第参十話! 薄暗い過去、松井******

 同日 午後17時3分 和光第二高等学校 1階 保健室


 「いってえ!」


 「ちょっと動かないでよ日脚君!」あの後会長に支えられながら何とか学校に戻ってこれた。そのまま喧嘩で負った怪我を癒そうと保健室に寄ったが、学校外で負った傷や怪我は見てやらんと保険室のおばさんに言われてしまった。会長の必死の抗議にも屈さず、折れて自分たちで治療する羽目となった。


 「顔終わり、後はどこ?」


 「やっと地獄の消毒液責めが終わった・・・綿に仕込ませる量多いんすよ」


 「しょうがないじゃん! やった事ないんだから! で、どこ?!」


 「肩と腹が酷い・・・」


 「なら自然治癒で治して」


 「いやめんどくさがらずに見てくださいよ・・・」


 「体なら自分で見ながらやってよ!」


 「・・・それもそうすね」よく考えたら会長の前で裸になるの嫌だな・・・さっき顔やってもらった時近すぎて不覚にドキドキしてしまった・・・


 「バカモン! アンタ生徒会長でしょ! 傷だらけの生徒ほっとくんか?!

?!」後ろから保健室の先生が怒鳴ってきた。


 「怒鳴るんだったらやってくださいよ! 先生でしょ! 傷だらけの生徒ほっとくんですか?!」


 「大体喧嘩して出来た怪我でしょ! うちは不良校じゃないんでね、道具貸してやるだけありがたいと思え」


 「ぐっ・・・おほーつくババアがぁ」この時間帯、会長がここまでキレてるの初めて見た・・・「痛いんでしょ、速く脱いで日脚君」


 「は、はい・・・」おっかねぇ。恐る恐るシャツのボタンを開けて上裸になる。「どんな、感じっすか?」


 「いや・・・血ぃ出てないし、痣が酷い・・・だけだね」


 「そ、そうすか。じゃあ湿布貼ってください」なんだろう・・・この気まずい空気は。心なしか会長の顔少し赤らんでる・・・あっ、答えはすぐにわかった。


 「肩は貼るけど、お腹は・・・自分で貼ってね」会長にも人並みの感覚がある事がわかって少しホッとした。先天的に欠如した人なのかと思って心配した・・・「はいこれ」


 「あざっす」湿布を渡され腹に綺麗にシワなく貼る。久しぶりに味わったこの独特の匂いと冷たい刺激。感覚が肩にも伝わってきたが・・・なんか気持ちが悪い、触ってみるとシワッシワだった。「ちょっと!」


 「しょうがないじゃん! 剥がすと引っ付くんだもん!」


 「全部剥がすんじゃないんすよ、まず真ん中の小っちゃいの剥がして貼って、その後に残りを貼り付けながら剥がすんすよ」


 「だ、だって使ったことないんだもん・・・いつもママンが貼ってくれるもん」ママンって・・・独特な呼び名だな。「他には?!」


 「後はもう大丈夫っす」時折体に視線を感じながら急いでシャツを着る。


 「まさかこれから日脚君が怪我したら私が治療するの・・・」


 「保健室の先生がこれじゃあ、そうなりますね」


 「マジか・・・でもたまになら目に保養になるか」


 「今本音出ましたね」小声で言ったつもりだけど、しっかり聴き取ったからな。


 「た、! っていたの。毎回怪我してこないでよ、余計な仕事増やさないで!」慌てた様子で保健室から出た。


 「そんな無茶なぁ・・・」俺も急いでブレザーを着て保健室から出ようとした時。


 「日脚君、お客さん」出てったはずの会長がひょっこり戻って来た。


 「お客さん?」保健室を出て会長と一緒に昇降口で靴に履き替えてる時、ふと正門前を見てると見た事ない形の車が止まっていて、その前に1人立っていた。「会長、あれってまさか・・・」不意にも最近どこかで見た事のある人たちだった。


 「くれぐれも粗相の無いようにね、日脚君」意を決して会長と正門に歩み寄る。近づくにつれ、得体のしれない気配に襲われ足取りが重くなる。それでも何とかたどり着いた。


 「突然の来訪、ご迷惑をおかけして申し訳ございません」こんな形でうちに来る人なんて西高生徒会長、さんしかいない! お辞儀をしただけで土下座してしまいそうなこの妙な感覚はこの人にしか出せない・・・


 「い、いえいえ! 全然全然! そんなご迷惑だなんて!」うちの会長がこうも下手に出るなんて・・・「あのこれ!」


 「ちょ、会長?!」内ポケットから素早く5万円を取り出して差し出した。


 「せ、先日はうちの生徒の為にわざわざありがとうございます! けど・・・誰かに絵の具買われて結局使わなかったので、お返しします!」数時間前までネコババしようとしたのに改心したんすね。


 「それは私では無く、ご本人にお返ししたほうが良いのでは? 確か窃盗犯捕まってませんし、捕まったとしても盗品の返却義務ではないのでご本人にお渡ししたほうが・・・」


 「おっしゃる通りですね! 生徒会長石浦瑛馬が責任を持ってお渡しします!」


 「はい、よろしくお願いいたしますね」もの数秒で考えを変えられてしまった・・・絶対またネコババするぞ。「ではそろそろ本題に入ってもよろしいでしょうか?」


 「はい、どう・・・」


 「どういったご用件で来たんですか?」このまま会長に喋らしたらまずいと判断し強引に話に割って入る。


 「先ほど駅前広場で東高のヤンキーの襲われていたところ助けていただいたと美保ちゃんからお聞きしましてまだお礼を伝えてなくて、直接伝えたくてお連れしました」そう言って車の後部座席のドアを開ける。


 それよりもって誰だっけ? あの3人の内の1人なのは間違えないんだが・・・ホントヤンキーってまともに自己紹介しないから誰が誰なのかわかりゃしない。


 「うちだよ!」車から降りてきたのは、リーダー的位置の褐色スケバンだった。この人が美保ちゃんか、よし覚えた! でもあの時と違って右手がギプスに覆われて首から垂らしてる。


 「その腕・・・」


 「指の付け根全部折れてな、当面の間スケバンとして活動出来ねぇ」


 「マジか・・・」最後痛みでまともに立ててなかったもんな。「まぁお大事に」


 「お大事にね・・・美保ちゃん」


 「もう聞き飽きたよその言葉。まぁ、その・・・あの時は助けてくれてありがとう。借りは作りたくも無いしすぐ返したいかよ、その日のうちにデカく返したからな!」


 「いつ?!」


 「私が大量のスケバン連れてカラオケに来たじゃん? 日脚君攫われて路頭に迷ってたら、どこからともなく現れて加勢してくれたんだよね」


 「アレがそうだったのか?!」


 「お陰で店にいたギャルども全員ひっ捕らえたぜ! 煽りじゃないけど、攫われてくれてありがとう!」満面の笑みで言われても、表情と言葉が合ってないよ・・・「でもあのばななは逃げられてしまったけど」今もこの町の何処かにいるのか。


 「そっかぁ、わざわざありがとな!」意外と話したらいい奴だなスケバンって「俺たちと同じ目的同士これからも助け合って・・・」


 「日脚、悪いが今後町でうちらスケバンが絡まれて、やられそうになっても見て見ぬふりをしてくれ」


 「えっ・・・なんで?」


 「手を組んでると思われたらどうなるか考えてみろ」


 「考えろって・・・うん~戦力が増えて生徒守りやすくなる?」


 「だったらとっくにやってるよ! 残酷にも今の均衡を保つには、4つの高校がお互いいがみ合わないといけない。仮にここで手を組んだら、残りの学校全員が敵になって今以上にうちの女子生徒が狙われてしまう。お前の所も同じ、だからお互いの為にもこれ以上関係を持ちたくない」


 なんか、一気に難しい話になってしまった。「や、ヤンキーなんてただ悪い事してイキがってるだけの集団なんじゃねぇのかよ?」


 「本来はそうなんだろうけど・・・聞いた話ではは他とちょっと違うんだ」


 「なんで?!」


 「知らん! うちも先輩から浅く聞いただけだ! これ以上いると密談だと思われる!」そう言って慌てて車に戻ってしまった。


 「おいまだ話が!」手を差し伸べようとしたが、成田さんに阻止されてしまった。


 「申し訳ございませんが、もうそろそろ・・・」


 これ以上の話は出来そうにない「あ、すいません。つい熱くなってしまって・・・」


 「この町は、少々を持っているので仕方がないと言いますか・・・」


 「薄暗い過去・・・なんすかそれ、ヤンキーと何か関係が」


 まだ聞きたい事がある、もっと追求しようとするが「日脚君、もうこの辺にしよう」会長に腕を引っ張られ止められた。


 「では、失礼いたします」深々と俺たちに頭を下げ、車に乗り込んで走り去って行った。


 この町の。小さな脱線した小話が、いつの間にか脳裏にこべりつくほど大きな話となってしまった。10も住んでるのに一度も聞いた事が無い。ただの町の歴史なんだろうけど、なぜヤンキーの話でそれが出て来るんだ?


 「会長、知ってましたか?」1年だけだが俺よりもこの町に詳しい、会長の顔を向いて答えを求めて聞いてみた。


 「・・・・・・私も初めて聞いたよ」真っすぐ揺らぎのない目で俺を見ながら答えた。表情もどこか驚いたような感じだった。


 「そう・・・なんすか」会長も知らないのなら、俺と近い世代は全員知らない。これ以上考えても無駄か、いつか全貌が見れると信じ脳裏の片隅に閉まってこの日は家に帰った・・・

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