第参十四話! 報復のマリオネット 2

 同日 午後12時33分 和光第二高等学校 正門前


 その写真は薄暗い部屋の中で両手を後ろで縛られて床に跪いた会長の写真だった。後ろの男が会長の前髪を掴み、首にバットを突きつけられて無理やり顔をカメラに向けられていた。


 見た瞬間、得体の知れない恐怖と、体の中から滲み出る怒りと殺意が溢れかえる。同じ人間がやる事じゃない! こいつらこそが人の皮を被った悪魔だ! 俺とばななは急いでカラオケから出て学校に戻った。


 「な?! なんだよこれ!」状況は写真を見て想像していたが、実際見ると思わず声が出てしまった。酷く荒らされ、地面の至る所に花壇の植物や土が散乱、その上に目障りな学ランのヤンキーが土足で踏み荒らしやがる。


 「おいあれ! 早く先輩に伝えろ!」俺を見るなり慌てて校舎に中に入って行きやがった。動きから見て1年かぁ。


 「お前ら......よくも会長を! 一人残らずぶっころ......」


 (!闘魂技発動 ハーレイズ・ファーストエンカウント!)


 「先手必勝!」横にいたばなながいきなりバットをヤンキーに投げつけ、門を踏み越えて一人飛び込んで行く!「ここはあーしが何とかすっから、速く中に!」


 「お、おう!」敵になると厄介だが、味方になるとすげぇ頼もしい! 言われた通り校舎まで一直線に突っ走る! ヤンキーの合間を縫って昇降口までたどり着くが「なっ?!」死角から現れたヤンキーが木刀で腹を殴られ脚が止まってしまった。


 「イキがんなやカス! こちとら持てる戦力かき集めとんねん!」ゴキブリ見たいにぞろぞろと校舎から出て来やがる、ぱっと見で30人は正門前に集まってる......!


 「ばなな!」ダメだ! 振り返るともう見えなくなっていた。


 「よそ見すんな日脚!」胸倉を掴まれ、囲まれて状況が把握できないままどこかに連れて行かれた後、地面に打ち付けられる。


 「く、クソがっ!」どこだここ?! 地面が土......てことはグラウンドか! 大分ばななと引き剥がされた。「なんだよ、タイマンじゃ勝てないから数でゴリ押しかよ!」立ってヤンキーどもに向かって叫んだ。


 「西なのは知っていたが、まさかとはなァ!」すぐに追ってきて周りを囲まれる。


 「はぁ?! なんの話だ! それよりも会長をどこにやった!」


 「黙れ女たらしがァ!」1人が俺に飛び掛かり思い蹴り喰らわされ、周りのヤンキーに寄り掛かってすぐに顔を殴られまた地面に倒れ、「今だ! 起き上がらせんな!」掛け声と共に一斉に倒れた俺を蹴り始める。


 「うぐっ......ぐはっ!」詳しい数は分からないが四方八方から全身を蹴られ、なすすべがなく自然と両手で頭を守る事しか出来ない。


 今は......耐えるしかない! 耐えて......耐えて......一瞬の隙をついて覆してやる! 奇しくもその瞬間はすぐに訪れた、偶然にも足並みが揃い一瞬攻撃が止まった。「今だァ!」すぐに起きあがり、強引に間から抜け出そうと試みたが......「クソッ?!」制服の襟を掴まれ地面に叩きつぶされた。


 そして1人がすぐに馬乗りになって、「死ね、日脚!」俺の髪を掴んで顔を殴りだした。頬に当たり、痛みで視界が霞み頭の中で金属音が鳴り響く......「オラァ! 調子に! 乗んな! クソ1年が!」絶え間なく続く一歩的な蹂躙。俺の意識が無くなるまで......あるいは死ぬまで続くプライドの攻撃。


 「ぐっ......」


 「はぁ......はぁ......死ねゴラァ!」最後の一撃を受ける時には、俺は意識を保つので背一杯だった。堕ちてたまるか......そう自分に言い聞かせた事でなんとか意識を保つことが出来たが、殴られたダメージで目を開ける事しか出来なくなってしまった。


 「もうその辺でいいだろ、これ以上はホントに......」


 「わかっとるわ!」仲間の仲裁が入り殴るのをやめた。「おいばななはちゃんはどんな感じだ?」ばなな......流石に1人であの数は裁けないだろう、運よく逃げてくれればいいんだが......


 「よんだ? あーしの事」嘘だろ......まさかホントに?! なんとか声のした方を向くといつもの余裕のある涼しい顔で大勢のヤンキーを引き連れていた。「も~マジで頼むよ、ちゃんと作戦の概要行き届いてるの?! せっかく日脚騙して来たのに殴られるなんて聞いてないし~」


 え......騙す......作戦? なんで東高のヤンキーといるんだ? なんでよ作戦って?! 「バカ騒ぎしか脳がない連中だ、多めに見てやてくれ」なんで俺を殴ったヤンキーと馴れ馴れしく喋ってんだよ!


 「ごめんね~日脚、でも騙される方が悪いんだよ。それよりさぁ、会長ちゃん見つかった? まだならあーし見てるから探してきてよ~」倒れた俺の元に近寄り、あざ笑うかのように見下ろす。


 「おいテメェ何仕切ってんだよ! おめぇが探してこい......」体の内から煮え切らない悔しさと殺意が増加し、1人がばななに悪態をついた時。ポケットのスマホから着信がグラウンドに鳴り響く。この着信音は......会長の?! すぐにばななに奪われ通話に出た。


 「人の皮を被った悪魔よ......」画面は見えないがさっきの奴の声だ!


 「なに勝手してんだ!」


 「ちょっと!」すぐにヤンキーに奪われ「バカな女だ、これから捕まるのにわざわざ自分から、場所を教えて......」何人かがスマホの画面を見て静かになった。今更白々しいことしやがって......「なんで俺らより先にカモ高の生徒が会長捕まえてんだ?!」


 はぁ?! 何言ってんだ......「ヒィッ! ど、どうやら出来なかったみたいだな......まぁ無理も無いか、所詮ウジ虫程度の存在......奇跡の積み重ねで悪魔になったと勘違いした哀れな害虫......遠くから見ててホントにスッキリしたよ......でも楽しい宴は続かない......俺の手で終わらせなければならない......まだ生きてるか? 今から親虫の息の根を止めてやる!」


 止せ......それだけはやめろ! 「う......っく!」


 「やるぞ......やってやる......はぁ......き、きあああああああああああ!」


 「やめろォ!!!」


 「っふんァ!」金属バットで人を殴る生々しい衝撃音がスピーカーから流れ出て、驚いたヤンキーが地面にスマホを地面に落とした......


 「あぁ......! えあぁ......! うぇあ......!」耳元で鳴り響く日常的に聞く人が殴られる音......画面がひっくり返て見えないが、自然と情景が頭の中で映像として再生される......殴られるたび体が小刻みに揺れて傷口から血しぶきが周りに飛び散る......俺の目は落ちたスマホから離れなくなっていた。


 「はぁ......はぁああ......ああああああ! あああああああ! きれ......カメラ切れぇよぉ!」バットが地面に落ちて反響する音と一緒に、スマホから音が一切聞こえなくなった......


 「今ので......死んだよなぁ......」ヤンキーの声が聴こえて、頭の中の映像が消えた......


 「おいおい殺人なって聞いてねぇよ!」殺人......人殺し......殺人......人殺し......


 「少し痛めつけるだけだろ! ムショなんかに入りたかねぇよ!」人が死んだ......人が死んだ......人が死んだ......人が死んだ......


 「どうすんだよこれから! 逃げるなら今だぜ......今ならサツがいねぇ!」死んだ? 誰が? 死んだ? 誰が?


 「......ずらかるぞ。いいか、生徒会長の事聞かれても......なにも知りませんでしたって言えよ」生徒......会長......死んだのは......会長......会長......会長?! 


 会長の名前を聞いた瞬間。会長と初めて会った時の記憶が脳裏に蘇った......入学式でのスピーチ。生徒会室で長々での会話。責任感じて落ち込んで立ち直った。くだらない嘘にツッコんだり。言い争ったり。笑い合ったりした。


 「日脚......クソがぁア!」


 「テメェ! いきなり何すんだ!」


 「嘘だよバーカァ! あーしが学ランヤンキーの仲間な訳ねェだろ! 最初から会長と日脚についてたんだよ!」


 「この尻軽女がァ! ばななが裏切った! !」


 そんな会長が死んだ。顔も知らない輩に突然殺された......殺された......殺された......殺されたァ! 


 「起きろ日脚! 会長殺した畜生はまだ学校にいる! ここはあーしに任せて、見つけて仇を討ちに行けよ!!!」


 畜生を......殺せ......仇を......討て......この言葉が脳裏の会長の顔と合わさって、俺の中の何かが......した。


 (!石浦瑛馬を殺した畜生を殺せ!)


 「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」波打つ鼓動が引き金を引いて空に咆哮を放つ。その咆哮には俺を支配するすべてが詰まっている。怒り、憎しみ、殺意。プライド闘魂技が俺に語りかける、石浦瑛馬を殺した畜生を殺せって! 闘魂技プライドが俺に語りかける、新しい闘魂技を使えって!


 (!闘魂技発動!)


 すぐに起き上がり、標的を決めて走って間合いに入り込んで飛び掛かり、顎に命中して一蹴りで仕留める!


 (!闘魂技 豪脚一閃!)


 いつもの蹴りとは違う......この蹴りには、刃の如き殺意が秘められている!

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