第十七話! 「諦める」は一言で簡単口で言える! しかし口は平気で嘘を付く! 

 ハァ・・・ハァ・・・着いた。うぇ、吐きそう・・・「か、会長! つきまひた」


 「日脚君!」トイレ前には確かに会長と月美先輩の姿があった。「さっきね、警察と一緒に防犯カメラ見たんだけど、犯人は南高の生徒だって!」


 「み、南高?!」なんでここでそれが出るんだ? 


 「でも肝心のは写ってなくて。一応被害届出して、後で南高にも問い合わせて絶対取り返してやる!」


 「もう必要ないですよ!」ポケットから5万円を取り出す。「お金なら、途中で親切なお姉さんに貰いました! これで絵の具買えますよ、先輩!」そのお金をソファーに座っている先輩に差し出す。


 「日脚君! いくら取り返せないからって、カツアゲはダメだよ!」昨日盗んだ金でステーキ食った人が何を言う!


 「ホントですって! 西高の生徒会長、成田・・・何とかさんに事情説明したらたまたま貰ったんですよ! さぁ買いましょうよ先輩!」あれ? 先輩の手を見ると渡したはずの箱持ってない。


 「もういい・・・」


 「先輩、箱は? 絵の具のはこ」


 「とっくに売れたよ! あの後店員に商品の独占はダメですって取り上げられて、また見に行ったら無かったんだよ!」目に涙を浮かばせながら、鼻声で怒って来る。


 「店員が間違えた位置に・・・」


 「聞いたよ! 聞いたらさっき売れましたって! 在庫も最後の1個で、次の入荷は来週の金曜日だって!」


 「そんな・・・」なんであんな高いのが売れるんだよ。


 「あぁもう最悪だよ! 不良に襲われるわ、財布は盗まれるわ、絵の具は買えないわ! なんで私だけこんな目に会わなきゃならないの!」


 「ちょっと先輩、落ち着きましょうよ。絵の具なんて他にもあるじゃないですか」


 「あの絵の具じゃないとダメなんだよ! 知ったような口聞くな!」いきなり立ち上がって俺にどついてきた。「不良に何がわかるのよ! あんたみたいなのが町にわんさかいるからこんな事になったんでしょ! 返せ! 返せ! かえせ!!!」恨みと殺意のこもった先輩の手が、俺の首に強く締めて来る。体が支えきれず、その場に倒れてしまう。


 「先・・・輩」い、息が出来ない・・・


 「辞めてください先輩! 日脚君が死んじゃいます」会長が引き剥がそうと後ろから止めに入った。やがて段々と弱まり、少し正気に戻ったのか首から手が離れていく。


 「げほっ! げほっ! げほっ!」死ぬかと思った・・・


 「かえしてよ・・・私の絵の具と、将来をかえしてよ・・・」自分がやって事を理解したの、俺の胸元に顔をうずめてまた泣き出した。首を絞めてしまった謝罪の涙なのだろうか、自分の将来が閉ざされてしまった悲しみの涙だろうか、俺にはなんで泣いてるのかわからなかった。ただ複雑でモヤモヤとした気持ちと涙でシャツが肌に張り付く不快な気持ちが俺の中に生まれたのは事実。


 「先輩、とりあえず今日は帰りましょ」会長が優しく先輩を引き剥がす。「日脚君も今日はもう休んで、また明日学校で会いましょ」そう言って先輩の背中をさすりながらエスカレーターの方へと歩き出した。


 


 4月13日 午後12時13分 和光第二高等学校 屋上


 4限目が体育だったせいで昼飯の時間が少し遅れた。早いとこ人気のない所に行かないと、誰かに一人で食べてるところ見られちゃう。カバンからおにぎりが2個入った保温バックと水筒を持って教室を出て、屋上に繋がる階段を駆け上る。


 開いてるといいんだが・・・なにせトイレ行った時に思いついたからな、鍵が掛かってたら扉の前で隠れながら食わないといけなくなる。


 「頼むよ・・・開いてくれ!」ドアノブを握って開けようとしたら、タイミングよく反対側から誰かが開けてきた。


 「うわっ!」


 「ヒィっ!」一瞬バレた! かと思ったら制服を着た生徒だった。


 「なんだ・・・びっくりした~」良かった~生徒で。そのまま何か言いながらすれ違って降りて行った。


 何だったんだ、あの人。まぁいいや、屋上に出て適当な場所に腰かけて食べ始める。朝眠い目を擦りながら作った塩むすび、何とも質素な飯だな。母さんに頼んで弁当作って欲しいけど、なぁ・・・いっその事自炊男子になってみようかな! 


 「自分、毎朝お弁当作ってるんですよ~。きゃあー日脚君凄い! 私も作って欲しいな~」


 3日で辞める自信あるわ。どうしてもが浮かんできちゃうなぁ・・・空でも見るか。


 「・・・あ、飛行機雲だ。あっちは、何の形にも似てないなぁ」


 ダメだ。もうネタが無い・・・妄想癖とか無いし、他に考える事も無いし、自然と昨日の事を考えてしまう。


 「先輩・・・大丈夫かな」会長からも連絡が無いし・・・絵、諦めるのかなぁ。そんな事を考えながら空を見ながら食べ進めていく。


 「ガチャ!」


 やべ! 誰かきヒィッ! た。慌てて陰に隠れヒィッ! おにぎりが喉に詰まってしゃっくりが出てしまう。


 足跡がゆっくりと咄嗟に隠れた場所まで近づいて来て「やっぱり。日脚君! 屋上は立ち入り禁止だよ!」あっさりと会長ヒィッ! に場所がバレてしまった。


 「ちょっとまっヒィッ! お茶を飲んでから・・・」慌てて水筒のお茶を飲み干す、「はぁ~やっと止まった・・・」


 「なんでこんな所で食べてるの? 食堂か教室で食べればいいのに」


 「人目がある所で食べたくないんですよ」


 「なんでよ? 昨日食堂に来てたじゃん」


 「あれは安西に無理やり連れてかれたんすよ。この学校での俺の立場わかってます? みんな俺を蔑んだ目で見て来るから、ここしか居場所が無いんですよ」


 「日脚君も感じるんだ・・・見た感じ鈍感そうだからだから感じないと思ってた」


 「人を見かけで鈍感と判断しないでくださいよ・・・ところで、注意だけしに来たんですか?」


 「ううん。ちょっと月美先輩の事話そうと思って」


 「また何かあったんですか?!」


 「落ち着てよ、とりあえず座ろ」そう言って俺と会長は、さっきまで俺がご飯食べてた場所に座った。「月美先輩、コンテスト諦めるって」


 「え? なんでなんすか」


 「もう送っても入賞する確率が低いんだって」昨日財布なくした時そんな事言ってたような。


 「やっぱり、絵の道って厳しいんですね」


 「それもあるけど、一番は原因は先輩の家庭環境かもしれない」


 「先輩っの家庭環境?」


 「学校近くのコンビニアッとホームあるじゃん。お母さんそこのオーナーなの」


 「えぇ?!  マジっすか?!」もしかして、この前のヒステリックなおばさんが?!


 「あのコンビニは東高のヤンキーのたまり場なのよ。朝も夜もいるからヤンキー以外のお客が入らなくて、売り上げが悪くて。オーナーがほぼワンオペ状態一人で店を回してるだから、自分も入って少しでも楽にさせてあげたいんだって」結構な重い話になって困るな・・・


 「まさか、店奪還して来いだなんて言いませんよね」


 「いくら何でもそこまで言わないよ。でも日脚君がどうしてもやりたいなら、無理には止めないけど」


 「自分の身の丈は常に把握してますよ」


 「でも策はあるよ!」目を光らせ、空気を切り裂くようにこっちを見る。


 「どんな策ですか?」


 「それはねぇ・・・」


 「それはねぇ・・・?」


 「・・・・・・放課後までに考えとく」期待した俺が馬鹿だった。「何よその目。異論があるなら単騎でコンビニ突っ込まコマンドーせるわよ!」


 「放課後まで大人しく待ちます・・・」


 「それでいい。じゃあ最後に」ポケットからサングラスのキーホルダーが付いた鍵を渡され。「生徒会長室私の部屋自由に使っていいから、もう屋上使っちゃダメだよ」そう言って立ち上がって屋上から出ようとする。


 「あ、あざっす!」って、言い終わる前にいなくなってるし・・・

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