第十五話! 山崎洋色大辞典は一流の芸術家の要望に作られた特別な絵の具! 色を目で選ぶのではなく、秘められた意味を頭で選ぶ一級品!
「じゃあ・・・行きますか」あまり気乗りしないなぁ、月美さんを先導する形で歩き始めた。・・・うん? なんか後ろから強く引っ張られた。
「ちょっと! 何前歩いてんのよ!」振り向くとブレザーの襟を引っ張ていた。
「え?! いや、イデヨカまで案内しようと・・・」
「あんたが前にいたら、後ろの私知らないうちに誘拐されちゃうでしょ!」
「はい?」意味が分からない・・・この人は何を言ってるんだ?
「私知ってるのよ! あなた実はグルなんでしょ! 自分から先導して安心させて、薄暗い路地に差し掛かったら仲間に誘拐させるよう指示してるんでしょ!」
「・・・あの、ヤンキーはカマイタチじゃないので、誘拐ぐらいすぐわかります」この人もかしてヒステリック・・・「じゃあ、先輩の後ろならどうです? それなら誘拐される心配も無いとは思うんですけど」
今度は後ろに回ろうとしたら、全力で阻止された。「馬鹿じゃないのこの変態! あなたなんかに背中預けられる訳ないでしょ!」
「えぇ・・・じゃあどうすればいいんですか」あれもダメ、これもダメ。いちいち注文が多いなこの女。
「横にいて」
「了解です・・・」言われた通り先輩の横に付いた。
「なんで車道側に立たないの!」この女・・・! 荒げたい気持ちを押し殺して車道側に立った・・・て、急に手を握られた!
「な、いきなり何するんですか!」急いで振りほどこうとするが、思いのほか強く握られてピクリともしない。「ちょと! 何すかそれ!」お互いの腕に手錠を繋がれた。
「これも私の保身の為よ」そしてポケットからなんか黒くて角みたいなものが生えたモノを首に突きつけられる。「ちょっとでも変な事したら、この20万ボルトのスタンガンで殺すわよ!」
「す、すたんがん? 何でそんなモノ持って・・・」
「早く歩けよ! このクソヤンキーが! 時間がないんだよ、イデヨカまで連れてけ」
「は、はい。歩くからそれしまってください・・・」もう嫌だ、コイツヤンキーの100万倍怖いんだけど。もう護衛と言うより、俺が脅迫されて人質みたいになんてるし・・・俺は怯えながら先輩と歩き出した。
学校からイデヨカまでは約10分程。いつもは少し長いと感じるが、今回は片道1時間の距離に思えてきた。すれ違う人は何度も俺たちの事をちらちら見てくる、絶対この手錠のせいだ! 心の中で変態2人組だと思われてる・・・「あの、恥ずかしくないんですか」俺は耐え切れずに先輩に話しかけた。
「黙れ! 喋るな! こっち見るな!」汚物を見るような目と共に返され、首にスタンガンを当てられ
「たああああああああああああああああああああああああ!」稲妻が体中を駆け巡り、人がいる歩道に倒れる・・・
「さっさと立てやカス!」朦朧とする意識でもお構いなしに無理やり立たされた。
「おれなんかやりました・・・」
「生きてるだけで害悪なのよ!」シンプルに理不尽で酷い・・・そして沢山の人間の冷ややかな目線を浴びながら何とかイデヨカまで着いた。
特に話す事も無く、終始無言で迷わず3階の文具売り場まで連れられた。
「山崎のマゼンタ#e4007f M897・・・前はここにあったんだけどな。クソ、誰かに買われたか?」ぶつぶつ独り言を言いながら血眼で流す。現物はこの人にしかわからないから、探しようがない。というかまたスタンガンを喰らいたくないから余計な事はしたくない。
「あぁもう! こんな時に」何か慌てたようにポケットを物色し始めた。
「どうしたんですか? そんなに慌てて」
「うるさい黙ってろ! ・・・あった!」何か見つけて自分の手錠を外して足早にどっかに行った。
「あの、何処に・・・あ~」トイレか。お手洗いくらい通じるのに、どんだけヤンキーを野蛮な生き物に見てるんだ。
でもただ待つのもあれだから、店員に聞いてみるか。「あの、すいません」近くにいたおじさんの店員を捕まえて「山崎のまぜんた何とかって言う絵の具探してるんですけど、わかります?」
「山崎のマゼンタ・・・ちょっと待ってくださいね」店員はインカムで何か話し始めた。「あ、絵の具ですね。ご案内致します」場所まで案内し始めた。さっきまで探してた場所とは別の場所に連れられた。「この棚の一番下にあるのが、山崎のマゼンタです」
「これ・・・がですか」絵の具と程遠いい梱包された高級感のある箱。手にって蓋を開けると、赤い布の上に1個だけちょこんと乗った絵の具があった。「絵の具一つに大げさな装飾だな・・・でも500円と意外と安いんだ」
「いえ、当店は上の値札じゃなくて、下の値札です」
「下の値札・・・うぐっ!」ご、5万! たかが絵の具如きに諭吉さんが5枚も飛ぶのかよ!
「あの、大丈夫ですか?」
「え? あぁ、買うの俺じゃないんで大丈夫です」これで金足りないなんて無しだからな。俺は大事そうに持ってレジ近くで先輩を待つ事にした。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・遅い。かれこれ10分は過ぎたと思うが、一向に戻ってこない。あの人の連絡先知らないから電話やメッセージ飛ばせないしなぁ・・・行きたくはないけど、トイレ行ってみるか。
「あれ、いない」様子を見にトイレの前に着たが、姿が見当たらなかった。あまり女子トイレをじろじろ見るわけにはいかないけど、もしかして中で倒れてる可能性もなくはないしな。俺は角度を変えながら周辺をウロチョロしてると、自販機の陰になっているソファーに座っていた。「先輩、探してた絵の具・・・どうしたんですか?」
顔を手で覆って泣いている。「何があったんですか!」
「ほ、ほっといて・・・」
「いやほっとけないですよ! ちゃんと俺に話してください」
俺が問いかけると、渋々顔を上げて「お、金、財布盗まれた・・・」
「盗まれた! 誰に?!」
「不良に、トイレから出た時に襲われて・・・うわぁぁぁぁ、これじゃあ買えないし、コンテストにも出せないし、優勝もできない・・・せっかくおかぁちゃんが必死に働いてくれたのに・・・」
い、いろいろと事情深そうだけど「とりあえずその財布なら俺が取り返します! だからどんな奴か、具体的に教えてくれませんか?」
「ひっく・・・わからない。顔見てない・・・」
「見てない!」
「なんか、かぶせられて・・・わかんなかった」
「マジかよ」顔がわかんないじゃ、探しようがないなぁ。「なにか、こう、なんか特徴とか無いですか? どんな声だったとか」
「わかんないよ! ホントに一瞬だったんだもん。何かかぶせられて、体触られて、気づいたら財布とスタンガンなくなってた」
ホントにヤンキーなのか、マジのスリに会ったと言ってもいいレベルのじゃん・・・
「あ! 思い出した。長い髪」
「え? 長い髪?」
「布越しだけど、薄っすら一人だけ髪が長かった!」
「長い髪ですね! 俺が絶対見つけて取り返して来るので、これ持って待ってください!」微かな情報だが長い髪ならここ最近2人だけ見当がつく。大きな賭けだけど、今はこれに乗るしかない! 俺は絵の具を渡して犯人を捜しに走り出した。
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