第十九話! 口は簡単に嘘を付く、しかし体は嘘を付かない。どうせ自分には才能が無いからとかくだらん事考えてたようだが、俺から言わせてみれば人生で一番役に立たん!
同日 午後15時18分 和光第二高等学校 月美のアトリエ
多くのギャラリーが見守る中、意を決してアトリエに踏み込む。中は電気がついてなくて黒のカーテンのせいで僅かな光しか差し込まない為とても暗い。
「月美先輩」
「・・・・・・」返事がない。暗くて何がなんだかわからないので、恐る恐る窓まで行って、カーテンを勢いよく開ける。
「きゃあ! 何勝手に開けてんのよ! 西日が入るから開けないでって言ったでしょ!」開けた瞬間太陽の光が部屋全体に差し込んで来た。
「なんでですすか?」床にぺたんと座っていて、まだこっちには気づいていない。
「西日で作品が日焼けするからでしょ! そんなの常識・・・」
「でも見た感じ、もう作品が何処にもありませんよ」作品だったものがビリビリに破られて床の至る所に散乱してある。
「あ、アンタ! 何でこんな所にいるの! 早く私のアトリエから出てってよ!」やっとこっちに気づいてくれた。
「もう先輩のアトリエじゃないですよね、ここ」
「そうだけど・・・ほ、ホントに何しに来たの?」
「・・・実は」
「き、昨日の首絞めた事ならあたしが悪かったから許してよ! だから変な事しないで・・・!」
「いやしませんよ! 別にそんな強く無いんで怒ってないですよ」ホントはメチャ苦しかったけど「実は先輩がコンテスト諦めるって聞いたんで、心配して来たんですよ」俺も先輩と向かい合う形で床に座る。
「ヤンキーが陰キャ女の心配なんかしてんじゃねぇよ」座った瞬間少し後ろ引かれた。
「・・・・・・」う、やっぱり喉に言葉が詰まる。前からも、後ろからも鋭い視線が突き刺さる。
「な、何よ、見んなよ」なにか言い出さなきゃ! もうここまで来たんだから吐き出せ!
「俺、小一から中三までずっとサッカーしてたんだよ! でさ、全国大会とか勿論あるじゃん!」
「あ、あるけどさぁ・・・」
「俺そんなに強くないからさぁ、出ても毎年予選で負けて帰って来るんだよね。だから中三の時、もう大会に出たくなくなって、一人で落ち込んでたんすよ。出てもどうせ予選で敗れるし、って言い訳して部室でゲームしてたんですけど監督に見つかって頭グーで殴られたんすよ! 令和の時代に体罰すよ」冗談交じりで話すが、先輩の顔は一ミリも柔らかくはならなかった。
「何が言いたいわけ」
「えっと、俺も何で昔の事話してんだろう・・・」もう一生話すつもりは無いって決めてたのに。
「必死にヤンキーじゃないアピールしてるようにしか聞こえないんだけど。そんなつまんない話をする為に来たの!」
「ち、違うよ! いやヤンキーじゃないのは違わないけど・・・とにかく、その後監督にメチャ怒られてさぁ。何で練習しなんだって、練習したってどうせ予選で負けるし。じゃあ諦めて辞めるかって言われて、思わず二つ返事で辞めますって言って監督と部室に行って道具整理しに行ったんだよ。そしたらどうなったと思う?」
「知らんよ・・・」
「動けなくなった。急に体が固まって、言う事聞かなくなって後ろから監督にこう言われたんだよ。口は簡単に嘘を付く、しかし体は嘘を付かない。どうせ自分には才能が無いからとかくだらん事考えてたようだが、俺から言わせてみれば人生で一番役に立たん! って言われたよ。先輩も考えてるんじゃないんですか?」
先輩の顔を見ると、図星を付かれたように下を向いた。「その顔、監督に言われた時と同じ顔ですよ」
「で、でたらめ言ってんじゃねぇよ! 自分の顔なんかわかるわけないだろ!」
「正確にはたまたま鏡に自分の顔が映ってただけなんすけど・・・とにかく! あの後目が覚めて必死に練習して全国行ったんすよ! 毎年予選敗退の弱小校が全国行ったんですよ!」
「で、全国のどこまで行ったの?」
「えっと・・・」ここは大きく盛って「そりゃあ、勿論優勝に決まってんじゃん!」ここまで来たんだ、もう後には引けない。
「絶対嘘じゃん・・・」
「ホントだってば! ニュースにならなかった? 和光中、奇跡のジャイアントキリングって!」
「知らんよ! そんな小さな記事のニュース! 結局アンタの自慢じゃん!」
「自慢じゃねぇよ! メッセージ含まれてただろ、最後まで諦めるな! 才能なんて関係ない、全ては自分の努力で決まるって!」
「努力でどうこうなる世界じゃねんだよ! 芸術の世界はねぇお金で決まるのよ! 小さい頃から高い金払って絵の描き方を学んで、何万とするブランドの筆と絵の具とキャンパスを買って貰って初めて土俵に立つんだよ! そしてその中でもひと際目立つ才能を持ったボンボンが賞やコンテストに入賞して、あーてぃすとになって大金を稼ぐんだよ! これが芸術の世界の常識なんだよ! あんたみたいな脳内お花畑の球しか追いかけないクソガキが、偉そうにしてんじゃねぇ!」次第に熱くなって立ち上がって上から目線で言い返して来た。
「そんなのサッカーだって同じだよ! 全国にも出れば周りは全員いい設備で練習してよ、元プロサッカー選手が監督だらけの中で戦い抜いて、弱小校が優勝まで這い上がってやったよ! ジャイアントキリング見せつけてやったよ!」俺も熱くなって立ち上がって胸を張る「先輩もジャイアントキリング見せつけてやればいんだよ! 先輩だって何度か入賞した事あるじゃないですか!」
「あるけど・・・どれも小さいのしか」
「大きさなんて関係ないですよ! 入賞した実績がある事は実力がある証拠です! これまで培ってきた経験を! 努力を! あの金持ちのガキどもに月美先輩の作品を見せつけてやりましょうよ!!!」はぁ・・・はぁ・・・もうこれ以上の言葉は俺の口から出てこないぞ! 叫び過ぎて喉が痛い。
「無責任な事ばっか・・・言いやがって!」突然思いっきり右頬をビンタされた。「散々偉そうな事私に言っといて、これで落選したら殺して・・・私も死んでやる」口から飛んでくる物騒な言葉は、どこか初めて会ったあの時の言葉と似ている。流れた涙を拭いて部屋から出て行った。
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