第16話、5層に降りたよ

「あれっ、階段降りるの?私たち規則で4層までしか潜れないよ」


俺達のパーティは次の5層に降りるための階段にたどり着いたのだが・・


何故か毬奈まりなパーティが後ろから付いて来ていた。


「妹が心配なのは分かるけどここから先は遠慮してくれ。」


「待って、この先に出るのは黒オークだよ。無茶だわ」


「大丈夫だ、妹さんの安全は保障する。心配ならたおすところを確認すれば良い」


「本気なんだね」


これ以上は言葉を重ねても何も進まないだろう。


例えとしては少しズレてるかも知れないが「百聞は一見に如かず」だ。


「話はここまでだ、さあ、降りよう」



階段を下りながらストレージから砂の入った小袋を取り出す。


気配からすると降りてすぐに黒オークとエンカウントするだろう。


今から砂に魔力を込めていく。


そして5層に降り立つ。


通路の30メートル前方に黒オークの巨体が見えている。


見た目が黒っぽいので黒オークと呼ばれているが正式な名称はオークソルジャーだ。


ノーマルなオークが2メートル前後の身長なのに対して黒オークは3メートルの巨体で筋力も倍近い強敵だ。見た目も筋骨隆々で恐ろしい。



「無理だよあんなの・・無茶しないで」


「まっ、真・・私も無理だと思う、逃げようよ」


俺以外の全員が黒オークの気迫にのまれて委縮している。


無理も無い・・が探索者としては失格、戦う前からすでに負けている。


気迫で圧倒し委縮させれば戦う相手は実力の半分も出せなくなり勝敗はほぼ決まる。犬や猫が戦う時に唸ったり吠えたりするのと同じ理屈だ。


不良やヤンキー達がバカの一つ覚えで「気合だ」と唱える理由でもある。


もっとも、戦い慣れている相手にはその化けの皮は通用しないんだよ・・


グギョアァァァ、


突然黒オーク達は苦しそうに暴れ出し、お互いを攻撃すらしていく。


俺は身体強化で素早く間合いを詰め、低い体勢で背後にまわる。


目を潰された黒オーク達は前方に腕を振り回すだけなので複数いても脅威では無い。


後は奴らの片方の足首を切断する。


いかに巨体で怪力を誇っても足を失えば倒れ伏す。


倒れて低い位置になった首を跳ね飛ばせば終わりだ。勝負が早くて助かる。


この5層をレベル上げの場所に選んだのは殲滅するまでの手間が少ない事に有る。


守る相手がいる場合の戦いは一つの対戦に時間が掛かると危険なんだ。


ちなみに、もう一つ下の6層には稼げる魔物、あの『千剣ミミズ』が出てくる。


こちらは一匹倒すのに手間がかかるので今回はパスだ。


アイテムが美味しいので普段 俺のメインの狩場はこっち。



「何が起こったの・・」


「本当に簡単に倒しちゃった」


ドロップした魔石や肉を回収してみんなの所まで戻る。


勝つのを見た事で安心したのか皆が復活している。


「すごいよ、藤原君って強かったんだね」


「魔法使い特性で前衛なのか・・皆に言っても誰も信じねぇだろうな」


「なるほどね。これだけ戦えたら今更学校に通う必要無いかも」


毬奈まりなパーティの三人がそれぞれ感想を述べてくる。


仄かに悔しさが混じっているのは優等生のプライドだろうか。



「お姉ちゃん、私も強くなるよ」


「莉々奈、今の目つぶしを絶対に覚えるのよ、そしたら一緒にダンジョン入ろ」


「えっ、う、うん約束だからね」


驚いた、今の攻撃の初手が目潰しだと気が付いたのか。毬奈 恐ろしい子・・


「じゃあ私たちは授業にもどりましょう。

・・・もぅ、そんな顔しないの。

学生じゃないと学べない事も多いから時間の無駄じゃないわよ」


へぇ、ここで的確な判断するあの子は誰だ? 同じ学年だったはずだけど全く知らない。彼女が中心になれば良いパーティが作れるだろう。


なるほど 確かに学校も中々捨て難いものだな。



やっと三人になったので聞いてみた。


「二人とも安心したか?

と言うか、まだ続けるか?このまま帰っても恥ずかしくはないぜ」


「ぜっったいに帰らないもん」


「魔法使いでこの戦い、バグるわ。ゆんチューバーの成功が目の前に・・」


「姉さん・・俺の戦いを撮影するなよ、スマホ叩き壊すからな」


念を押してクギを刺しておく。案の定、いい年してスネて横を向く姉がいる。


「それじゃあ、続けるんだな。走るぞ遅れるなよ」


「えぇっ、お姉ちゃん文系なのよ、マラソンは嫌ぁぁぁ」


「同じく」


ゴネられた。

ゲームみたいにステージを何度も走り回って数多くの魔物を瞬殺すれば早くレベル上げられるのだが、現実だと無理か・・。

まぁいいや、それは後にするか・・・、レベルが上がればいずれ体力も上がるだろ。


「んじゃあ、二人ともこの袋にドロップしたアイテムを拾って入れてくれ」


「弟が姉をコキ使おうとしている」


「そんなのどうでも良いから早く強くなりたい」


弟子二人がダダこねる。


なるほど。高校でダンジョン探索の基本を学ばないとこうなるのか。


「二人とも分かってないな。今日一日のアイテムで一人10万円位にはなるぞ。

姉さんの今回の旅費は丸々浮くし、莉々奈も欲しかった物が買えるかもな」


「日給10万円‼。そんなに稼げるの・・探索者って」


「強くなればそれ以上稼げるよ。強さも大事だけどドロップアイテムの回収は探索者の大事なテクニックの一つだ。今のうちにコツを掴んでおいた方が良いぞ」


鼻先のニンジンはこの程度で良いか。二人とも目が輝いているし。


確かに稼ぎは良いが普通は一日戦えば心身共に疲れ果てて休みも多くなる。


無理をすれば死ぬから連日の探索はお勧めできない。


「袋が重くなったら俺に渡してくれ、魔法で収納する。じゃあ、行くぞ」


この後三人は事故も無く黒オークを倒しレベルを上げていった。そして・・


「レベル上がったよ。あっ、私も魔力付与のスキル出たーーー」


「そうか。莉々奈もそのスキル習得したら今までのスキルポイント全部それにつぎ込んでみようか」


これで二人ともレベル15になったし最低限戦う手段を手に入れた事になる。

後はその能力を主軸にして強化するなり便利なスキルを増すなりしていけば良い。


「試しにコレに魔力を付与してみな。MPがまだ少ないから加減してな」


予備に持っているナイフを手渡す。


「あっ、ぼんやり光ってる・・」


「おめでとう。剣や刀に魔力を纏わせれば莉々奈も魔法剣士だ。

剣術は君のお姉さんに教えてもらった方が良いだろう」



「じゃあ私も魔法剣士なのね。とうとうやったわ。ガンガン配信するわよ」


姉さんがトリップしている・・初心者が少し強くなった時の危ない妄想だ。


「姉さんはもう戦う気なのか?」


「当たり前じゃないの、こういうのは速さが命よ」


「じゃあ、姉さんとは今日でお別れだね。

ああ、葬儀社の手配はしておくよ。

姉さんの死体はダンジョンに食われるから無いと思うけどね」


「な、なに恐ろしい事言ってるのよ」


「だって、今のまま戦ったらせいぜいゴブリン2匹倒せば魔力が尽きるよ。

三匹居たら・・ほらっ、死んだ。だからお葬式の準備は必要だね」


「なによ、そんなの全然使えないじゃない。強くなる方法じゃないの?」


「あのな・・自分の力量は常に頭の中で計算しておくものだよ。

俺だって最初は階段の入り口近くで戦ってたし、魔力が少なくなったら直ぐに逃げたし脱出してたんだぞ。二人はやっと戦う方法を得ただけ。強くなった訳じゃ無いの」


早くバリバリ活躍したい気持ちは分かる。


でも、ゲームと違って死んだら終わり。


強くなったとしても その現実を忘れた者は死んでいく。


前世の異世界では何度も見て来た


そして俺も死んだ。





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