第14話、田舎者

「何だよ姉さん、まだ何か文句有るのかよ」


夜になってまた姉貴が襲来した。身内とは言え一人で気楽な生活をしている我が家にとって迷惑以外の何物でもない。


「言ったでしょ、あなたの事は応援するわ。それより、今晩ここに泊めてちょうだい」


「はぁ?嫌だよ。ホテル取って無いのかよ」


「無理よ、観光地の行楽シーズンに空き部屋何て無いし」


「なら実家に行けば良いだろ。母さん喜ぶぞ」


「嫌よ。帰ったら『結婚はまだか』って煩いに決まってるもの」


姉貴なんだから泊めてやれば良いだろう?って思う人は何故両親が姉さんに結婚話をするのか知らないのだ。


姉はまだ二十歳なので結婚で焦る必要は無い。


東京で自立していて今では両親も認めている。


そんな姉が帰郷するととても迷惑なウザイ女になる。


ゴミの出し方がおかしい、とか、家の中をこうした方がキレイだとか、とにかく家の中のアラ探しをしてケチを付けてくる。


多少雑然としてたとしても死ぬ訳じゃ無いだろうに・・。


しかし、市販のウスターソースを冷蔵庫に入れないと腐る??

そんな事今まで一度も無いし聞いたことも無い。

東京では腐るのだろうか?さすが都会だ、恐ろしいな・・・。


ちなみに、北海道の家庭にはゴキブリが存在しない。

せいぜい港町の古いビルなどにチャバネゴキブリが居る程度で、黒いアレはいない。

だからゴミに関してもヒステリックに騒がなくても心配ないのだった。

勿論、肉や魚のゴミはハエが集ってくるのでしっかりと処理する。


黒いアレが居ないだけでも北海道に住む価値が有ると思う。



だから姉貴が帰って来て東京並みにゴミの管理に煩いと とてもウザイのだ。

両親があえて結婚話を姉にするのはその意趣返しなのである。



姉はいわゆる【都会の田舎者】だ。


その地方 地方で生活スタイルが違って当然なのに、視野が狭くなった人は「都会の常識が世界の常識」だと思い込んでしまう。


食べ物にしても流行の物や他人が美味しいと称える有名なものを偉そうに食べさせようとドヤ顔で勧めてくる。当たり前だが、食べてみると口に合わない事も多々ある。


他人の基準に自分を合わせる事で『自分も都会の人間なんですよ』と必死に見せかけている哀れな人なのだ。


生粋の都会人なら自分が流行の発信源になろうと願うだろうし、地方の生活にケチを付けるのではなく面白いと楽しむだろう。


他にも色々有るが、とにかくウザイ姉を家に泊めたくない。


「そんなに泊めたくないの?」


「当たり前だろ、この家は一人用なの。ベッドも食器も一人分しか置いてないんだ」


「ベッドなんて一緒でいいじゃない、姉弟なんだから」


「嫌だよ、暑苦しい」


「もしかして照れてるの?お姉ちゃんを女として意識してるのかな。真もそんな歳になったのねぇ」


「やっぱり姉さんはショタコンだったのか、オレはもう大人だからな、襲うなよ」


「えっ、な、何言ってるのよ、私はそんなのじゃないわよ」オロオロ


「急に挙動不審になってるし・・別にショタは悪い事無いだろ。二十歳の姉さんが性に飢えた中学生の相手をしてやれば天使みたいなものだ。

ガンガン筆おろししてやれば女で人生ダメにする男も減るかもよ」


「ま、真も筆おろししてあげようかな?」


「間に合ってるからお断りします」


「弟がいつの間にか大人の階段登ってる…」


あああーウゼエ、そんなに実家に行きたくないのかよ。


「とにかく、真は明日 私と一緒にダンジョンに入るんだから泊まった方が合理的でしょ」


「はあぁ?何だよそれ、勝手に決めるな。素人と一緒にダンジョンに入るわけないだろ」


「この通り、お願いします。魔法使いの戦い方教えて」


「えっ、?‼」


あの姉貴が土下座だと?


いや、それより・・・


「姉ちゃん、もしかしてダンジョンに入ったのか?

そんで特性が魔法使いだったって事なのか」


「うん・・実は 最近配信が伸び悩んでいてね、もう美少女って歳でも無いし今後は視聴率下がる未来しか見えないのよ。それで試しにダンジョン入ったんだけど、貰えた特性がよりによって魔法使い。誰もパーティに入れてくれないの。下手なチームに入ると別の意味で危険だし・・。真も魔法使いでしょ、戦い方教えてほしいのよ」


あのプライドの高い姉さんがここまで頼むって・・・つか自分で美少女とか言うな‼


「分かったよ。教えてやるよ」


「助かったわ」


「教えるけど動画撮影は禁止な」


「ええーっ、何でよ」


やはり、この姉は俺を配信のネタにする気だったのか・・


「動画関係には懲りてるんだよ、この条件が嫌なら引き受けないからな」


この後ゴネられグズられたが無理やり条件をのませた。


そもそも撮影する暇も余裕も無いだろう。


命の危険な場所なのに『自分の目的』しか見えてない視野の狭さなのだ。

見捨てたら本当に死んでしまうかもしれない。



ちなみに、その晩、俺はソファーで寝た。




そんな訳で次の日、姉のレベル上げと戦い方のレクチャーをするために地元の七飯ダンジョンに来ていた。魔法特性持ち二人だけの超いびつなパーティである。


幸いな事にダンジョンの中では パーティで獲得経験値を公平に設定しておくと攻撃しなくても成長できる。姉にはガッツリ防具を装備させ、武器は無しで盾だけ持たせた。少し重いけど体力作りも必要だろう。


「ようっ、藤原。昨日ぶり」


「よっ、タモツも来てたのか」


「だから昨日言っただろが、今日は探索授業の実習なんだよ」


そう言えば聞いた気がする。姉のメンドクサイ案件のせいで頭から消えてたよ。


茉莉野 まりのさんは一緒じゃないのか?・・そうか気を落とすなよ」


「何を勝手に想像して俺を憐れんでるんだ。

彼女は優秀だから深い階層まで行けるパーティのメンバーなんだ」


そう言えば、学校では成績や特性で潜れる階層の深さが決まってたっけ。


命の危険が有るし学校の責任問題とは言え、外から見ると甘々だな。


もとからそんな校則無視してた俺には関係なかったからすっかり忘れてたわ。


「集合の時間だし、じゃあな藤原。

あっ後、他の学年も潜るから悪いのに絡まれるなよ」


「りょ、じゃあな」


安全性を考えて上級生も入るのか・・・余計に危険だろ色々と


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