第17話、強いメンタルの三人

その後、めんどくさい弟子二人をコントロールしながら5層を駆け回り順調にレベルを上げていく。


ただし、地味だ。物語のようにロマンも無ければイベントも無い。

ひたすら薄暗い通路を動き回り殺伐とした時間を繰り返す。

心身ともに辛い作業なのだった。


しかし、確実に実績は積み重ねられていく。

不詳の弟子二人はレベル20となり、MPもそれなりに増えた。

スキルも魔力強化と魔力操作という基本的なところを習得して後はそれらを強化していけば強くなる。好みで他のスキルを手に入れても良いだろう。


「姉さん、莉々奈りりな二人ともレベルだけなら一人前の探索者になったね。

ただしレベルだけ上げたからまだ戦いの経験も無いし探索に必要な知識も足りない。そろそろ帰るけど帰りの戦いは二人に任せようと思う。

黒オークはまだ無理だけど一つ上の4層から上なら戦えるはずだよ」


「まって」


「どうした?まだ怖いか」


「すこしは・・そうじゃなくて、目潰しの方法・・教えて。ダメかな?」


「ああ、そこか。いいけど難しいぞ。それに目が有る魔物にしか通用しないし」


「姉ちゃんとの約束だしガンバル。私じゃ無理かな?」


「いや、スキルだけなら条件はクリアーしてるよ。後は自分次第だ」


「真・・私にも教えて欲しい」


「姉さんもソロで探索するだろうし、もちろん良いよ。

でも、知った後に自分で訓練しないと使えないぞ」


「使いこなせるかは自分次第ってことね」


「そう、でだ 必要になるのはコレ」


「え、何これ・・砂?ですか」


「真って何時もこんなの持ち歩いてるの?」


「人を変人みたいに言うな」


「変人だし」


「チェッ、ダンジョンの中は意外と砂が少ないから用意した方が良いんだ。

この砂に魔力を込めていく。そして、魔力操作を使って打ち込む」


パァァン☆


「砂の一粒でこの位の威力は有る。スライム程度ならコレだけで倒せる」


「すごい、すごいわ。砂でこれなら小石だともっとだよね」


「と、思うだろ。ところが小石を使うと魔法のスキル『石礫』と同じになるから威力が無くなるんだ。砂より大きいと使い物にならない」


「えーーっ、何で、ズルくね」


「知らん」 


知ってるけど言えないよな・・


恐らくだが、砂なんかぶつけても攻撃にはならない威力だから盲点だったのだろう。女神の嫌がらせのリストに入ってないのだ。


実際に砂に魔力を強めに込めて全力で打ち出す事でそれなりの威力にはなるが、普通に魔物に当ててもせいぜい相手を驚かす牽制程度のものでしかない。


しかし、防御の弱い目などの部位に打ち込めば点を貫く砂の貫通力が生きてくる。


ゴブリン程度の相手までならばコレだけで殺せるほどだ。


「素早く相手の目に当てるには練習するしかないぞ。

使えるように自分で工夫してくれ。じゃあ4層まで戻ろうか」


という事で帰ろうとしたのだが・・



キャアアアァァァーーーッ


5層に響き渡る女の悲鳴。トラブルの予感


「テンプレきたーーーっ」


姉さんが歓喜している。テンプレって何のこっちゃーーー


「ほら真っ、早く行って助けるわよ。きっと有名なゆんチューバーの美少女がピンチなのよ。助けてバズるのよ」


「そうですか・・、だが断る、絶対嫌だ、知るかそんなもん」


前世ではこの手のトラブルで9割がた不愉快な思いをしてきた。


酷い時には犯人にされかけたり損害賠償の請求をされたことも有った。


だから不要なトラブルは回避したい


だが現実は無情であり俺の自己防衛は撃破されていく。



「‼?、師匠、何か来るよ」


「チッ、こっちにトレインして来やがった」


黒オーク一匹に追われている人の気配が近づいて来る。


「二人ともそっちの部屋の隅に集まれ。やり過ごすぞ」


「えっ、助けないの?」


「それは状況次第だ。乱戦に成れば色々面倒な事になる。急げ」


三人で通路と反対の部屋の隅に移動する。


これで不用意な遭遇戦にはならないし相手の意志もハッキリするだろう。


単純に救助を求めるだけなら助けるし、悪意が感じられたら見捨てる。場合によってはブチのめす。


冒険者どうし助け合う? そんなキレイ事が必ず通用すると思ったら自分が死ぬ。


これは前世のダンジョン探索での不文律だ。


異世界と日本は違う、と思うなら勝手にすれば良い。


同じ人間なんだ、法律の届かない場所で何をするかなど分かったものではない。


助けを求める振りをして魔物を他人に押し付け、戦っている後ろから人間の方を襲う、なんていうのはありふれた手口だったのだ。


かん高い足音が近づいて来る。

まさか、革靴とかヒールを履いてダンジョンに入っていたのか?


通路からヨロヨロと出て来たのは美少女・・ではなく、眼鏡をかけた太ったオバさんだった。

命がけのダンジョンに入るのに厚化粧をして恐らく香水もプンプンさせているだろう。

魔物のエサになりたい肉の塊なのだろうか。


「貴方たち、悲鳴を聞いたならサッサと助けに来なさいよ。

探索者なんでしょ」


あぁん、何だと‼


オバさん、こっちに来んな、という思いは届かずズカズカと元気に歩いて来る。

その後ろには何やら飛んでる物が三つ。何あれ?


「あれって最新型の追尾機能付きドローンだわ。

一機100万以上するのよ、それが三機・・」


バキッ☆ ガシッ☆ ガシャーン☆


うむも言わさずドローンを全て叩き壊すオレ。


グゥオォォォォッ


ついでに後ろから来た黒オークに目潰しの砂を叩き込む。


とりあえずこれで良いだろう。

下手に殺すと獲物を取ったとかぬかすバカが居るからな。


「ギャァァァァァッ、テレビ局から借りたドローンが‼。

なんて事するの!、訴えてやるわ」


黒オークの事は眼中にないオバはん。可哀そうな黒オークでした。


「勝手に他人を撮影してんじゃねーよ。俺達は許可なんかしてねーだろ」


「関係ないわ、わたしは『ダンジョンレポーター』よ。取材する義務があるわ。

報道の自由を邪魔するんじゃないわよ」


「自由という言葉を履き違えているバカなマスコミね。サッサと取材に行けば?

護衛も付けずに5層に入るバカには関わる気は無い」


日本人あるある な理屈たろう。

仕事を言い訳にすれば他人にとって迷惑な事でも平気でするタイプだ。


こんなに離れているのに香水の匂いがプンプンしている。


魔物を誘って集めたいのだろうか?頭がおかしいレベルだ。


「護衛なら皆やられちゃったわよ。探索者とか偉そうにしてるくせに弱いわね。

貴方たちこの後 私の護衛に雇ってあげるわ。ドローンの損害賠償も相談に乗るわよ」


えっ、護衛が居た?なら事前に安全面で打ち合わせしてるはずだが。これは・・


「その前に、護衛と契約してたなら その契約書を見せてみろよ。そしたら護衛してやる」


「なんでそんな事、あなたには関係ないでしょ」


「いいや有るね。この5層で活動できるほど実力の有るパーティなら黒オークの一匹や二匹と戦って負けるはずは無い。

まして護衛として来てるなら余計に安全マージンをとるはずだ。それが負けた? 契約書には4層までの護衛で契約してたんだろう。

探索者の忠告を無視してあんたの我儘で無理やり5層に降りて戦ったから護衛は死んだ。立派な殺人罪だな」


「だまりなさい‼、クライアントの要望を聞くのは社会人の常識なのよ。ガキが偉そうにしてんじゃないわよ」


「姉さん、スマホでこのババアの写真撮ってくれ。壁の作りを見れば5層なのが分かるから証拠になる」


「ババアですって、もう怒ったわ。私の全ての力であんたたちを訴えてやる。ネットでも拡散してやるわ覚悟しておきなさい」


姉さんとババアがスマホを取り出して写真か動画を撮りだした。


「熱っ、いやーーッ、スマホが、どうして」


突然オバはんのスマホから炎が噴きだした。

勿論、俺が魔力を点の大きさまで圧縮しスマホの内部で発火させたのだ。


「あぁーーあ、発火するような安物のスマホ使ってるからだね。危ないな」


「失礼ね、リンゴマークのスマホだわよ。あんたたちの顔は覚えたわ。

そうだわ。私たち取材班はそこの探索者パーティに襲撃され護衛は私を守って死んだ事にしましょう。これで世間は納得するわ。ついでに探索者が野蛮で暴力的な存在だと宣伝してやるわ」


やはりこの世界にも魔族より質の悪い人間はいるようだ。ある意味予想通りか。


「アッ?あはははーーーーーーっ、あうあーーーーーっ。ひやーーーーっ」


突然オバさんは奇声を上げて走り去った。


方向はダンジョンの奥へと続く通路だ。


護衛も無く走り回れば助からないだろう。


言うまでも無くあの女の脳細胞の一点を魔力で破壊したのだ。


たまたまその場所が人の意志を司る場所だったのだろう。


あの太った体はダンジョンの魔物が喜んで食べてくれるはずだ。


あの女は俺達を社会的に抹殺しようとしていた。


ならば俺も全力で阻止する。当然の権利だ。


俺は別に殺してはいないぞ。(屁理屈です)


その気ならその場で真っ二つにしている。(返り血が嫌だとも言う)


「可哀そうに・・彼女は恐怖のあまり気が変になったらしい。冥福を祈ろう」


「えーーっ。良いのかなぁ」


「真・・恐ろしい子」


「いやぁ、それほどでも」


メンタルが強いパーティで良かった。


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