第十壱話! 刑法第235条。他人の財物を故意に持ち去ることや無断で使用することを禁止する。違反して窃盗を犯した者は刑罰によって処罰される。

 同日 午後14時29分 イデヨカ3階 ナポリ・マッタリーレラ


 正門の掃除を終えた俺と会長は遅めの昼飯を食べに学校を抜け出した。本来なら2人とも授業を受けないといけないんだけど「私、勉強道具持ってきてないから今行っても授業の邪魔になるだけだし、せっかくだから美味しいもの食べたい!」と、生徒の鏡が非行生徒とマタリに行く事となった。


 リーズナブル格安なイタリアンが楽しめる事で有名なファミレス。俺たちのような金がない学生の行きつけの店。よく試合の打ち上げに使わせていただきました・・・


 「祝! 私と日脚君の復活を祝って、カンパーイ!」


 「・・・」


 「て! もう全部飲んでるじゃん!」


 「だって・・・1の食事なんだもん」今すぐにでも目の前の辛辛チリンを口に入れたい。


 「全部来るまで食べちゃダメだよ」


 「1個ぐらい、いいじゃん! 


 「かわいそう・・・市民病院ってヤンキーにはご飯食べさせてくれないんだ」


 「んな訳ないじゃないですか、多分ドロドロしたものを直接胃に流し込まれたと思いますけど」


 「あ~ぁって奴か」


 「だと思います」


 今更赤ちゃんに戻らされてたまるか。そんなやり取りをしてる間に料理が運び込まれた。


 「お待たせしました~デミハンバーグとナポリのドリアになりま~す。伝票こちらに入れておきますね~」


 店員のお姉さんが置いた瞬間、空腹が絶頂にたして理性がわからなくなって、気づいたらフォークで刺してハンバーグを丸ごと口にほうばっていた。


 「確かに・・・状況が状況ね」呆れた顔でこっちを覗く会長。多分拝めるの今日だけですよ。


 「他にも追加する?」


 ハンバーグを飲み込んで「また言いますけど、お金あるんですか?」


 「うん。結構入ってた」


 「何処にですか?」

 

 「学生証取るついでに全員の財布の中身も盗っといたから」


 「ちょ! おえ、ゲホ! ゲホ!」コーンが喉に詰まったじゃんか! すぐにコップ持ってドリンクバーにケシコをつぎにいく。


 なに考えてんだよあの女! 当たり前のように金盗んで・・・


 「1435ヒトヨンサンゴ。マル対、2杯目のコーラを注ぐ」


 うん? 今なにか聞こえたような・・・気のせいか。自分の席に戻る。


 「なに当たり前のように盗んでるんですか、犯罪ですよ」手で口を隠して他に聞かれないよう問い詰める。


 「だってそれがヤンキーじゃん。殴られたなら殴り返す、盗られたなら盗り返す」


 「バレたら退学どころじゃ済みませんよ!」


 「ヤンキーが隠れて警察に言うわけないでしょ、言ったら負けた事がバレるから誰も言わないのよ」


 余程プライドという物が大事なのか、ヤンキーってモンは・・・「・・・因みに全部でいくらなんですか」


 「全部で4万円。しっかり全部掠め盗ったから」


 「よ、よんまん?!」お年玉でさえ1万円までしかもらったことないのに。


 「へへへ、お代官様。いっときますか」ゲスい顔でメニューで一番高いワギュウサーロイン200グラム3000円をコツコツと指で頼まないかと誘惑してくる。


 「・・・・・・ゴクリ」ダメだ! 胃と頭がバグって正常な判断ができない・・・


 「ワギュウ・・・サーロインだってさ」ま、負けるな俺! 超えちゃいけない後には戻れない境界線レッドラインだぞ!


 「・・・・・・いっちゃいますか」俺は静かに呼び出しボタンを押した。


 「ワギュウサーロイン2つください!」


 「お時間少々いただきますけど、大丈夫ですか~?」


 「いつまででも待ちます!」


 「サーロイン2入りま~す」


 俺は悪くない、悪いのはこのダメ人間だ。


 「ぷぷぷ、日脚君って意外と育ちいいんだね」


 アンタが人一倍悪すぎるだけなんだよ。・・・それよりも、なんだこの気持ち悪い感じは。


 「日脚君のお母さん、厳しそうな人だもんね」


 ずっと誰かに見られてるような感じがする・・・あの女のウェイター。


 「黒いスーツ着てて、凄い仕事のできるキャリアウーマンって感じの」


 他にも席があるのに、あの女なんで近くに立ってるんだ、胸のポッケにペンなんか入れて。注文はスマホみたいな機械で取るから使わないはずじゃ。


 「ねぇ、聞いてる? さっきから上の空なんだけど」


 こっちから仕掛けるか。テーブルの上にあるボールペンを素早く取って机の下に隠す。「すいません~店員さん」わざとあの女に聞こえるよう呼んだ。


 すたすたとこっちに来て「お呼びでしょうか~?」


 「アンケート書きたいんですけど、ボールペンがないんで貸してください」


 「ボールペンならテーブルの上に・・・あれ、ない?!」


 「すぐに新しいのをお持ちしますので・・・」


 絶対に逃がさん!「ペンならあるじゃないですか、胸に1本」


 「これは・・・その」


 「いいから!」強引に胸からペンを取り上げる。


 「きゃあ!」


 「ちょっと日脚君! なに考えてんの!」


 このペンの引っ掛けるとこにあるはず・・・あった! 付け根の部分に小さな丸いくぼみみたいなものがある。こうして見ると普通のペンにしては少しデカいな。「この女ずっと俺たちを盗撮してたんですよ!」


 「なにバカな事言ってるの! そんなペンで出来るわけが」真ん中から引き抜いて充電する部分を見せる。


 「中学の時、同じ嫌がらせにあったからわかるんですよ。お前! こんな事してなにが目的だ!」


 「・・・・・・・・・!」


 「あ、逃げた!」 問い詰めるとそのまま店から出てしまった。後を追うべきだけど、会長を一人にするわけにはいかない。


 「もしかしたら、今の店員さんの生徒かもしれない」


 「なに?!」


 「南高は他のヤンキーと違って正々堂々正面から仕掛けてこず、まずはターゲットマル対を決めて念入りに偵察して、見えない所でボコボコにする陰湿な集団なの」


 「それはもはやヤンキーとは言わない気がするんだけど・・・」


 謎過すぎる南高のヤンキーかぁ・・・常に警戒しなきゃ。


 「大変お待たせしました。ワギュウサーロインでございます」


 「よ! 待ってました!」一悶着が終えた後、熱々の鉄板に乗せられたステーキが運ばれて来た。「ねぇ、早く食べよう!」


 「そ、そうすね!」旨そうな肉を目の前にもうあの女の事なんかどうでもいいや! 


 「あの、日脚様でお間違えないですか?」急いでフォークとナイフを取ってありつこうとした時だった、運んで来たおじさんの店員に呼び止められた。


 「え? あ、はいそうですけど」早く肉食わせろよ。


 「警察の方が、店の前にいらしてます」


 「え? けいさつ・・・?」言われた通り見てみると、確かに警察の格好をしたお巡りさんが2人立っていた。まさか・・・お金盗んだのバレたんじゃあ?!


 「日脚君。お肉は私が責任もって食べとくから、行ってきなさい」しれっと俺の鉄板から肉移されたんだけど・・・


 恐る恐る店から出てお巡りさんに歩み寄る「な、なんすか・・・」お金の件じゃありませんように!


 「勝手に病院抜け出しちゃダメだろう。先生メス持ってカンカンに怒ってるよ」


 「なんだ、病院の事か・・・」心配して損した。「食べ終わったらちゃっと戻るんで、待っててください」


 「いや待たないね」2人がかりで腕を掴まれた!


 「いやでも、肉が」


 「抜け出した生徒を確保。これより病院に連れ戻します」


 「あぁちょっと! まだ肉食べてないのに~!」抵抗むなしく警官2人に身動きを封じられ、そのまま連れて行かれる・・・

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