第十六話! 他人の助力無しには頭は冷やせない! 

 「髪の長いヤンキー・・・髪の長いヤンキー・・・何処だ!」イデヨカの外に出てきたが、外には待ち伏せてはいなかった。「ヤンキーの癖に逃げんのかよ」とりあえず会長にこの事を知らせないと、スマホを出してリクトモで電話を掛ける。


 3回着信があった後「もしもし?」会長が電話に出た。


 「会長、俺です! 日脚です! ちょっと緊急事態になって」


 「どうしたの?」


 「月美先輩のトイレ行ってた間に財布がヤンキーに盗まれたんですよ!」


 「え?! ホントに!」


 「今イデヨカ3階で待たせて犯人探してるんで、何とか学校に掛け合ってお金持って来てくれません? 5万円するんですけど」


 「ごごご5万?! わ、わかった! 何とかしてみるよ!」


 「じゃあ後で合流しましょう!」電話を切って髪の長いヤンキーの捜索を始める。


 実は一人だけ心当たりがある。東高の蛇と名乗るキモロン毛と西高のばななと名乗る女。この2人のどっちかに違いない! まずはキモロン毛に当たるか、てか東高のヤンキーってこの時間何処でたむろしてるんだ?! 唯一知ってる場所と言えば、学校近くのコンビニしかない・・・行ってみるか! キモロン毛を見つける為走り出した!


 学校近くのコンビニ着いた。キモロン毛の姿いないが、6人ぐらいガラの悪い奴はいる。「おいお前ら!」


 「あ? なんだよ」


 「蛇と名乗るキモいロン毛は何処だ!」


 「ちっ、カモ高の日脚かよ。さぁな? あの人何処にいるんだろう」


 こいつら言動からして1年か「アイツに用がある、今すぐここに呼べ!」俺が言い終わるとぞろぞろと囲って来やがった。


 「お前調子乗んなよ。俺たちが1年だからって下に見やがって! 聞いたぜ、昼先輩にボコボコにされたんだってな」


 「だからなんだよ、用があるのはキモロン毛だけだ。三下に用はない! いいからさっさと呼べや!」


 「偉そうな事言いやがって!」一人が耐え切れず殴りかかって来た。その攻撃をさらりとかわし、開いた隙間から抜ける。


 「ぐはっ!」俺の後ろにいた奴の顔面にパンチが当たってその場に倒れた。


 残るは5人。さっき殴りかかって来た奴の背中に蹴りを喰らわす。「いいからさっさと誰か呼べ!」しかし誰も聞く耳を持たず、襲い掛かって来た。


 「舐めてんじゃねぇ!」


 「めんどくさいな!」的確に一人ずつ相手をする。やはり2年や3年に比べれば大した事無い。ものの数分で全員倒す。「そう言うのいいから、さっさと呼べや!」全員の財布から学生証を取りながら一人ひとり聞いて回る。


 「俺知らねぇよ・・・」


 「俺も・・・」


 「携帯壊れて持ってねぇよ・・・」ホントだろうな、全てのポケットを調べてが出てこなかった。


 「俺MP3プレイヤーなんで・・・」嘘つけ! ・・・ホントに出てきたよ。令和だぞ! もうちょっと時代考えて生きろよ!


 「・・・・・・」残るはコイツだけか、ポケットかっらスマホを奪って奴の指でロックを外して友達リストを眺めてる、と書かれた奴を発見した。


 「コイツで間違いないな」うんともすんとも言わないから直接電話して確かめる事にした。


 「なんじゃ、どないしたん?」この田舎者みたいなしゃびり方、間違いない!


 「俺だよ、キモロン毛」


 「その声・・・日脚か?!」


 「お前今日イデヨカでうちの女子生徒から財布盗んだだろう! 今すぐ俺に返せ!」


 「財布? なんの事か知らんがイデヨカにも行っとらんし、盗んどらん!」


 「とぼけんな! いいからコンビニアッとホームに来い! 昼の借りも一緒に返してやるからよォ!」


 「はぁ、わしが喧嘩売られるとはなぁ。けどすぐには行けん」


 「逃げんのか!」


 「違う! お前より優先しなきゃいけん用事があるだけじゃ! 18時以降なら予定が付くんじゃがなぁ」


 「ヤンキーの癖に喧嘩より優先するのかよ」


 「ヤンキーでも喧嘩よりも優先する事あるわ!」


 「おい! クソ、切られた・・・」


 キモロン毛が盗んでないだと?! 嘘の可能性もあるが、もう一つの可能性も疑わないといけない。西高のばなな・・・コイツにも問い詰めないとな。再び会長に電話する。


 「プー プー プー」電話に出ない。仕方ない、自力で探すか。




 西高の校舎は本町エリアにある。地下鉄の駅が近いため、よく駅前にいるのは中学の時聞いた事がある。着いてみると確かにちらほらいる、手あたり次第聞いてみるか。「すいません! 西高でばななと名乗る女子生徒知りません?!」


 「ばななちゃんですか? はい、いますけど」


 「何処にいるか知りません?!」


 「さぁ、ちょっとわかんないです」


 「そうすか」


 次だ次!


 「あの! 西高でばななと名乗る女子生徒知りません?!」


 「・・・・・・」あ、無視された。次だ!


 「西高でばななと名乗る女子生徒知りません?!」今度は話すら聞いて貰えず避けられてどっか行っちゃった。


 「クソ、あの!・・・」


 「きゃあ!」叫んでどっかに行っちゃった。ダメだ、誰も聞く耳を持たない。場所変えて聞きこむか。


 俺はもう少し学校近くまで走り出した。しかしなんでこうヤンキー探すのにこんな苦労するんだ。こっちは一方的に見つけられて喧嘩吹っ掛けられるのに、いざ俺が探そうとなったらこうも見つからないんだ。時間ないってのに!


 「キャア!」


 「うわっ!」曲がり角で出合い頭にぶつかってしまった。「すんません! 急いでたもんで」


 「いえ、わたくしも前を見ていないもんで・・・」起き上がると、女の人とぶつかったせいでカバンの中身が地面に散乱していた。


 「すいません、すぐ拾いますんで! こんな時にもう~」つい愚痴が口に漏れながらも、1個1個拾っていく。


 「あ、結構ですよ、急いでいるならそちらを優先した方が・・・」


 「いや、俺が走って回り見てなかったのが悪いんで、大丈夫すよ」


 「いやいや私も急いでたので」お互いに言い訳をしながらも散乱した中身をかき集める。てかよく見たらこの人、西高の生徒か。大人びた雰囲気に三つ編みの赤茶色の髪。スカートも規定通り膝下まで綺麗に着こなした西高の制服を着た彼女はどこか育ちの良さを感じる。


 「あの、こんな時になんなんですが、西高のばななちゃん知りません?」


 「ばななちゃん・・・今年入って来た、薄いピンクの髪の1年生ですか」


 「おまけに趣味の悪いバットを持ってるんですが」


 「わたくし知っております!」


 「ホントですか! 今どこ?」


 「えっと、そこまでは・・・」マジでどこにいるんだよあのばなな! 「ばななちゃんがどうかなさったのですか?」


 「実はさっきイデヨカでうちの女子生徒の財布盗んだんですよ」


 「ぬ、盗み! あぁ・・・よもやうちの生徒がそのような事を」聞いた瞬間、貧血を起こしたように姿勢が崩れた。


 「だ、大丈夫ですか・・・」


 「不良少女とは聞いていましたが、まさか犯罪までに手を染めるとは・・・いくらですか?」


 「詳しい額までは聞いてませんが・・・5万の絵の具を買うつもりだったんで、最低それぐらいかと」


 「それでそのお方は、絵の具を買えなくなったのですか?!」


 「今イデヨカで大事に抱えながら待ってます」話し終わると慌てたように戻したばかりのカバンの中を漁り。


 「5万円ですよね!」財布から何か取って俺に握らせ「この度はわたくしの生徒が大変ご迷惑をおかけしました! 彼女に代わって、生徒会長であるこの成田万葉なりたかずはが代わりに弁償いたします!」


 手を開けると、綺麗に丸められた1万円札5枚があった。「え・・・いや、いやいやいやいや! 何考えてんですか、受け取れないですよこんなの!」すぐ返そうと手を掴んで渡そうとする。


 「何を言うんです! 受け取ってください!」


 「お金ならあのばなな捕まえるんで大丈夫ですよ!」


 「今はばななちゃんを見つけるより、彼女に渡して絵の具を買うのが大事だと思います!」


 「いやでも!」


 「でもじゃありません! を買うという事は、彼女は人生を賭けた大きなコンテストに出すはず! そして近いので言えば、室上グループ主催の第3回絵画コンテスト! このコンテスで入賞すれば、絵は世界1周旅行の船内に飾られ、一躍世界に名を轟かすアーティスト画伯になるのです! その締め切りが今週末なのですよ! ここは見えないイタチの尻尾を追うのではなく、このお金を彼女に持っていきなさい!」


 なんでこの人の方が俺よりも事情詳しく知ってんだよ・・・「いや、でも・・・」


 「あなたお名前は?」


 「え? 本田日脚ですけど」


 「あなたは今、一人のを持っているのです。そのつぼみが絶対開花するとは言い切れません。けどあなた今は、彼女のつぼみが開花するを潰そうとしているのです!」


 お、俺が・・・可能性を潰す?


 「つぼみを潰す権利は誰にもありません。私の言葉が理解できたなら、今すぐ彼女のに届けなさい。本田日脚」


 なんだ、この人。妙に説得力があると言うか・・・なんか頭の中に直接語り掛けて考えを変えてくるというか。なんか、このお金を届けるのが正しいと思えてきちゃった・・・


 「わかりました。俺、行きます」5万円ポッケに突っ込んで、イデヨカまで全力で走り始める。

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