第弐十弐話! 2019年に出来た和光市の新たな名物クマさんクッキー! 発売と同時にキュートなポージングとつぶらな瞳でヤンキーも大人しく買う程バズった! 味は普通のクッキーと変わらないもよう

 4月13日 午前12時34分 和光第二高等学校 1-1教室


 「おい、日脚。 もう授業とっくに終わってるぞ」 


 うぅ・・・頭が勝ち割れそうだ。この声は島根先生かぁ。起きて机から顔を挙げると、ジャージ姿で立っている。「頭がズキズキするんで、そっとしといてくださいよ・・・」


 「やっぱ今日は帰った方がいいんじゃないのか? もう今週は安静にした方が」あの喧嘩の後、目を覚ましたらまた市民病院にいた。ビール瓶で2回も殴られたり、スタンガンも喰らったりしたけど、言うほど重症じゃないんだって。結構頑丈なのか、俺? 毎年冬にインフルにはかかるけど・・・


 「あの会長、今週ずっと駄々こねますよ」医者もみんな口を揃えて休めと言われたんだけど、会長がそれを許してくれなかった。1  と、相変わらず生徒の鑑と思えないような発言かましながら、病院で怒鳴られた。


 まぁ事実、俺が学校に来る事でヤンキー達の抑止力として機能しているとしった。去年まで正門前でたむろしてたみたいなんだけど、俺が来てから一切それがなくなった。成果が出るのはうれしんだが、簡単には休めなくなった・・・インフルでも無理やり来させるのかなぁ。


 「まぁでも、あまり無茶するなよ。しんどくなったら何時でも言えよ」


 「う~す」心配そうに俺も見ながら去って行く。


 てかもう昼休みなのか。今日も今日とて、おにぎり2個持って人気のないとこで食べるか。俺は重い脚どりで会長の部屋へと向かった。


 「なんだこの音?」月美先輩のアトリエから授業で聞いた事のある音楽が聞こえる。作業用BGMのオペラみたいな上品な曲、絶賛作業中みたいだ。邪魔にならないよう静かに入る。「隣だから微かに聞こえるなぁ」さっさと食っちまうか。


 この部屋を見て感じる既視感はなんだ? ここに来る時いつも思ってしまう、この妙に生活感の漂う部屋。隣のアトリエは教室を使ってるけど、ここは広くも無いしむしろ狭い、隣の半分ほどの広さ。右側にはスライド式のドアの付いた押入れがある。

 

 何が入ってるんだろう、おにぎりを全部口に入れて押入れを開ける。「なんだこれ?」ノーパソにゲームのコントローラ? 他には大量のDVDに替えの服?! 会長ここに住んでるのかよって思うほど学校には必要のない物が詰め込まれている。


 「下には布団が入ってたりして・・・マジであったよ」3つ折りのの上に綺麗に畳まれた布団一式があった。「これだけかぁ・・・」マットレスを引っ張て前に出す。


 「・・・・・・」な、何もやましい事は考えてないぞ! 流石に俺は節度ある人間だ、あんなオタクラノベの主人公どもみたいに嗅いだり、寝てみようなんて思ってないからな! 


 でも横にはなりたいなぁ・・・正直、下のマットレスだけ使おう。布団の形が崩れないよう慎重に落として、床の隅にマットレスを広げる。「うっ・・・!」これ体育館にある奴じゃん、一度は誰しも嗅いだ事のあるカビ臭い異臭が鼻に入って来る。


 今日だけだしな、布団使って文句言われるよりかは我慢したほうがマシだ。意を消して横たわる。


 「あぁぁ・・・」これだよこれ。朝から俺が求めてた快感は、体に溜まってた疲労が一気に解放されていく・・・


 あぁ気持ちぃ~寝ちゃいそうだ。別に今日は寝てもいいよな、先生も無理するなって言ってたし・・・薄っすら聞こえてくる音楽と共に自然とまぶたが閉じていく・・・




 同日 某時刻 和光第二高等学校 某所


 なんだよ・・・なんだよなんだよなんだよ! なぜこうも上手く事が進んで行くんだ! の計画じゃ、月美がコンテスト辞退して石浦の株が下落するはずなのに! なんでこうも上手く軌道修正されるんだ?! 


 美術部のバカ女どもの中じゃ石浦と日脚は月美を救った英雄ヒーロー扱いだ! 何が英雄だ、日脚は正義の不良ヤンキーヒーローで、石浦はその司令官コマンダーてか!


 笑わせんな・・・不良の存在そのものが害悪である事をなぜわからない! そしてそれを顎で使う石浦も同罪・・・なんだ電話か?


 「なんだ?」


 「計画が一部失敗してしまった」


 「だろうな、日脚がヤンキーに勝って月美は絶賛作業中だ。どうすんだ! 次に移せないぞ!」


 「計画なんて目標達成までの道しるべにしかすぎん。昨日日脚は瀕死の重体を負ったが、今どんな様子だ」


 「わかんねぇ。まだ見てない」


 「なら様子を見て知らせろ。それを元に再度計画を練る」


 「頭を瓶で殴られてスタンガンを当てられたんだ、多分今弱ってるとなんじゃ」


 「推測論に頼るほど愚かじゃない。情報常に正確でないといけない」


 「おい、もしもし?!」突然切りやがって・・・




 同日 午後14時50分 和光第二高等学校 2階 2-2教室


 かぁぁぁ~やっと授業終わった・・・ホント6限目社会とか辞めて欲しいわ。ずっと先生の話が子守歌に聞こえちゃってしょうがない・・・さて! 切り替え、切り替え! 今日は少し早く帰ろうかな~


 「あの、石浦さん」


 「うん? 何?」立とうと思ったら当然同じクラスの田辺さんに話しかけられた。


 「昨日はホントにありがとう。月美先輩立ち直らせてくれて」月美先輩と同じ美術部の後輩。大人しい子で何回かしか喋った事が無い。


 「ふふん、それが学生の代表として当然の事をしたまでだよ」


 「それで、これ。ほんのお礼の気持ちだけど、受け取ってください」


 「えぇいいの! そんなお礼だなんて! 大した事やってないよ」紙袋の中身はクッキーの詰め合わせ。普通のクッキーじゃなくて、駅中にあるちょっとお高いお菓子屋さんのクマのクッキー。ディフォルメクマさんがキュートなポーズとっててかわいいのよ!


 「良かったらその、さんと一緒に食べてください」


 「ホントにありがとね!」正しくなんだけどね。「昨日マジかで日脚君見たけど、どうだった?」


 「えっと・・・どういえばいいんだろう」


 「怖いなら遠慮なく言っていいよ。今日脚君をクッキーのクマさんみたいにキュートな格好にしようか考えてんだよね~」まぁ嘘だけど。


 「確かにちょっと怖かったけど・・・周りにいる不良と比べたら、意外と普通の人なんだなぁ~って」


 「そうっか、まだちょっと怖いか」まだちょっと近寄りがたいか、打ち解けるまでちょっと時間が掛かるか。「うん、やっぱりクマちゃんの格好させよう! クッキーありがとう! 日脚君にもお礼言っとくねぇ」田辺さんにお礼を告げて私の部屋へと向かう。

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