鉄剣ではもう満足出来なくなっているようだ。


「で・・、みんなの分も出そうか?」


「いえいえ、今日は様子見ですからそこまでは必要有りませんことよ。芽芽のアレだけでも過剰戦力でしょう」


芽芽は一人で炎の残像をまき散らし10体以上になった黒オークを切り刻んでいた。


確かにこの程度の階層なら一人で殲滅させるパーティには愚問だったか。


有名な女性だけのパーティ 深緑の鏃しんりょく  やじりが全員で遊びに来たのかよ。確かに過剰戦力だ。


上の階層で実習の授業をしている学生達は彼女達を見てさぞ盛り上がった事だろう。


「それにしてもティ・・真さんともあろうものがピンチだったようで・・・・

また、私たちより先に死ぬ気ですか?      絶対に許しませんよ」


怖え、やはり前世で先に死んでしまった事に相当お怒りのようだ。


普段は御淑やかな雰囲気のお嬢様である琴平 涼香ことひら すずかが怒ると凍るような恐ろしさが有る。


「オークごときでこんなケガをするなど、やはり私たちが傍に付いていないとまた先に死んでしまいそうですわね」


ゲシ☆ゲシ☆


「ぐわっ、いでででで、杖でどつくな、回復してくれ」


「そうだよねー涼香の言う通りだよね。マコっち観念して私たちのパーティに入るのが良いよ」


俺が弱っているのに漬け込んで轟 春奈とどろき はるなが勧誘攻勢を仕掛けてくる。


「師匠すごい。深緑の鏃から勧誘を受けている。

やはり責任を取ってもらって結婚を前提にした弟子にならなくては・・」


「師匠?責任を取る?テメェ真どういうことだ、あぁっ?」


またややこしくなった。

TSしたディフェンス役の轟 鏡華とどろききょうかがバカ力で俺の胸倉をつかんで振り回す。脳筋め


イタイ、痛いってば。本当に先に死んでしまうぞ。


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